Shall we dance? 3





が戻ってくるまで暇なイザークはが操作していた端末を覗いてみた。

画面に並ぶ数字や文字列。

暫く眺めて思わず口元をほころばせる。

ベテラン整備士には、結構抜けているところが多いし、遅刻も多い。後々何かしでかすんじゃないかと心配だと話を聞いていた。

イザークも何度か廊下を「遅れるー!」と叫びながら爆走しているの姿を目にしていたため、正直色々と心配にはなっていた。

その割りに主任整備士が言うには中々見所があるという。

両極端な評価に最初は首を傾げたものだ。

が、意外と悪くない。

確かに日常生活では『難あり』の評価となるかもしれないが、ドックの中に居るときのは悪くない。

今みたいにふらりと立ち寄ったときに目にしていたその表情は真剣でMSを前にした時の集中力は中々のものだ。

第一、日常生活に難があるのはアイツも同じだし...

そう思っていると足音が近付いてきた。


「はい、コーヒーです」

そう言ってマグカップを渡す。

「ああ」と言いながらイザークは受けとった。

「で、何だ?」

イザークが話を促す。とっとと話を済ませて自分の部屋に戻りたいもの本音だ。各種報告書が山となっている。

「あの、隊長がディアッカさんと大親友だって言うのは本当ですか?」

「ただの腐れ縁だ」

さらりと間髪入れずに返す。

「えーと、じゃあ。ディアッカさんのこと、大抵分かりますよね?」

「さあ、な」

部下の愚痴を聞こうかなと思った割りに冷たい反応だ。

「あのですね。実は...今日ディアッカさんの部屋の前を通りかかると声が聞こえまして。盗み聞きをするつもりはなかったのですが、聞いてしまったのですよ」

「それで?」

「ウザイって、怒られました」

知ってる、と思いながらイザークはそんなこと全く顔に出さずに溜息を吐いて、「ひとつだけ」と言う。

はイザークに注目した。

「ひとつだけ、言えるのは。案外はディアッカに気に入られているって事だ」

は「そうですか?」と首を傾げる。

「あいつは俺と違って昔から人当たりがいいフリをするのが得意だった。適当に話をあわせて面倒くさい波風立てずにいるのがアイツのスタンスだったな。
まあ、ザフトに入ってからは少し変わったが、それでも基本はあまり変わらない」

アカデミーに居たころは面倒ごとを良く押し付けられていたと聞いたのに。

おかしいな、とは首を傾げる。

「アイツは昔から自分が何を考えているか口に出さない。手の内を晒す事はないんだ。けど、今は言ったな?『ウザイって怒られた』って。怒るくらいならするさ。そんなディアッカなら何度か見たことある。けど『ウザイ』って態々言うまでは、中々ないな」

そう言ってコーヒーを一口飲む。整ったその顔が少し歪んだ。

「気に入られているのに、『ウザイ』ですか?」

「虫の居所が悪かったんだろう。恐らく、まあ。そんなところだ」

とうとうミリィとも別れたのかもしれない。落ち込んでいたら少しくらいは慰めてやったほうがいいのだろうか?

とは関係ないことが頭に浮かぶ。

グビッと残ったコーヒーも流し込んでカップをに渡す。

「コーヒーの礼にあとひとつだけ」

がイザークを見上げると

「あいつを追いかけるのは中々大変だぞ?」

イザークが何を言っているのか分かったは一瞬言葉に詰まり、そして笑う。

「望むところです!」

ならそう言うと思った。

イザークは小さく笑って、

「じゃあ、ちゃんと休息を取れよ。あと、言うほどまずくなかったぞ、そのコーヒー」

そう言ってドックを後にする。

ふと、振り返ってそうか、と納得する。

自分が慰めるまでもなく、ディアッカは失恋の痛手に浸りきれないかもしれない。

だったら放っておこう。その方が楽でいい。


「ったく、何処に行ったんだよ」

ブツブツと呟きながらディアッカは廊下をいく。

とうとうミリィに別れを告げられ、その後まったく取り付く島がなかったためにそれを受け入れなければならない状況になった。

イザークに話して少しくらい慰めてもらおうとか思って隊長室へ向かうともぬけの殻。というか、返事がないから寝ているのかもしれない。

そう思っていたら、尋ね人が上機嫌で移動していた。

ディアッカ以外の人間が見れば、いつもどおりのすまし顔だが、『腐れ縁』とイザークの口から言わしめたディアッカにはその表情の違いが分かる。

ディアッカは首を傾げた。

イザークが来た方はドックがあるだけ。

気になったディアッカはドックに向かってみる。


そこには薄明かりの中で端末に真剣な顔を向けている結構見慣れた少女が居た。

昼間は八つ当たりで怒鳴りつけてしまった彼女。

もっと落ち込んでいるのかと思ったが仕事をしている。

じゃあ、ここでついでに謝ってしまおうと思い、やっぱりやめた。

こんな時刻、一人で機体の整備をしているの邪魔は出来ない。自分はさっきまで腐って親友に愚痴を聞いてもらおうとか思っていたのに。

はあ、と溜息を吐き回れ右をする。

謝るのは明日の朝一番にしよう。今は、邪魔をしないほうがいい、きっと。

そして、ディアッカはイザークの部屋に行くのもやめた。

自分だけ腐ってるなんてカッコ悪いじゃないか。










桜風
07.9.12


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