Cupid 5





デスクの灯だけを点けているは溜息を吐いた。

目の前にあるのは辞職願。

通常こういったものはギリギリに出すのは良くないと聞いた。職場の体制とかにかかわるからかもしれない。

だから、もう出さなくてはならないのだが中々決心が付かない。

「諦めるのって、意外と難しいのね」

辞職願は早々に書いたのに、提出ができずにこの状況だ。

覚悟していたのに、出来て居なかったと言うことなのだろう。

「よし!明日こそ...!!」

昨晩も同じように呟いたのだが、それはとりあえず横に置いて、新に決意をしただった。



翌日、漸くは辞職願を提出した。

理事長は驚き、慰留したが家庭の事情と言われて強くはいえなかった。

彼女の辞職の日は、例のパーティの1週間前だった。

準備とか色々あるだろうから、1週間くらい前から自由は無くなり、3日前くらいからは缶詰だろう。

?」

「わあ」

顔を覗きこまれていたことに今気が付き、思わず声を上げる。

「どうした、調子でも悪いのか?」

少し心配そうに声をかけてくるのはイザークだ。

「ううん、大丈夫。そうだ、イザークさん」

改めて向き直るにイザークは察した。

近々、彼女はここを去るのだ。

すでに彼女に残された時間は少なく、覚悟を決めたということなのだろう。

「わたし、2週間後にはこの仕事をやめるんです」

「...なぜだ?」

知っているが、聞きたくなった。

「家庭の事情ってヤツです」

困ったように彼女は笑い、それ以上、このことについての質問は受け付けないと言外に拒絶する。

「そうか。子供達が寂しがるな」

イザークの言葉には睫を伏せた。

「イザークさんは、また遊びに来てね。子供達も楽しみにしているみたいだし」

の言葉にイザークは眉を上げた。

「まさか」

自分が子供のお守が苦手なことくらい自覚している。

そんな人間が相手にしているのだから、子供達だって面白くないだろう。

それなのに、は...

「おべんちゃらなんてらしくないぞ」

苦笑してイザークが返すとは心外だといわんばかりに頬を膨らませた。

「子供達の表情を見てたら分かるの!」

ここで反論しても何にもならないのは分かっているので、イザークは「わかったわかった」とを宥めるように頷いた。

「保育士は、の天職だったんだろうな」

ポツリと呟くイザークに「そうかもね」と彼女は寂しげに微笑んだ。




「なあ、

「なに?」

少し固い声に驚きつつも、はいつも通りに返す。

「嘘、をどう思う?」

が翌日に退職すると言う日にイザークが問うた。

「嘘?」

「ああ、嘘だ」

鸚鵡返しのにイザークは頷く。

「そうねー。わたし自身、嘘が即ち悪だと思えるほど、純真ではないわね」

「どういうことだ?」

「人って、生きていくうえで多かれ少なかれ嘘はついていると思うのよね。それで世界がそれなりに回っている。だったら、あっても悪いものじゃない。

ただ、誰かを傷つけるためだけに吐いた嘘は、『悪』ね。子供っぽいかしら?」

最後は少しおどけて言う。

「なに、イザークさん。嘘を吐いて後悔している何かがあるの?」

ひょいと顔を覗きこんでがイザークに問い、彼は思わず視線を逸らした。

「あらら」とは笑い、

「それは、相手のための嘘だったの?」

と問う。

「...いや、そうじゃないな」

自分の興味で吐いた嘘。

「だったら、そうね。相手に怒られることを覚悟しておいたほうがいいかもね。詰られるかも。けど、傷つけるつもりが無かったのなら、ちゃんとそこは弁明しておく方がいいかもよ?」

少し強めに脅してみると、彼は顔をゆがめた。

「綺麗な顔をしているのだから、そんな表情勿体ないわよ?」

が言うと

「誰のせいでこんな表情をしたんだろうな」

とイザークが憎まれ口を返す。

そんなイザークをは笑う。

ふと時計を見て、時間だと気付いた。

「さ、イザークさん。そろそろ時間だから」

そう言ってが退室を促す。

「あ、ああ。そうだな」

「明日はもう会えないと思うから」

門まで見送ったが言う。

「わかった」

「ありがとうございました」

そう言っては手を差し出し、「こちらこそ」とイザークがその手を取って握手をした。

帰宅しながらイザークは、

(これで、パーティ会場で会ったら、絶対に文句を言われるだろうな。詰られるか?)

と少しだけ困っていた。

何せ、とは確実に数日後のパーティ会場で会うのだから。









桜風
12.8.27


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