Liar 21





二度目の長期休暇の前にはどの教科も課題を出させるように仕組まれていた。

勿論、休暇明けが提出期限だがイザークはプラントに戻ったらそれどころではないだろう。

毎日徹夜な日々を送っていた。

当然学校も毎日有り、段々フラフラになっているイザークを見てが心配そうな表情を浮かべて見ていられないと口を開いた。

「あのさ、レポートで扱うデータとか纏めておこうか?」

見るに見かねてが言う。

断ろうと思ったイザークだったが、体を壊してしまっては元も子もない。

それに、は自分で積極的に学んだかどうかまでは分からないが、民俗学に精通している。

そういえば、自分が目にしたことのあるカイト・氏の本のあとがきには必ず娘の存在が出てきていたような気がする。

『娘の合格がもらえたので出版することが出来た』など。

なるほど、確かにちょっと厳しそうだ。

「すまないが、レポートの方よりも論文の方を頼みたいんだが...同時進行はやはりキツイから」

この長期休暇が終わって数ヶ月学校に行ったら1年の履修過程が終わる。

イザークは留学生で、もうプラントに帰るのだから論文の提出をしなければならない。そうではくては、あの学校での履修を認めてもらえないことになる。

別に学歴とかそういうのを思ってイザークは論文を提出するのではないだろうけど、やはり自分の学んだことの集大成を形にしたいに違いない。

イザークの言葉には頷いた。

「大丈夫。テーマは?図書館に行って資料も集めてみるけど?」

信仰とそれにまつわる慣習をテーマとしているようだ。

イザークの言うそのテーマの書籍のタイトルがいくつか浮かんだ。

だが、このテーマは父が好きでよく取り上げていたものだと思い出す。


イザークが学校に行っている間、は図書館に行き、その帰りに夕飯の材料を買って帰るという日々を送った。

前までは用事がないためあまり外に出ていなかったが、イザークのお遣いのお陰で外の空気を吸うことが多くなった。

イザークのための資料を借りてくるのと同時に自分のための外交史の参考書も借りてくる。

イザークに何か聞かれたら、図書館で見て面白そうだったからといえばきっと納得する。

久しぶりに頭を動かしている気がしてきた。クモの巣が張ったようなイメージの頭の中だったが、段々綺麗に掃除されていっている。

本を読むと昔学んだことも思い出して、懐かしい。

資料のデータを纏めるのはイザークのパソコンを借りている。

時々、休憩がてらに昔の新聞の記事を検索してみる。

自分の知らなかった当時の情勢を知る。

この数年のうちで本当に世界は沢山いろんな方向に転がって迷走した。

今、この世界になったのはあの紆余曲折があったから。

しかし、あの紆余曲折は本当に必要だったのだろうか。この、今のものと似た世界はそれ以外の方法で作れたのではないか。

は頭を振る。

今、そんなことを言っても仕方ない。

外交史を学ぼうと思ったのは、これからの世界の事を考えて自分で選んだ。過去を知りたかったわけではない。

たぶん、データの整理はイザークが長期休暇に入る前までには間に合わない。これが出来た頃、イザークはきっと休暇の真っ只中で空の上だろう。

そして、仕事をしているのだろう。


は息を吐いて立ち上がった。

疲れているんだな。

寂しいと思うってことは弱っている証拠だ。

少し、休もう。

イザークの部屋から出るとそこにはイザークが居た。

「ああ、びっくりした」

目を丸くして言うに「ああ、すまない」とイザークが返し「ただいま」と言う。

「お帰り」

随分と言い慣れてしまったな。

は睫を伏せて口元をほころばせる。

「あ、パソコンちょっと待って」

そう言って部屋の中に戻り、先ほど纏めたデータを記録した。

「コーヒー飲む?」

「ああ、貰おう」

イザークも部屋に入り、の言葉に頷く。

「じゃあ、服を着替えたら出といで」

は一言そう言って部屋を出て行った。

イザークはが出て行ったのを確認して深く息を吐く。

先ほど帰って「ただいま」と声を掛けたが返事がなかった。

部屋に居て聞こえなかったのかと思い、ドアを開けてその隙間からの姿が見えて声を掛けようとして言葉が出なかった。

泣いているのかと思ったから。

胸の内がざわざわと騒ぐ。

落ち着かせるために一度深呼吸をしてシャツのボタンを外す。

中々部屋から出てこないとが心配するだろうから、手早く着替えてドアを開けた。

案の定、少し心配していたようでほっとした表情を見せる。


「プラントに一緒に来ないか」

その一言を口にすることが出来ない自分に改めて溜息を吐いた。









桜風
09.5.15


ブラウザバックでお戻りください