Blue Eyes 3





 調べてみると、どうやらはオペレータークラスの教官ということが分かった。

しかし、やはりどう考えてもこのアカデミーの中の教官の中では最も年若く、年代的には自分たちと変わりないため、キャリアは浅い。

ならば、なぜ彼女は教官としての身分を持っているのだろうか。

パイロットクラスでは、臨時として現役パイロットが教官として指導するカリキュラムがある。

臨時ならわかる。

今の戦場を経験している者の指導や言葉はまさに臨場感のあるもので、現実を知ることができる有用な授業だとイザークは思う。

だが、それを考えると常駐の教官をやっているは戦場に出ないということなのだろうか。

もちろん、彼女に戦場に出てもらいたいなどと思っていない。

むしろ、こうしてプラントにいるということの方が安心でき、さらに言えばZAFTを退役してはどうかとも思わなくもない。


「去年だってさ」

食堂で食事を摂っていると遅れてやって来たディアッカがそういう。

「は?」

イザークはディアッカを見上げた。

彼は昼食用のトレーをイザークの隣の席に置き、椅子を引く。

「何だ、突然」

のアカデミーへの赴任。去年なんだってさ」

「理由は?」

「さすがにそこまでは」

そう言ってディアッカは肩を竦めた。

ディアッカはその高い社交性のおかげで友人や知人が多い。特に異性のそれが多く、オペレータークラスは半分が異性であり、そして女という生き物は往々にして噂話が好きであるため、情報を引き出しやすかったとディアッカは呟いた。

「去年..つい最近だな」

「教官として赴任してきたのが、だけどな」

ディアッカが念を押す。

つまり、軍人になったのはそれよりも前ということになる。

はイザークたちよりも2つ年上ではあるが、軍人としてはやはりまだ若い。

「まだ現役もできただろう」

イザークがつぶやく。

「親がお偉いさんだったら、ZAFTに対して『娘を後方に』っていう圧力が掛けられて、現役バリバリでもこうしてプラントに戻されるってことはあるだろうけど...」

続きの言葉をディアッカはカフェオレと共に飲み込む。

彼女は父親がいない。そして、母親はメイドだった。その後は知らないが、やはり『お偉いさん』との縁はなさそうだ。

あればエザリアの耳に入っただろう。直接入るかどうかはわからないが、間接的にでも入る可能性は高い。

そうすれば、エザリアからイザークに情報が入っていたはずだ。

少なくとも、イザークがと仲が良かったのはエザリアも知っていたし、の母親の冤罪について心を痛めていたことも知っていたから。

「いただきます」と言ってハンバーグランチにナイフを入れようとしたディアッカの目の前のハンバーグが背後から出てきたフォークに乱暴に刺された。

驚いて振り返ると間近に顔があり、思わず体を引く。

「こそこそと人の事を嗅ぎまわって?」

「やだな、堂々と、の間違いっしょ」

「先輩に対する」

「です」

ディアッカのハンバーグにフォークを突き刺したのはで、少し怒っているようだ。

まあ、自分の事を嗅ぎ回られていたのだ。気持ちのいい話ではないだろう。

「すまん」

イザークが謝罪する。

「それで、何が聞きたいの?ていうか、ディアッカ。私の目の前で私の事を他人に聞くんじゃないわよ。答えるほうも答えるほうだけど」

は椅子を引いてディアッカの隣に座る。

「それはオレも思った」

ディアッカは悪びれることなくのフォークを抜いて自分のフォークとナイフで食事を始める。

は..昼食か」

聞くまでもなかった、とイザークが思っていると

「私の目の前で私の噂話を拾った挙句に『じゃ、オレ食堂でランチだから』って話をしてくれた女の子とアドレス交換してくれやがったからね」

と彼女が忌々しそうに言う。そういえば、彼女は食堂のトレーを持ってきていない。昼食は終わったのだろうか。

「ほんと、ほんなのほってふわわわなひがふきだほなー」

もぐもぐと食べながら言う。

「口に入れたまましゃべるな!」「口に入れたまましゃべらない!」

イザークとの声が重なり、

「へいへい」

と嚥下したディアッカは肩を竦めた。

は...」

「そろそろ『教官』とかって呼んでくれないかしら?」

イザークの言葉を遮るようにが言う。

「...わかった。教官は、なぜその年で教官をされているのですか」

相手を『教官』と呼べば自然と敬語となってしまう。

「前線は無理になったから、かしら?」

首を傾げて彼女が言う。

「なんで?」

ディアッカが問う。

は静かに立ち上がり、ディアッカの背後に立って両手で握りこぶしを作り、彼のこめかみに人差し指の第二関節を当てて力いっぱい力を込めてねじ込む。

「いでででで」

「先輩に対する以下略」

「略すくらいなら、いいじゃん。いてぇ!」

「落第させるわよ」

「オペレータークラスなのに?」

「できない話じゃないのよー。オホホホホ」

とディアッカの会話にイザークは呆然とした。

何だか、の印象が全然違う。

「こっちが素だぜ?」

ディアッカがいい、

「悪いわね。雇用者のご子息にはいい顔しておかなきゃって思ってたのよ」

がいう。

ディアッカの言うとおりの本性はこちらだったらしい。

「では、花が好きと言っていたあれは...」

「それはホント。ご子息に良い顔するためだけにあれだけの花の名前を覚えるような努力はしないって。できればあの庭も整えさせてもらいたかったけど、あまりでしゃばるのはね...」

苦笑してが言う。

「それで?」

ディアッカが話を促した。

「ジュール家を後にしたその後の話?そうね、なんとかかんとか暮らしてて、でも苦しかったからZAFTに入った。それだけ、かな?」

「すまん」

「何が?」

イザークの謝罪にが首を傾げた。

「母上の勘違いだったと聞いた」

「いいのよ。ウチの母親、わかってて庇ったんだから」

の言葉にイザークはきょとんとした。

「わかって、いた?」

冤罪だと主張しなかった。それだけではなく、誰がそれをしたかを知っていたというのか。

「好きだったんだって」

困ったようには笑う。

ディアッカがからかうように口笛を吹いたものだから、イザークの拳骨を食らわせ、ついでにも拳骨を落とした。

「だから、仕方なかったんだって」

「それだけのために」と言いかけてイザークは言えなかった。

好きという感情を自分はまだ理解していないと思う。色々な思いがあって、人を愚かにさせるもので、そして勇敢にもさせる。

それが、『好き』という感情。

わからないものを批判できない。だから、イザークは色々な気持ちを飲んで「そうか」と頷いただけだった。









桜風
14.7.17


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