| が目を覚まして以来の見舞いには、イザークが行った。 ディアッカ、ニコル、アスランはやはりどうにも行きにくいと感じたらしい。 だが、ラスティだけはずっと彼女を見舞い続けた。 止めた方が良いのではないか、とニコルが言った。 「止めても無駄だろう」 そう返したのはイザークだった。 数日前までの睦まじかった2人の姿が浮かんだ彼らは確かにそうだな、と皆は納得した。 そして、彼女は退院した。 記憶の殆どは取り戻したが、欠けたままの記憶もある。 『ラスティ・マッケンジー』。 欠けた記憶のひとつにそれが入っていた。 彼女は自分がカレッジに入っていることは思い出せない記憶のひとつだった。 だから、学校に行くのを酷くおびえていた。 の父親に頼まれてイザークは彼女を迎えに行き、学校へと連れて行った。 イザークは友人たちに彼女の父親から聞いた話をしておいた。 彼女の記憶はまだ混乱している。だから、彼女は事実とは違うことを口にするかもしれない。 しかし、それを頭から否定し、訂正はしないでほしい。色んな情報が交錯することになれば彼女は混乱してパニックを起こすかもしれないから、と。 当分はそのようにしてほしいということだった。 何だか釈然としないが、仕方ないだろうと彼らも頷いた。 の友人たちは彼女の現状を聞いており、同情の視線を向けたり、気遣いを見せたりした。しかし、その奥には好奇の感情がにじみ出ていた。 記憶をなくした子。 大切なことも忘れてしまった彼女はどこか映画などで見るラブストーリーの登場人物のようだ、と。 は『知らない人間』にそんな気持ちを向けられても困惑するだけだった。 だから、知っている、信頼し安心できる存在に頼った。 それはイザークで、幼馴染というには些か距離のある間柄だったが、それでも彼は多少迷惑そうな表情を浮かべながらも受け入れてくれた。 昔からそうだ。 迷惑なことは迷惑だと言い、それでも仕方ないといって許してくれる。 彼には随分甘えてきた。 イザークの友人たちは、聞くところによると自分とも仲が良かったらしい。彼の友人なら大丈夫だろうとも気を許し始めていた。 「あれ、マッケンジーさん。お一人ですか?」 名前を呼ばれたラスティは振り返って困ったように笑った。 「、ちゃん...ラスティ、でいいよ」 ふと既視感が頭をよぎった。 しかし、それは一瞬のことではそのことを気に留めなかった。 「イザークは...」と言いながら周囲を見渡す。 「ああ、そうか。今日はゼミの研究があるとかで帰るのが遅くなるって言っていたよ」 「そう..ですか」 落胆した表情のにラスティはまた笑う。悲しそうに。 「オレでよかったら送るよ?」 「あ、いえ。大丈夫です。いくらなんでもご迷惑は掛けられませんから。待ってます、イザークを」 「...そう。気をつけてね」 ラスティはそう言って背を向けた。 何だろう。いつもラスティは悲しそうに笑う。 「気になるのか?」 研究が終わったイザークと共に帰りながらラスティの話をした。いつも彼は悲しそうだ、と。 「んー、そりゃ。イザークのお友達で、わたしも親切にしてもらってるから」 「いい奴だよ。時々、意味不明だけどな」 またしても既視感が頭をよぎる。 自分は記憶が欠けているらしい。病院にも定期的に行っているし、親にもそういわれている。 ゆっくり思い出せば良い。無理に思い出そうとすると心と体に負担がかかるから、無理はしないようにと両親と主治医に言われているので焦らないように一応心がけている。 こうやって既視感を感じるたびにやはり焦ってしまうのだが... 「わたし、大切なこと忘れてるのかな?」 「そうだな」 イザークが肯定したような相槌を返した。 何を、と聞こうと思ったがやめた。 だって、今の状況だって結構楽しいし幸せだと思う。 自分の欠けている記憶の中の大切な何かが『幸せ』とは限らない。大切でも幸せではない思い出もある。 だから、このまま大切にされる日常で満足しているのだからこれでいいと甘えてしまうのは仕方のないことだ。 そう思ったら何故か焦りを覚えた。心が警鐘を鳴らしているような、そんな何か形容できない気持ちが湧き上がる。 「...どうした?」 隣を歩いていたはずのが足を止めた。 「気持ち、悪い...」 そのまま崩れるように膝をつき、蹲る。 の家まであと少しの距離だった。 「暴れるなよ」と言ってイザークはを抱えあげ、そのまま早足で彼女の家に向かい、ベルを鳴らす。 家から出てきた彼女の母親に案内されて部屋へと運んだ。 は熱を出した。 プラントに住んでいるのはコーディネーターと呼ばれる遺伝子を操作した人類だ。遺伝子操作のお陰で病気になりにくく、怪我をしても治りやすくなっている。 もその例外ではないが、その日、は高熱を出した。 原因は不明だが、やはり現在の彼女の体の状態は万全ではないという証拠だ。 翌日、は熱が下がらなかったため、学校を休んだ。 |
桜風
09.10.19
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