| ラクスに連絡を入れたはずなのに、出てきたのはディアッカでヘラヘラと笑っている。 「ラクス・クラインは?」 「あ、仕事が入ったって。で、俺がイザークのための留守番。感謝しろよ〜」 変わらず軽い口調の同期にアスランは苦笑を漏らす。 「久しぶりだな。夏に、オーブに降りてきてたんだってな」 「んー、まあ。普通に観光をしにね」 アスランの言葉にディアッカは歯切れ悪く答えた。顔を出さなかったのが少し後ろめたいのだろうか。 「そんなことはどうでもいい」 イザークはとりあえずその一言で2人の会話を強制終了させて自分の用事を済ませる。 「そういや、今回はも上がってくるんだろう?」 一通り話をしたあと、ディアッカが当たり前のように聞いた。 「何故?」 イザークは眉間に皺を刻んで問い返す。 「だって、前は長かったってのもあるから上がって来れなかったけど、今回なんて10日くらいだろう?オレも時間空けられるし、この間のお返しにオレがプラント案内してあげるつもりだし」 ディアッカの言葉にイザークは溜息をついて「たぶん、上がってこんぞ」と言った。 「何で!?」 色々と計画を練っていたのに。 「いや、俺が...データのまとめを頼んでいるしな。論文の。結構骨が折れると思う」 「イザークのせいじゃん。の青春をイザークが奪うなよー」 ディアッカの責める言葉は右から左に流していて適当なところで「もう切るからな」と言って通信を切った。 相変わらずうるさい奴だと思って溜息をつく。 しかし、「へー、ちゃんっていうのか」という別の声には驚いて振り返った。 「ラミアス艦長、お久しぶりです」 オーブに降りてきて初めて会う知人に軽く会釈をした。 彼女はオーブのモルゲンレーテに勤めているため、この行政府に居ることは非常に珍しい。 「オレは無視かい」 彼女の隣に立つ人物は不服そうに呟いた。 「...久しぶりです」 イザークは面倒くさそうに一応マリューに対して口にしたのと同じ言葉を言った。 「もう、久しく艦長ではないんだけどね。元気そうね、イザーク君。オーブに降りてきているって聞いたけど、初めて会うわね」 「でも、まあ。オレたちはお前を見たことはあるんだけどな」 何故か自慢げにマリューの隣に立つフラガが言った。 「いつ?」 「この間。っつっても結構前だな。ほら、ハウメアの祭り。行ってただろう?」 「ああ、秋の?」 イザークが聞き返すと「そう、それ」と指差してフラガが頷いた。 「イザーク君、女の子を負ぶって階段昇っていたでしょう?声を掛けたものか悩んで結局声を掛けなかったの。少し、急いでいたようだったし」 マリューの言葉にイザークは頷く。 確かに、少し急いでいた。 あそこで呼び止められていたら足を止めないわけにはいかなかったし、そうしたらを負ぶった意味がなくなる。 「しかし、坊主もやるね。女の子とあの祭りに行くなんて」 そんなフラガの言葉にイザークは首をかしげた。 「あら、知らないで行ったの?」 マリューは意外そうな表情で言った。 「あのお祭りの意味は、知っていたのよね?」 「豊穣祭ですよね。今はオーブの唯一神となっているハウメアは元々海の女神で、オーブの誕生に深く関わっているとか。今は唯一の神だから何でも彼女に感謝を捧げるとか」 イザークの言葉にマリューは頷いた。 「でも、ハウメアにはもうひとつ、というか元々それが彼女の司っているものだったらしいけど。ハウメアは“恋人たちの女神”って言われているの」 知らなかった。から聞いていない。 いや、自分で調べれば良かったのだが、結構詳しく教えてもらったし、彼女自身がそういう神話や宗教に詳しいからそのまま鵜呑みにしてしまった。 「あのお祭りでキスをしてはいけないのは、知っているかしら?」 「ええ、聞きました。ハウメアに祈りを捧げるための口を塞いではいけないから、と」 「そう。でもね、ハウメアに捧げる祈りを口にしたそれはハウメアの祝福を受けたことになっているの。だから、その祝福を恋人に分けるのよ。ほっぺや、おでこにキスをしたりしてね」 「...へえ?」 本当に初耳だらけだ。 「イザーク君は民俗学を専攻しているって聞いたから知っているかとも思ったけど...」 「いいえ、初耳でした。俺が研究しているのは違う地方のものでしたので、勉強になりました」 イザークは丁寧にマリューに礼を言う。 きっとの事だから、これも知っていたのだろう。 知っていて、何故隠すのか。 ...今日、頬といえどキスをしたら怒られるかな? もう、時効だろうな。そもそも祈りなんて捧げていなかったしな。 マリューたちに夕飯を誘われてそれを断りながら、何となくそんなことを考えていた。 |
桜風
09.5.29
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