Special happiness 3





が目を覚ましたという連絡が来たのは彼女が事故に遭った日から数日後だった。

連絡を受けてイザークが病院に着くと、の病室のドアの外のソファでラスティが項垂れていた。

目を覚ました、と連絡を受けたのに彼が落胆していることにどうも納得できない。

既に来ていたディアッカが気遣わしげにラスティに視線を向けていたが、イザークが来たことに気づいてためらいがちに手を上げた。

「どうしたんだ?目は覚ましたが、面会謝絶のままなのか?」

イザークの問いにディアッカは困ったように首を横に振った。

「イザーク!」

今着いたばかりらしいニコルとアスランもやってきた。

「どうしたんですか?」

そばまでやってきたニコルもラスティの様子を目にして疑問を口にした。

「目は、覚めたんだよな?」

アスランの問いにディアッカは頷いた。


このままでは何も分からない、とイザークは病室のドアをノックし、入った。

「あ、イザーク」

は笑顔で手を振ってくる。

頭にはまだ包帯が巻いてあり、骨折などもしていたので腕はギプスで固定されている。満身創痍だが、本人は至って元気だ。今も、目を覚ましたばかりだというのに、体を起こしている。これなら退院もすぐだろう、と素人の考えでそう思った。

「...お友達?」

に近づいていたイザークの足が止まった。

彼に続いて部屋に入ったニコルとアスランの足も止まる。

?どうした...」

眉間にしわを寄せてイザークが問う。

「どうした、って。ああ、うん。聞いてない?交通事故」

「そうじゃない。そんなことは知ってる。だから、ここに来ているんだ。そうじゃない。今、何て言った?」

コツコツと靴音を立てて少し足早にベッド脇に向かった。

「何、って...『お友達?』。あ...もしかして、彼氏たち?イザークモッテモテー!」

「殴るぞ」

真顔でイザークが言う。いろんな意味でちょっとムカッと来た。

「や〜ん」と頭を庇い笑う仕草は彼女のものだ。時々悪ふざけを口にしてはイザークに怒られている。

「そうじゃなくて」とイザークが続けようとしたが、誰かに腕を引かれた。視線を向けるとニコルだ。難しそうな顔をして首を振る。

さん」

ニコルが声を掛けた。少し警戒したような表情になり、はニコルを見る。

「...初めまして」

少し戸惑ったようにニコルがそう言った。戸惑いながらも彼は笑顔だった。大抵の人間が警戒心を解く優しい表情だ。

も笑顔を作り、「初めまして」と応えた。

「僕は、イザークの友達でニコル・アマルフィと言います。こっちが、アスラン・ザラ。さっき、この部屋に入ってきたと思うんですけど、2人」

ニコルの言葉には頷く。

「えーと、イザークの幼年学校のときのお友達のディアッカ君と..そのお友達が来ました」

イザークは瞑目して天を仰ぐ。

ニコルも同じ気持ちだった。

最悪だ。

は誰を忘れても、彼だけは...『ラスティ・マッケンジー』だけは忘れてはいけない。

「ディアッカ・エルスマンと、ラスティ・マッケンジーだ」

イザークが名前を言う。ああ、そんな名前だったわね、みたいな表情になったを見て胸を抉られる思いがした。

「イザーク君」

の父親が促した。

「ああ、そうですね。ま、もう少し大人しくしてろ」

イザークがそう言うと「はーい」と肩を竦めては返事をして、横になる。

の病室のドアを閉めて廊下に出ると書置きがソファにおいてあった。

『屋上にいる』

2人は取り敢えず屋上に行ったらしく、イザークたちも屋上に向かった。


屋上は広く庭園となっていた。

その端っこのベンチにオレンジの髪と金髪が並んで座っていた。

「おい」とイザークが声を掛ける。

「ああ...」とイザークたちの姿に気がついたディアッカが立ち上がった。

ラスティのその様子の理由が分かったイザークは彼を見た。肩を落として地面に視線を落としたまま動かない。

「俺のことは覚えてた」

ディアッカが言う。『覚えていた』というよりも『知っていた』だったが...

「そうだな」

「ああ、ここにいたんですか」

ニコルが遅れてやってきた。先ほどエレベータに乗り込んだとき、「先に上がっていてください」と言って病室に戻っていったのだ。止めようと思ったが、子供じゃないんだし、と思って放っておいた。

さんは今、部分的な記憶喪失のようですね」

「聞いてきたのか?」

アスランが言うとニコルが頷く。

「さっき、エレベータに乗る前に彼女の執刀医を見かけたので。目を覚ましたときには自分の名前と家族構成が分かったので気づかなかったらしいんです。けど、話をしているとどうも最近の記憶が欠けているみたいで...さっき、ディアッカのことは知っていましたよね?」

ディアッカが頷く。

「たしか、10くらいの時には知っていたと思うぞ。いや、それよりも前だな...会ったことがある感じではなかったから」

「大きな事故だったのでこういうことは少なくないみたいです。段々記憶が戻る事だってある、と」

その言い方だと、戻らないこともあるみたいだ...

誰もが思ったが、ラスティに気遣って口には出さなかった。

そんな空気を察してラスティは顔を上げて笑顔を作る。

「や、うん。でも、目を覚ましてくれてよかったよ。、もう笑ってたし」

作った笑顔が痛々しい。

「じゃあ、オレ。今日は帰るよ」

そう言ってベンチから立ち上がり、皆から遠ざかっていく。

彼を一人にして大丈夫なのか、と思ったが、誰もそこから動くことが出来なかった。

ラスティの背中が彼らを拒絶しているように見えたから。









桜風
09.9.28


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