| イザークはさっきまでがいた辺りに向かった。 カーテンがなびくその向こうにはテラスがある。 そこへ向かうと、テラスの端で欄干に頬杖をついて外を眺めているがいた。 「大使」 背中から声を掛けると彼女は慌てて姿勢を正して少し引きつった笑顔で振り返った。はしたないところを見られたかもしれない。 だが、その声を掛けたのがイザークだと分かると別の意味でまた顔を引きつらせる。 「久しぶりだな」 「え、ええ。本当に...」 そう言った瞬間は駆け出した。が、慣れない高めのヒールを履いているためバランスを崩す。 イザークがそれを受け止め 「馬鹿だろう、貴様は。慣れないものを履いているのに走る奴があるか」 と言って叱る。 「あ、“貴様”に降格してる...」 が呟くと「当たり前だ」と不機嫌にイザークが返した。 「あの、えっと...ごめんなさい」 深く頭を下げてが謝罪する。 の言葉にイザークはチラリと彼女を見た。 「それは、何の謝罪だ?」 「色々と...ご迷惑とご心配をおかけしたかと思いまして」 イザークは「その通りだな」と溜息交じりに肯定した。 は首を竦める。 「あのとき、俺がどんな想いをしたか。考えたことがあるか?」 “あのとき”とはが出て行ったときだ。 「少しは、寂しがってくれた?」 「本当に馬鹿だろう、貴様は。俺が、何とも想っていないやつをプラントに連れて行きたいって思うと思っていたのか?!」 イザークのその言葉には目を細めて嬉しそうな笑みを浮かべる。 「それなのに貴様ときたら...!『ばいばい』だと!?ふざけるなッ!!」 イザークに怒鳴られては肩をビクリとふるわせる。 覚悟をしていたとは言え。ちょっと、怖いかも... 「で?」 苛立たしげにイザークが促す。 「へ?」 「『へ?』じゃない!こうして叱られるのを分かっていて態々上がってきたんだろう?何か、言いたいことがあったんじゃないか?」 イザークの言葉には笑みを浮かべる。 ああ、まだ面倒見のいいままなんだ。 「ヘラヘラするな!」 「何よ、うら若き乙女の笑顔をそんな表現するなんて。プラントの紳士もその程度?」 つん、と澄ましてそう言うが 「オーブのレディは大嘘つきだってことは身を以って学んだ。嘘つきに礼は取るつもりはない」 と返されて言葉に詰まる。 そして、ふと気がつく。 「ばれてたの?!」 驚いた表情のに対してイザークは少しだけ優越の笑みを浮かべる。 「残念だったな。ハウメアの話も聞いているぞ」 その言葉には頭を抱えた。 だって、あれはイザークが知らなかったから出来たのだ。 いや、そもそもああいう場所とか雰囲気じゃないと出来るはずもない。頬とは言え、キスだなんて! が頭を抱えて羞恥に耐えている姿を見ていたイザークだが、不意に真面目な顔をに向ける。 「貴様が嘘を吐かなくてはその先、生きていくのに困難だと思っていたなら少しくらいの嘘は仕方ない。必要なことだろう、たぶん。だが、自分を誤魔化すための嘘は吐くな。大切なものまで嘘で塗り固めて何処かに捨ててしまおうと無理をするな」 驚いてはイザークを見上げた。 「家族のことを思い出すのは辛いかもしれないが、それでも捨てていいものではないだろう?愛されて育ったことを誇りに思って生きてもいいだろう。・という人物は両親と弟と共に生活をして愛し、愛されて出来たものだ。それなくして今のお前はないのだろう?」 「うん」と頷くは涙声だ。 これはまずいかも、とイザークは内心慌てる。 ここでが泣いていたということにオーブ側に気づかれたらもの凄く風当たりが悪くなる。だって、イザークが泣かせたとか思われるから。いや、その通りなのだが... 「ねえ、イザーク。私沢山あなたに嘘を吐いてきたわ」 「ああ」 「両親は、もう死んでいるの。父は戦争のとき、母は過労。弟は、生きているけど記憶喪失で両親の事も私の事も..戦争も覚えていないの。でも、カガリ様に教えてもらったの。今は元気なんだって。遠い親戚が養子に迎えてくれて、ちゃんと育ててもらっているって」 「良かったな」 「私、学校に戻ったわ。昔、学校に通っていたときにお世話になってた教授のお陰で単位は以前通っていたときのものも認めてもらえたから卒論だけでよかったの。でも、それを納得しなかった先生たちも居たから、その先生たちの面接を受けて卒業できたわ」 「そうか」 「イザークにまた会いたくて、勉強して。まだ早い、危ないって心配してくれた政府の人たちを説得して、ここに来た」 はまっすぐイザークの目を見た。イザークもそれに応えるように彼女の瞳を見詰め返す。 「沢山嘘を吐いて、騙してごめんなさい。だから、私の言葉はもの凄く信頼出来ないかもしれないけど、これだけは信じてほしいの」 は一度目を瞑り、そしてまたイザークの目をまっすぐに見た。 「私、またイザークに会えて嬉しいわ。ずっと会いたかった。イザークが一緒にプラントへ、って誘ってくれたのは凄く嬉しかった。けど、そのままイザークにずっと負んぶされて生きていくなんて嫌だった。自分の足で立って歩きたかった。だから、あの時、家を出たの」 の言葉にイザークはすぐに言葉を返さずに、じっと彼女を見ていた。 |
桜風
09.6.26
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