Liar 30





暫く、にとってはもの凄く長い時間が過ぎた気がした頃、イザークは溜息を吐いた。

「貴様は、嘘を吐いた」

イザークの言葉には悲しそうに目を伏せる。あれだけ騙していたのだから信じてもらえなくても仕方ない。

悲しそうな表情を浮かべているに構わずイザークは言葉を続けた。

「言わなかったことも沢山あった。でも、それと同時にちゃんと真実も口にしていた。そうだろう?」

は驚いて顔を上げ、イザークを見た。

彼は、苦笑しながら優しい瞳をに向けている。

「情報の取捨選択は、自己責任だ。貴様の“嘘つき”には俺にも多少の責任はある。だから、今回のその言葉は信じるよ」

そう言ってイザークはに唇を寄せた。

突然のキスに驚き、さらに目の前に居るイザークがあまりにも優しく穏やかに微笑んでいたため、はどんな顔をして良いか分からない。

「俺も、に会いたかった。仕事が忙しくてオーブに降りることが出来なくて。でも、時間が取れたらオーブに降りて探してみようと思っていた。でも、お前から来てくれたな、

イザークはふわりとを抱きしめる。

「うん、良かった」

は呟いた。

暫くお互いの体温を感じていたが「、」とイザークが名を呼ぶ。

「何?」

「挨拶は全部済ませたのか?」

イザークの背に回していた手の指を折りながら人の顔を思い出す。必ず挨拶をしなければならないプラントの議員には挨拶を済ませたし、外交関係の人物にもちゃんと挨拶を済ませた。

あ...と思い出して「まだ」とが返した。

「誰だ?」

「イザーク」

の返事を聞いてイザークは呆れる。

「さっき、議事堂の中でしただろう。それに、ある程度のプロフィールは知っているし、今更だ」

と返した。

「んー、でも」とが言うからイザークは彼女から体を離す。

「さあ、どうぞ」

挨拶したいならしろ、と少し投げやりな態度で両手を広げた。

「ひとつだけ、イザークの頭の中にある私のプロフィールの訂正。わたくし、は本日、めでたく20歳になりました。やっと大人の仲間入りです」

にこりと微笑みながらドレスを軽くつまんでふわりとお辞儀をする。

「...は?貴様は20以上の数が数えられんのか?」

驚いたイザークが言うが、は苦笑してそれを訂正しない。

「狼少年の気持ちがよく分かったわ...嘘って重ねるものじゃないわね」

の言葉にイザークは唖然としていたが、やがて溜息を吐く。

「わかった。ちょっとこれから俺に付き合え。俺以外のやつには挨拶を済ませたな?」

イザークの言葉には頷く。

「よし、行くぞ」と言ってイザークはを横抱きにする。

「え、どこに!?」

突然自分の体が浮いたかと思うとイザークとの顔の距離が縮まっている。

「邪魔な奴が来ないところだ。そこで話をするぞ。もう嘘は無しだ」

そう言ってイザークは跳ねてテラスの欄干に立ち、そのまま欄干を蹴った。

「え!?ええーーー!!???」

ストン、と芝の上に着地したイザークはを抱えたまま器用に携帯を取り出してメールを打ち送信する。

「行くぞ」

「へ?あの、降ろして。戻らないと問題になるでしょ?」

「ダメだ」

のささやかな願いをあっさり却下してイザークは晩餐会の会場から遠ざかる。


会場から随分離れ、テラスに人影を見た。一生懸命手を振っている。戻って来いといっているようだ。

「...あの、テラスにディアッカの姿がありますよ?」

が声を掛けるとイザークは鼻を鳴らす。

「あいつは普段から自分が有能な秘書だと豪語していたからな。だったらその有能さを存分に発揮してもらおうじゃないか」

さっきイザークが打ったメールはディアッカ宛で、と自分の不在を誤魔化せといっていたのだ。

慌てたディアッカがテラスに駆けたが後の祭り。どんどんイザークと新しい大使としてプラントにやってきたは遠ざかっている。

「あーあー...どうすんのよ」

呆然と呟くディアッカに遅れてテラスに出てきたラクスが「あらあら」と楽しそうに呟き、カガリは遠ざかる2人を苦笑しながら見送った。。

キラとアスランは同情の視線を向けてディアッカの肩をそれぞれぽんと叩く。

「勘弁してくれ...」

ディアッカの背には同情の視線が4人分注がれた。

その後、ディアッカが以前から豪語していた通りの有能な秘書っぷりを発揮したのは別の話。


「ねえ、沢山嘘を吐いたお詫び。何をしたらいいのかしら?」

イザークに抱えられたままが声を掛ける。会場から離れたから彼はもう走ってはいない。ディアッカは今頃会場の中を走り回っているかもしれないが...

「筑前煮」

短く答えたイザークの言葉には目を丸くする。

「それでいいの?」

「それが、いいんだ。あと..」

イザークは言葉を区切り

「好きだ」

と言う。

「あら、奇遇ね。私もよ」

の言葉にイザークは頬を緩め、

「それは、よかった。これを嘘だとか言うなよ?泣くぞ」

「同じく」

は笑い、イザークに唇をふさがれる。

そういえば、まだこの話はしていなかったな。酔った勢いでイザークが自分にキスをしてきたことを話していなかった。

言ったらどんな反応をするだろうか。

はそんなことを考えていたが、長い間お互いに伝えられなかった気持ちを代弁するかのようなキスにやがて思考を奪われる。

嘘つきだった少女が次々と口にする真実に唖然とするイザークの姿があるのは、まだもう少し後の話。









桜風
09.6.26


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