| ジュール家に戻ってからもは落ち着かない日々を送っていた。 どこかで漏れるのではないかと怯えていた。 最初は政略結婚で仕方ないと思っていた。 しかし、この家に移り住んでからと言うもの、イザークの細かな気遣いや向けられる言葉に間違いなく彼に向けて心からの好意を感じていた。 それと同時に、やはりあの仮面舞踏会でであった青年の事が忘れられず自分の抱く感情の浅ましさに嫌気を差していた。 ある日、買い物に出かけた。 勿論、護衛は居たが、それでも彼らはなるべくのプライベートは侵さないようイザークに言い含められているらしく、それなりに距離を保ってくれていた。しかも、買い物をしたら荷物を持ってくれる。 こういう気遣いもありがたい。 「あれ?ちゃん」 気安く名前を呼ばれて振り返ると知らない人が立っていた。 警戒しつつ、護衛の方を見ると彼はそんなに警戒した様子を見せていない。 仕事をしていないのか、それともジュール家に縁のある人なのか... 「あ、オレはイザークのマブダチのディアッカ・エルスマン」 と軽く自己紹介された。 本当にイザークの友人だろうかと疑いたくなるような口調だが、『エルスマン』は聞いたことがある。 イザークも「あそこは敵ではない」と以前教えてくれていた。 ただし、味方とも言っていなかった様な気がする。 「イザークの婚約者って退屈じゃない?」 『イザーク』と彼の名を呼ぶときの声音が友好的だったのでも多少の警戒を解くことにした。 「いいえ」 やっと彼女の返事があり、ディアッカは「良かったー」と息を吐く。 「良かった、ですか?」 聞き返すに「無視されちゃったらどうしようって思って」という。 「ごめんなさい」と謝るに「良いって」と苦笑して返した。 「イザークからオレのことなんて聞いてる?」 そう訪ねられては心から困った。 「何でも良いよ。どーせ『フラフラと風船みたいに軽いヤツ』とか言われてるんだろうけど」 と肩を竦めておどける。 「あの、えっと...まだ何も」 「は?イザーク、マブダチのオレのこと紹介してないの?!」 「ええ。あの..『エルスマン家』については、その...」 「ああ、敵じゃないってね。え、じゃあマブダチの紹介もまだってことか。イザークって意外と抜けてるな。それとも、嬢と言葉を交わすのにまだまだ緊張するのかな?イザークってばウブだよなー」 「よーし、歯を食いしばれ」 不意に聞こえた声にとディアッカは同時に声のした方を振り向いた。 「イザーク!」とディアッカが声をあげ、は今の状況を把握できない。 「何だよー、照れてオレの紹介がまだだって聞いたぞ」 「誰が照れるか。気持ち悪い」 「はっはー、イザークってツンデレだな」 「少し黙れ」 そんな気の置けない2人の会話を目の当たりにしたは笑いを堪えることが出来なかった。 「うわっ、超可愛い!」 「見るな!減る!!」 「ね、ちゃん。イザークってほら、今聞いたとおりケチだからさ。イザークの婚約者なんて結構面倒くさそうなの辞めてオレの婚約者にならない?」 「誰がケチだ。俺の婚約者を俺の前で口説くな!」 引き続き仲の良い掛け合いが始まった。 そんな掛け合いが行われている中、ディアッカの部下らしき人物が半泣きでやってきた。 「貴様、仕事を放り出して何をしている」 眉間に皺を寄せてイザークが言い、 「だって、ちゃんが見えたんだから仕方ないだろう。紹介してって言っても絶対にダメだって言うし」 と悪びれずに彼が返した。 「あの、また今度ゆっくりできるときにお話しましょう」 が言うと 「イザークの婚約者だってのに、こんなに話が分かるいい子なんだなー」 と感動したように言って「んじゃねー」とその場を去っていった。 「ったく...」 そこでやっとイザークは気がつきを見る。 「あの、えっと...」 「素のイザーク様も素敵ですね」 にこりと微笑んでそう言う。 なるべく彼女の前では乱暴な言葉を使わないように気をつけていたのに... 「本当に、仲の良いお友達なんですね」 「...腐れ縁の悪友です」 『腐れ縁の悪友』と言う単語に思わず息を飲む。 「嬢?」 「あ、いいえ。楽しい方でしたよ」 クスクスと笑いながらが言うと 「あなたの気分を害したのでなければ、まあ、今回のことは許すことにします」 と少しだけおどけてイザークが言う。 「よかった」と言うとイザークは苦笑し、 「今日の仕事は済ませたのですが、あなたの買い物にお付き合いしてもよろしいですか?」 と言ってくれた。 「嬉しいです」 「では、参りましょう」 イザークに促されては歩き出した。 |
桜風
11.12.12
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