Cupid 1





1人、2人...

指差しながらはその人数を数えてみる。

「どう?」

少し離れたところにいる先輩が確認してきた。

「足りない..一人足りません!」

「え?!」

先輩は慌てて人数の確認をする。

「本当..何処に...」

振り返るとひとり、覚束ない足取りでトタトタと歩いている。

何も危険のない、それこそ施設の中でその姿を見ると心が和み、凄く優しい気持ちになれる。

しかし、今は往来で、しかもその子が向かっているのは車道だ。

車は遠慮なく行き交っており、周囲もその子に気付いた様子がなく彼はそのまま車道に出て行きそうだった。

心臓がドクンと強く打つ。

「待って!」

駆け出そうとしたを制すようにポンと肩に誰かが触れ、そのまま彼女を追い越して車道に転がり出そうになった子供をひょいと抱き上げてくれた。

銀色の髪で瞳はアイスブルー。『格好良い』よりも『綺麗』と表現した方がいいのかしら、と思うような顔立ちだ。

子供を抱くのに慣れていないのか、少しおっかなびっくりに子供を抱っこしながら彼が戻ってきた。

「ほら、ちゃんと見てろよ」

乱暴にそういわれたが、はちっとも腹立たしいとは思わない。

だって、彼はこの子の命の恩人だから。

「ありがとうございます!」

子供を受け取ってはその子をぎゅっと抱きしめ、彼に頭を下げた。

「ああ、じゃあな」

そういった彼は、一歩足を進めて、止めた。

先ほど救った子供がジャケットの袖を掴んだままだったのだ。

「あ、こら。ダメでしょう」

が慌ててその子に手を離すように促すと、やがて手が離れていく。

「すみません」

何から何まで、と思いながら頭を下げると、「ああ、いや」と彼は少し照れたように足早に去っていった。

もしかしたら、子供に懐かれるのすら慣れていないのかもしれない。

「あ、名前...」

名前を聞くのを忘れた。

すると、少し離れたところから「おーい、イザーク!」という声が聞こえた。

が振り返ってそちらに視線を向けると彼が軽く手を挙げて応じていた。

「そうか、『イザーク』さんか...あ...」

結局、名前が分かったところで何処に住んでいるのかとか、素性が分からなければお礼のしようがない。

「困った...」

が困っていると「」と名を呼ばれる。

「あ、はーい!」

先輩に返事をして子供を抱えて駆け出す。

ぐん、と腕の中の子供が重くなった。

「寝ちゃったの?」

顔を覗きこむと、涎をたらして眠っている。

「重い...」

せめて、もうちょっと起きててくれたら...

子供に言っても仕方のないことを思いながら、は足早に歩く。




「ということで、皆さん。もう少し周囲に気を配って注意をしてくださいね。今回は、通りすがりの青年が助けてくださったとのことですが、毎回、そんな素敵な青年が通りすがってくださることはありえませんからね」

今日のミーティングで園長から釘を刺された。穏やかな声音と笑顔が余計に怖い。

はこのプラントの中の保育施設で働いている。実家にばれたら即刻辞めなくてはならないので、かなりの綱渡りだ。

「はい」と全員で頷いてその日の仕事は終わった。

はぁ、と溜息を吐く。

本当に不注意だった。あの人、イザークとか言う人が来てくれなかったら、あの子は命を落としていたかもしれない。

ぞくりと背筋が寒くなる。

「ちゃんとしなきゃ」

首を振っては呟き、帰路に着く。









桜風
12.7.30


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