Blue Eyes 6





 アカデミーでの生活が残り1か月となった。

基礎はすべて叩き込まれており、最近は実践に即した訓練が多い。

その日はオペレータークラスとの合同演習だった。


は訓練生の表情を見る。

皆、入隊した時に比べ、ずいぶんと精悍になった。

覚悟というものを問われ続け、こうして実践間近まで来ている。



声をかけられて振り返るとディアッカが軽く手を振っている。

「ああ、そうか。パイロットクラスか。あれ?赤候補?」

「おかげさんで」

軽い口調でディアッカが返す。

「先輩以下略」

「ありがとうございます!」

敬礼をして言い直す。

見慣れた光景にイザークはため息を吐いた。

ここ最近の2人はそのやり取りを楽しんでいる嫌いがある。

教官」

「はい」

パイロットクラスの教官に呼ばれ、はそちらに向かう。今日の教官は現役パイロットで、自分もオペレートしたことがあるパイロットだった。

打合せをしているとガタリと音がして振り返る。

オペレータークラスの訓練生が倒れていた。

「どうしたの?」

が訓練生に問うが、誰もわからないという。

脈や瞳孔を確認する。

少し脈に乱れがあるが瞳孔反応はある。

一応医務室に連れて行き、休ませることにした。

そうなると人数が足りない。

こういう実践に即した演習は次回持ち越しというのがなかなか難しい。

特に、今回は現役パイロットが教官を務めるレアな訓練カリキュラムでもある。

教官が入ればいいだろう」

からかう口調でパイロットが言う。

「私、ですか?」

訝しむようにが問い、彼は頷いた。

「まあ、背に腹は替えられないか...」

は呟き、受けることにした。

「メインはあくまで皆だからね」

の言葉に訓練生は口々に返事をする。

オペレータークラス、パイロットクラスをそれぞれ数班に分けて実践演習を始める。

何ともたどたどしいオペレートにはもどかしさを覚え、それはパイロットクラスの教官も同じだった。

「私たちもそうだったんでしょうかねぇ」

しみじみとが呟くと「君は結構早くから及第点貰っていたと思うがね」と返されて恐縮する。

その様子を見たイザークはなんだか面白くない。

そして、そんな様子のイザークを見たディアッカは面白がっていた。

イザークがパイロットを務める班の際に、がオペレートチームに入っていた。

モニタに映し出される情報を処理しながらはパイロットに伝える。

どの班よりも敵の撃墜が最も早かった。



(うわぁ、しまった...)

