| 入隊式典の会場に着いたイザークは目を瞠る。 「なぜ...」 「やっぱ、か」 隣に立っていたディアッカが呟く。 「『やっぱ』って何だ?知っていたのか?」 思わず詰問するようなきつい口調になってしまう。 「や。さっき校舎の中居たし。けど、がいるのが凄く不自然だと思ったら見間違いかなって思って言わなかったんだよ。それに、凄く久しぶりだろう?」 ディアッカに言われてイザークは再び彼女に視線を向けた。 確かに、彼女はこんなところに縁遠い存在だと思うし、それに、久しぶりに顔を見る。 だが、それでも彼女が『・』ということは間違いないと確信できる。 彼女との付き合いは古く、しかし短かった。 というのも、彼女はイザークの邸のメイドの娘だった。 ただ、彼女の母親がエザリアの不興を買ってしまい彼女に会えなくなった。 後で聞けば、その原因はほかの者にあり、彼女の母親は貧乏くじを引いたとも言える。 もちろん、それに付随しても被害を被ったことになる。 一応、気にしたエザリアが親子の行方を探してみたが、特に有名な家でもないため見つけることはできなかった。 最高評議会議員の権力を使えばもう少し詳しく調査することはできたかもしれないが、そこまでの労力を使う必要はないと判断したエザリアは、その消息を掴むことをあっさり諦めた。 イザークとしては冤罪のようなものでこの屋敷を追い出してしまった事に対して少なからず後ろめたさを持っていた。 そして、母が早々に諦めたことに対する反感もなくはない。だが、一方で彼女を見つけることができない事を納得した。納得させた。 なのに、彼女はそこに居た。 花をめでるのが彼女の趣味で、彼女に付き合って庭園を歩くことは多々あり、だからイザークは花の名前に詳しくなった。 花に視線を落とす彼女の表情は優しく、花弁に触れる指は繊細で。 だから、『戦争』など、彼女にはもっとも縁遠いものだと思う。 イザークの視線に気づいたは少し困ったように笑った。 (睨み殺されちゃう) イザークは無自覚で彼女に熱い視線を向けていた。 その視線は、取り敢えず、耐性がなければ数歩後ずさってしまいそうなほど強く、熱い。 困ったなぁ、と思っていると式典が始まる。 入隊式は、必ずある。どんなに戦争が激化し、アカデミーでの修了期間が短くなっても行われる儀式で、これを持って新たに兵を志した若者たちへ、覚悟を問い、兵士へと作り上げていく。 式典が終わり、それぞれの入隊者たちはそれぞれのクラスに別れていく。 「」 腕を掴まれて振り返るとイザークが鋭い視線で射抜いてくる。 「久しぶり」 「なぜお前が此処にいる」 「同じ疑問を返していいかしら?」 は首を傾げて問う。 「俺の問いへの答えの方が先だ」 「うーん...それよりもっと先があるかな?」 「もっと先?」 疑問を口にしたイザークの天地がひっくり返った。背中に衝撃がある。 「先輩に対する畏敬の念と、指導者に対するこれまた尊敬の念?」 の言葉がどこか遠くから聞こえてくる。そんな気分だ。 (何が起こった?) 「あー、イザーク...」 ため息交じりにその様子を少し離れていたところから見ていたディアッカがやってきた。 「おひさし」 「先輩に対する畏敬の念と」 「ぶりです、先輩」 の言葉にディアッカが慌てて付け足す。 「よろしい。早く教室に行きなさい。軍人なら、遅刻なんてもっての外よ」 そう言っては背を向けて歩き出す。 「待て、!」 起こした上半身は痛み、顔がゆがむ。 そしては振り返らず、少し急ぎ足でその場を去って行った。 「イザーク、ほら。オレたちも」 そう言ってディアッカが手を差し出してくる。 「ああ...」 呆然と呟き、イザークはその手を取った。 彼女に、転がされた。 それは体術の一種で、もちろん軍人なら誰でもできる初歩の初歩である。 しかし、イザークの中のは昔の花を愛する少女のままで。 だからそのギャップが受け入れられない。 「どうして...」 同じ志願者ならきっかけは想像できる。だが、彼女は教官側だ。 ならば、キャリアがあるということで。 だからこそ、その理由が知りたかった。 「まだチャンスはあるだろ」 ディアッカにそう宥められ、イザークは頷く。 「そうだな」 ともかく。の言った『遅刻はもっての外』ということはわかるので、2人はパイロットクラスの教室へと駆けて行った。 |
桜風
14.7.10
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