| 長期休暇を1週間後に控えたイザークが溜息を吐きながら朝食を摂っていた。 「美味しくない?」 がそう聞く。 自分の作ったサラダを口に運んでは溜息を吐くイザークを見て心配になった。 「いや、美味しい。...今日、帰るのが遅くなると思う。気にせずに寝てろよ。夕飯もいらないから」 イザークが重く言うその言葉には首を傾げた。 「珍しいね」 「初めてだ。面倒くさいし、ずっと断り続けていたんだがな。今回はゼミのクラス全員に取り囲まれて...最後になるだろうし、と思って一応了承したんだ」 「嫌そうに、言うね」 が訝しがってそう言う。 イザークは特にお酒が苦手そうでもない。 「あいつらの酒癖の悪さを噂で聞いててな。それが面倒だと思っていたんだ」 なるほど、とは納得し、 「ま、精々頑張りたまえ」 と胸を張って言った。 そんなの様子をイザークは一瞥したあと、また溜息を吐いた。本当に気の重い話だ。 イザークが遅くまで帰ってこないと安心して自身の勉強も出来る。 頼まれたデータの整理に疲れたら自分のしたい事。 その繰り返しをしていると意外とはかどる。 もしかしたら、イザークがプラントに上がる前に論文のデータは纏められるかもしれない。 そんな事を思いながらすごしていたらいつの間にか夜になっていた。 イザークが夕食を要らないと言っていたので、昼に少し多めにおかずを作っており、それを夕飯に食べた。 遅くなるといっていたが、本当に此処まで遅くなるとは... 時計に表示されている日付がひとつ大きな数字になった。 ももう寝ようと思い、自分の寝床であり、同時にお客様の寛ぎの場であるソファで毛布をかけて寝た。 どれくらい時間がたったのか分からないが、なにやら音がする。 泥棒か...!? そんな事を思いながら、そうっとソファから顔を覗かせて玄関の様子を伺った。 ガチャガチャという派手な音がしたかと思うとドアが開き、そのままゴトリと音がした。 あ、おでこでもぶつけたか? は毛布から抜け出して玄関に向かう。 思ったとおりその場に居るのはイザークでうつぶせに寝ている。 「おーい、玄関で寝ないでー」 細身とはいえ、イザークは男性でありが簡単に運べるような重さではない。 腕を引っ張るだけでも重い。 何だ、いつも軽やかに歩いているのに!! 文句を言いたいが、酔っ払いに何を言っても無駄だろう。 は屈んでイザークの顔をぺちぺちと叩いた。 うっすらと瞳を開くイザークに 「寝るなー。此処で寝たら死ぬぞー」 ととりあえず言ってみた。 イザークは緩慢な動作でとりあえず中腰になり、の顔をじっと見る。 「あっち」といってはイザークの部屋を指差した。 一歩一歩ゆっくりまっすぐ歩けず千鳥足状態でイザークは自室に向かう。 千鳥足ってのを見たのは初めてだ、と思いながらはキッチンに向かってとりあえず冷蔵庫から水を取り出してコップに注いだ。 残念ながら健康そのものな2人の住んでいるこの家には胃薬などの気の利いたものはない。 部屋のドアをノックして「入るよ」と声を掛けてドアを開けた。 イザークはベッドに座って俯いている。 「大丈夫?」 そう言いながらがコップを差し出し、「悪いな」とイザークがそれを受け取った。 何だ、凄い。もう酔いが醒めたんだ。さすが元軍人と言うか、コーディネーターと言うか... そんなことを思いながらはイザークが飲み干したコップを受け取った。 「じゃあ、ね。着替えて寝ろとは言わないから。大人しく明日の二日酔いに備えて寝ちゃいな」 はそう言ってイザークに背を向けた。 しかし、イザークに腕を捕まれてさらに強い力で引っ張られての体は向かった方向とは逆に動く。 その勢いのまま、はイザークの上に乗っかる形になった。一瞬、誰かが見たらがイザークを押し倒したのと勘違いしそうな状況だ。 「いたた..ちょっと、こら。酔っ払い!」 文句を言おうとイザークの目を見たら言葉が出なくなった。まっすぐに見詰められて頭が真っ白になったのだ。 が膝の上に乗っているのにも拘らず、イザークはそのままひょいと上半身を起こした。 「...」 掠れた声で名を呼ぶ。 動揺したは返事も出来ない。 「俺と一緒に、プラントに来ないか」 はどう言っていいか分からず視線を彷徨わせていた。 決めていたことだ。それには頷けない。こう言ってもらえただけでもきっと幸せなことなんだ。 口を開くと、言葉を紡ぐためにあるそれをイザークによって塞がれる。 驚きのあまり、突き飛ばすことも受け入れることも出来ないまま、イザークの唇は暫くの言葉と呼吸を溶かしてやがて離れる。 再びイザークの顔が近づき、の首筋に唇を寄せる。 は何とか自分を取り戻してイザークの顔を自分から離してぺちりとその形のいいおでこを掌で叩いた。 「まだ酔っ払ってるな」 「俺は酔ってない」 「それは、酔っ払いの常套句」 そう言ってはイザークから離れる。 「寝なよ」 先ほどイザークのお陰で床に落としたコップを拾い上げる。 カーペット敷いてあって良かった...コップは割れていない。 そんな事を思いながら部屋を後にする。 「おやすみ」とドアノブに手をかけて部屋を出て行った。 振り返ったときイザークと目が合い、彼の少し寂しそうな表情に何だかズキンと心が痛んだ。 |
桜風
09.5.15
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