はそのカリキュラムが終わり、木陰にあるベンチに座って頭を抱えていた。

訓練生の訓練のためのそれだったのに、でしゃばりすぎたのだ。

「凄く動きやすかったですよ」

校内なのでイザークが敬語で声をかけてくる。

ついでに、コーヒーも渡してきた。

「あれはダメなやつ。ダメなやつだったのよ」

独り言のようにがいい「だろうな」とイザークは納得した。

訓練生の訓練になっていなかった。

「でも、現場復帰できるのでは?」

「無理。終わりの方、上手く焦点があってなかったから勘で言ってた」

「...は?」

イザークは思わず声を漏らす。

「そう。『は?』ってパイロットに言われるやつなの」

「そっちか」

呆れて声を漏らした。

実戦だったらパイロットたちの命が危なかった。

「そんなにひどいんですか?」

イザークが問うと

「1回の戦闘も持たないわ」

と力なく彼女が言う。

「...そうか」

「だから、私は出しゃばっちゃダメだったのよ。それなのに、情報処理が遅いから思わずガンガン指示飛ばしちゃった...」

やはりこっちもあったらしい。

「正直、が出しゃばってくれたおかげで動きやすかった。最初は遠慮していただろう?」

イザークの指摘に頷き、「先輩以下略」とディアッカに言う言葉をイザークにも向けた。

「失礼しました」

ディアッカと違うのはここだ。

は苦笑した。

「ねえ、イザーク」

「そちらが教官でいくなら、こちらも訓練生でいるべきなのでは?」

ディアッカが指摘したことがないそれを指摘されて「じゃあ、『』でいいわ。この会話の間だけ」と自分に楽な方を言う。

イザークは苦笑して「わかった」と頷き、彼女の隣に腰を下ろした。

「ねえ、イザーク。もうアカデミー卒業ね」

「そうだな」

「配属先、もう決まったの?」

「いいや。もう少しかかるだろうな」

「たぶん、あまり大きく情勢は変わってないだろうから、そろそろ決まると思うんだけどなぁ」

が過去を思い出して呟く。

「ま、どの隊に配属されたとしても自分のすべきことをするだけだ」

「イザークらしい堅苦しいコメントね」

「それは悪かったな」

イザークは半眼になって彼女を見た。

「ね、仙人掌も連れて行ってあげてね」

に預けようと思っていたんだが...」

「持っていきなさい。というか、そうね。イザークがいつ戻って来れるかわからないから、持ち歩いてよ」

が言う。

「どういうことだ?」

「あの仙人掌、きれいな花が咲くのよ」

ニコリとほほ笑まれた。

「ああ、ディアッカが言っていたな。仙人掌ははっきりした色の花が咲くらしいな。赤とか、黄色とか」

あの仙人掌を購入した時にディアッカから聞いた話を口にする。

「詳しいわね」

「知り合いが多いからってさ」

イザークの言葉には苦笑し、「かわいこちゃんたちって事ね」と呟いた。

「でも、ね。違うの」

「違う?」

イザークが首を傾げる。

「あの仙人掌に咲く花は、青よ」

「青い花か。珍しいな」

イザークの言葉には頷く。

「自然な仙人掌だったら、まあまず青い花はないの。でもあの仙人掌はかなり新種改良が進められて生まれた子だからね」

「ほう?」

思わず相槌。

「サファイヤ・カクタスっていう名前なの」

「青い花が咲く仙人掌、か」

「そう。ちょっと値が張ったでしょ?」

の言葉に多少の戸惑いを覚えた。

何せ、そういう平均的な価値を知らずに支払いをしたのだ。

イザークの表情を見てが苦笑する。

「そんなこったろうとは思ったけど」

「悪かったな」

「悪かないけど。ま、そういうわけで。大切にしなよ何せ、イザークの瞳の色だ」

そう言って彼女がイザークの瞳を覗き込む。

イザークはの瞳を見た。そこに自分が映りこんでいる。

の瞳の色だろう」

「もうちょっと明るい色の花が咲くはずなのよね」

苦笑してが言う。

「そうか。ま、船の中での数少ない楽しみにしよう」

「そうして。植物は心を和ませるでしょ」

「帰ってきたら、寄せ植えを教えてくれないか?」

少し園芸に興味を持ってきたイザークが言う。

まだ行ってもない。だから、帰るなんてもっと先の話。

だが、いつかは行って、そして帰ってくる。

それを聞いたは苦笑して「帰ってきたときの約束なんて、死亡フラグでしょ」という。

少しさみしげな声音で。

「そんなもん、バキバキに折って帰ってくるさ」

イザークが『死亡フラグ』を知っていたことには驚き、そして、困ったように笑った。

「そうして頂戴よ」

「ああ。俺が戻ってきたときには、もっと堂々と敷地内に花を植えられるようになるぞ」

イザークの言葉には頷く。

つんと鼻の奥が痛い。

「うん」

絞り出したの声は震えており、イザークは彼女の背を撫ぜる。

部屋にある仙人掌をふと思い出す。

青い花が咲くという仙人掌。

彼女の瞳のような美しい花が咲けばいい。

花がいっぱいだった、それを見て微笑んでいたがいた実家の庭を思いだし、イザークは空を見上げた。









桜風
14.8.7


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