| 周囲を見渡した。 そこは、少なからず殺気が漂う空間となっており、彼女は小さくため息を吐いた。 先日、農業プラントであるユニウスセブンに核攻撃があった。後に“血のバレンタイン”と呼ばれる事件だ。 武装していないプラントへのそれは、プラント市民、つまりコーディネーターのナチュラルへの憎悪を増幅させた。 この世界は、平たく言えば遺伝子操作をして誕生した『コーディネーター』とそれを良しとしなかった『ナチュラル』の2つに分かれて戦争を行っている。 とはいえ、先日の核攻撃がなければこの戦争もここまで大きなものになることはなかっただろう。 もしかしたら、話し合いで解決できたかもしれない。 (いや、それはないわね...) ちょっと甘いことを考えた彼女は睫毛を伏せて自嘲気味に笑った。 ふと窓の外を見て、自身のディープブルーの瞳に映ったその人物に驚き、足を止めた。 「何で...」 確かに、あの血のバレンタイン直後で、だからこそここは必要以上に殺気立っており、良家の子息や令嬢が少なからずここに集まってきている。 感動の再会と行きそうにない彼の姿を見つけ、少しだけ憂鬱に思った。 イザークは周囲を見渡した。 夜会等で顔を合わせたことがある者たちもいる。 (皆同じか...) 先日、非武装コロニーが核攻撃にあった。 核攻撃をしてきた地球軍はコロニーの自爆攻撃だと言っていた。 ふざけるな、と頭に血が上った。 あそこには友人の母親がいたと聞いている。 あそこに住んでいた人たちは、戦意がなかった。民間人に攻撃を仕掛けたのだ、あの地球軍は。 そして、それを自爆攻撃だという。 何と卑劣な、と思った。 そして、イザークはすぐに決めた。 自分もZAFTに入る、と。 ZAFTとは、コロニーの事実上の国軍として機能する武装組織である。 ここはアカデミーと呼ばれる、ZAFTの養成学校だ。 ここで数か月の基礎訓練を経て戦士となり、そして戦場に向かう。 以前はもう少し訓練期間が長かったと聞いているが、戦争が長引くようになり、期間も短くなっている。 要は、兵士が足りないのだ。 プラントは技術力が高く、兵器開発は地球軍に比べるべくもないが、唯一の問題点として物量の少なさが挙げられる。 繁殖能力の低いコーディネーターは次世代をはぐくむことが難しく、そういった点ではナチュラルに劣っていると評価せざるを得ない。 「よー、イザーク」 声をかけられてイザークは少なからず驚いた。 「ディアッカ?!どうしてこんなところにいるんだ」 「そりゃ、お互い様だろ」 苦笑して返された。 「エザリア様、よく許したな」 「母上は国防委員会所属だ。だが、お前の父親は中立の立場をとっているだろう」 返すイザークの言葉に「まあ、そうだけど」とディアッカは頭を掻く。 イザークの母親とディアッカの父親は、ざっくりいうと同僚という間柄である。 プラントの最高評議会の議員なのだ。 最高評議会議員は、各プラントから選出され、イザークの母親ははマティウス市、ディアッカの父親はフェブラリウス市の代表で、ただしそれぞれ取っている立場が違う。 「子供だから親と同じ立場じゃないといけないってわけじゃないだろ。オレにはオレの想いがある」 おそらく、反対されたのだろう。 「そうか」 「そういや」とディアッカは話題を変えた。 「アスランがいたぜ」 「...そうか」 「ニコルも」 「ニコルもだと?!」 心優しい、言い換えれば気が弱い幼い彼が戦争をするというのだ。 思わず強い口調で問い返してしまい、はっとした。 ディアッカは苦笑して肩を竦める。 「オレも驚いたよ。けど、そういうことなんだろ」 そう言ってディアッカは校舎を見上げた。 「あれ?」 「どうした?ああ、ラスティなら同期だと言っていたぞ」 また別の知り合いでも目にしたのかと思い、イザークはもう一人、友人がZAFTに入ったという情報を口にした。 「ああ、いや。見間違い」 (いるはずないじゃん) 昔馴染みの・の姿を目にした気がしたが、彼女こそこんなところにいるとは思えず、自分の見たものを否定した。 「そうか」とイザークはディアッカの言葉に納得し、入隊の式典会場へと向かった。 |
桜風
14.7.3
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