Shall we dance? 5





前を行くディアッカを見つけ、は自然と足早になる。

「ディアッカさん!」

声を掛けられたディアッカは振り返り、笑う。

「お、か。今日は遅刻なしか?」

そう言われて頬を膨らませる。

最近は遅刻をしてない、5回に1回くらいしか。

「さっき上がったばっかりなんです!」

そう言ってフイ、と顔を背ける。

窓ガラスに映るディアッカが自分を見て優しく笑っていた。

「悪い悪い」

全く悪かったという気持ちの篭っていない『悪い』だったが、にとっては悪くない。

「意地悪を言ったお詫びは何ですか?」

何て図々しい事を口にしたんだろう...?

そう思っては自分の口を手で塞ぐ。

が、

「良いぜ。そうだな...今度の休暇にデートしてやるよ。はスイーツ好きだったろ?確か、前に見かけたときにはまだだったけど次の休暇の時にはオープンしてるはずだから、そこ行ってみようぜ」

とあっさり承諾されて次回の休暇の予定まで立ってしまった。

は頭がついていかずにぽかんとディアッカを見上げる。

「お前、ホント可愛いのな」

苦笑いを浮かべてたディアッカに言われては俯く。

結構適当に流されていたから今回だって適当な事を言って適当に誤魔化されるんだとばかり思っていたのだ。

そんな反応を示すにディアッカは更に苦笑をもらす。

だから。つい

「ついでに。そのでかい胸も、俺好み!」

とか言ってしまった。場を和ませるためにそう言ったつもりだった。

が、その一言での顔は見る見うるちに真っ赤に染まり、

「ディアッカさんのバカ!」

と恥ずかしさのあまり目に涙を溜めてそう叫ぶ。

「ああ、その意見には俺も全面的に賛成だな。ついでに、お前もだ」 

不意に第三者の声がして2人同時にそちらを見ると不機嫌全開のイザークが立っていた。

「うわ、盗み聞き?」

ディアッカがからかい半分でイザークに抗議すると

「貴様たちは今何処に居るのか分かってるよな。自分の船だ。昨日、今日乗ったばかりという訳でもあるまいし、知らないとは言わせん」

イザークのこめかみがヒクヒクと痙攣している。

「ん...?」

言われてディアッカがすぐ側のドアを見上げた。

「「あ」」

ディアッカとは同時に呟く。

此処は隊長室のドアの前。

「ははは」と乾いた笑いを漏らしてディアッカがを引き寄せ、隊長が通るためのスペースを開ける。

「どーぞ」

を恭しく礼をとってディアッカがドアに向けて手を差し出す。

「どーも」

未だ半眼のままのイザークが返事をして隊長室へと消えた。


「あの、ディアッカさん」

は引き寄せられてそのまま肩を抱かれている。実にさりげないディアッカの行動だ。

「ん?」

しかも、ディアッカは照れて慌てて離すとかがない。慣れている証拠だ。

勿論、は照れてどうしていいか分からない。

「あの、ジュール隊長って恋人がいるって...」

噂で聞いたことを口にする。プラントに恋人が居るそうだ。取り敢えず話題転換。

「ああ、居る。すっげー可愛い彼女が。あのイザークの彼女にだけ向ける優しさは寒気を覚えるほどだな。アレって絶対イザークの生き別れの双子の兄だな。あんなデレデレしたイザークなんて滅多に見られないからな。きっとニセモノだ」

ディアッカがそうコメントする。しみじみと。

「やかましい!!」

突然ドアが開いて中から奇妙な置物が投げつけられる。木彫りの、鮭をくわえた熊の置物。

を庇うようにディアッカはその体を引き寄せ、右手で隊長室から飛んできたそれを軽々とキャッチする。

「ったく。俺にもあの50分の1で良いから優しくしてほしいもんだよな〜」

ディアッカが零す。

「いつまで俺の部屋の前でイチャついてる!とっとと場所を変えろ!!それは、返せ」

自分が投げつけたものなのに、返せとか言う。

ディアッカは肩を竦ませてあっさりそれを返し、

「んじゃ、あとでブリッジでなー」

と手を振りながら去っていく。


「あの、ディアッカさん」

並んで歩くディアッカを見上げる。今はもう流石に肩は抱いていない。何となく、の紅くなりようが気の毒になってきたから。

「んー?」

「えーと...」

ディアッカは完全に楽しんでいる。の反応を。次は何を言うのだろう?

「今度あたしにも日舞っての、教えてください!」

悩んだ挙句に言った言葉がそれだった。

予想外の言葉にディアッカは一瞬目を丸くして、そして

「いいぜ。手取り足取り教えてやるよ」

と耳元で囁く。

は真っ赤になって「うひゃー!」と叫びながらダッシュで去っていく。

「ったく、追いかけたり逃げたり。忙しいのな」

クツクツと笑いながらディアッカが呟く。


昔は追いかけられるのが本当に面倒くさくて鬱陶しいと思っていた。

だが、今は結構楽しんでいる。

その原因はディアッカが大人になったからか、それとも、その追いかけてくるのがだからか...

きっと後者だな、とディアッカは思う。

あの一生懸命さに当てられたのだ、と。だけど、そんな自分も悪くない。

そして思う。

今度は自分が追いかけてみようか。案外は掴まえるのが難しいのかもしれないけれど...

それでも、何だか楽しめそうな気がする。

「んじゃ、鬼ごっこでもしますか?」

の消えた廊下を眺めながらディアッカは不敵に笑った。










桜風
07.9.26


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