| デスクの灯だけを点けているは溜息を吐いた。 目の前にあるのは辞職願。 通常こういったものはギリギリに出すのは良くないと聞いた。職場の体制とかにかかわるからかもしれない。 だから、もう出さなくてはならないのだが中々決心が付かない。 「諦めるのって、意外と難しいのね」 辞職願は早々に書いたのに、提出ができずにこの状況だ。 覚悟していたのに、出来て居なかったと言うことなのだろう。 「よし!明日こそ...!!」 昨晩も同じように呟いたのだが、それはとりあえず横に置いて、新に決意をしただった。 翌日、漸くは辞職願を提出した。 理事長は驚き、慰留したが家庭の事情と言われて強くはいえなかった。 彼女の辞職の日は、例のパーティの1週間前だった。 準備とか色々あるだろうから、1週間くらい前から自由は無くなり、3日前くらいからは缶詰だろう。 「?」 「わあ」 顔を覗きこまれていたことに今気が付き、思わず声を上げる。 「どうした、調子でも悪いのか?」 少し心配そうに声をかけてくるのはイザークだ。 「ううん、大丈夫。そうだ、イザークさん」 改めて向き直るにイザークは察した。 近々、彼女はここを去るのだ。 すでに彼女に残された時間は少なく、覚悟を決めたということなのだろう。 「わたし、2週間後にはこの仕事をやめるんです」 「...なぜだ?」 知っているが、聞きたくなった。 「家庭の事情ってヤツです」 困ったように彼女は笑い、それ以上、このことについての質問は受け付けないと言外に拒絶する。 「そうか。子供達が寂しがるな」 イザークの言葉には睫を伏せた。 「イザークさんは、また遊びに来てね。子供達も楽しみにしているみたいだし」 の言葉にイザークは眉を上げた。 「まさか」 自分が子供のお守が苦手なことくらい自覚している。 そんな人間が相手にしているのだから、子供達だって面白くないだろう。 それなのに、は... 「おべんちゃらなんてらしくないぞ」 苦笑してイザークが返すとは心外だといわんばかりに頬を膨らませた。 「子供達の表情を見てたら分かるの!」 ここで反論しても何にもならないのは分かっているので、イザークは「わかったわかった」とを宥めるように頷いた。 「保育士は、の天職だったんだろうな」 ポツリと呟くイザークに「そうかもね」と彼女は寂しげに微笑んだ。 「なあ、」 「なに?」 少し固い声に驚きつつも、はいつも通りに返す。 「嘘、をどう思う?」 が翌日に退職すると言う日にイザークが問うた。 「嘘?」 「ああ、嘘だ」 鸚鵡返しのにイザークは頷く。 「そうねー。わたし自身、嘘が即ち悪だと思えるほど、純真ではないわね」 「どういうことだ?」 「人って、生きていくうえで多かれ少なかれ嘘はついていると思うのよね。それで世界がそれなりに回っている。だったら、あっても悪いものじゃない。 ただ、誰かを傷つけるためだけに吐いた嘘は、『悪』ね。子供っぽいかしら?」 最後は少しおどけて言う。 「なに、イザークさん。嘘を吐いて後悔している何かがあるの?」 ひょいと顔を覗きこんでがイザークに問い、彼は思わず視線を逸らした。 「あらら」とは笑い、 「それは、相手のための嘘だったの?」 と問う。 「...いや、そうじゃないな」 自分の興味で吐いた嘘。 「だったら、そうね。相手に怒られることを覚悟しておいたほうがいいかもね。詰られるかも。けど、傷つけるつもりが無かったのなら、ちゃんとそこは弁明しておく方がいいかもよ?」 少し強めに脅してみると、彼は顔をゆがめた。 「綺麗な顔をしているのだから、そんな表情勿体ないわよ?」 が言うと 「誰のせいでこんな表情をしたんだろうな」 とイザークが憎まれ口を返す。 そんなイザークをは笑う。 ふと時計を見て、時間だと気付いた。 「さ、イザークさん。そろそろ時間だから」 そう言ってが退室を促す。 「あ、ああ。そうだな」 「明日はもう会えないと思うから」 門まで見送ったが言う。 「わかった」 「ありがとうございました」 そう言っては手を差し出し、「こちらこそ」とイザークがその手を取って握手をした。 帰宅しながらイザークは、 (これで、パーティ会場で会ったら、絶対に文句を言われるだろうな。詰られるか?) と少しだけ困っていた。 何せ、とは確実に数日後のパーティ会場で会うのだから。 |
桜風
12.8.27
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