masquerade 4





とイザークの婚約はそれからあまり日を置かずに発表された。

「ったく、オレには言ってくれても良かったんじゃないの?」

久しぶりに会ったディアッカにぼやかれたイザークは「何で貴様に言わなきゃならんのだ」と冷たく返した。

「しかし、の姫だなんてさ。な、どんな子?」

「...普通だ」

イザークが答えるとディアッカはにやりと笑う。

「嘘だな!」

「はあ?!」

「今の答えにちょっと間があった。つまり、少なくとも何かしらの感想を飲んでの『普通』なんだろう??」

こういうとき、無駄に鋭いディアッカをたまに殴りたくなる。

「やかましい」と返したが、その言葉に鋭さがなく、ディアッカはまだ先ほどのイザークの言葉に食らいつく。

「本当に普通なんだ」

イザークの言葉に「ふーん」とディアッカは適当な相槌を打った。

これ以上食らいついても意味がないと悟ったのだ。

「で、嬢はお前んち?」

「ああ」と頷くイザークに「まだ婚約者なのに?」と更に問いを重ねる。

「ウチの方がセキュリティが高いからな」

「発表しちゃえばそっちのもんじゃない?」

「念には念を、だ」

ま、確かにそのほうが良いかもね...

色々と面倒なことを想像しながらディアッカは納得した。




「何で教えてくれなかったの?!」

久しぶりに会った友人にそう責められて「ごめん」とは謝る。

友人とお茶会をするのにさすがに人様の家では、と実家に帰ってきているのだ。

「で、イザーク様ってどんな方?」

たぶん、あまり本心を見せられていないんだろうなとは思う。

多少の寂しさを感じるが自分がそんなことを言えた義理ではないのは知っている。

「で、どうなの?!」

少し悩んでいると友人に答えを急かされた。

「んー...思いやりのある方よ」

これは間違いない。

情が篤いと言うか心が深い人だとは思う。

「そう...」

溜息混じりに相槌を打った友人の瞳が一瞬昏く光ったように見えた。

ざわりと皮膚が粟立つ。

「いいなー」と明るい声で彼女が言うが、どこかその声音が上滑っている感じがした。

「ところで、アレは何?」

友人が指差した小箱を見てしまったと今更後悔をした。

久しぶりに実家に帰るので気が緩んでいた。

一応、向こうに持って行ってたが誰に見られるかわからない。

だから、箱から出すことなくいつも引き出しの一番奥に布に包んでしまっていた。

しかし、実家に帰ればそこまで警戒しなくても大丈夫だと思って持ってきていたのだ。

「ねえ、何?」

「...カフス」

そう言って箱を彼女の目の前に置いた。

彼女は断りもなくその箱を開ける。

「ちょっと!」と抗議の意味を込めて制止するが

「良いじゃない。幸せの只中にあるんだから少しくらいは大目に見るべきよ」

と言って彼女は意に介さない。

「ねえ、これって...」

カフス自体は珍しいものでもないし、大丈夫かなと思っていると彼女はにやりと笑った。

「あのとき。仮面舞踏会であなたが持って帰ったものじゃないの?」

「え?」

思わず言葉を失う。

彼女はあの時見ていたのだ。

隠したのが余計に拙かったのだろう。ずっと覚えていたらしい。

「持って帰ったって言うか、ドレスに引っかかっていたから」

「そんなもの、何でこんなに後生大事に仕舞っているの?これ、イザーク様への裏切り行為じゃないの?」

ぞくりとした。

彼女のこの瞳は知っている。

これまでいろんな人から同じような瞳を向けられてきた。嫉妬や羨望の感情を孕んだそれだ。

「返して!」

そう言って乱暴に彼女からそのカフスボタンを取り返した。

再び彼女の瞳を見えると先ほど向けられていたそれではなく、いつもの少し無邪気な印象を受けるそれだった。

「ごめんごめん。冗談よ」

笑って言う彼女の声音もいつもと変わらない。

「もう、そんなんじゃないから」

念を押すようにが言うと「そうよね」と彼女も頷く。

一抹の不安を抱いたまま彼女を見送り、ジュール家へと向かった。









桜風
11.12.5


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