| イザークと買い物を済ませて帰ると珍しく早く帰っていたエザリアが心から悔しがった。 「今度は私と一緒に買い物に行きましょうね」 そう誘われて「はい」とは素直に頷く。 それから夕食を済ませて食後のお茶を楽しみ、やがてそれぞれの部屋で睡眠を取った。 そして、翌日。 が顔を出すとエザリアが物凄い剣幕で彼女を罵った。 何のことか分からないは彼女の叩きつける言葉を呆然とただその身に受けるだけだった。 どうやら、は二心があるという噂が流れているらしい。 流れていると言うかゴシップとして報道されたのだ。 「どういうこと?!」 詰問されては言葉を失う。 そのことを否定しきれない自分が居るのだ。 「母上」とイザークが間に入った。 「イザーク!」 「母上。今日も評議会があるのでしょう?そろそろ出勤なさらないと」 「今日、出勤?!ただ恥をかくだけじゃないの!!」 「これはただの噂でしょう。何の裏も取れていない」 「これを見てもそう言うの?!」 そう言って突きつけられた新聞を見てイザークは溜息を吐いた。 その証拠としてカフスボタンが掲載されていた。彼女が仮面舞踏会に参加した際に心を寄せる男が出来、その男から贈られたものだと説明が載っていた。 「母上。こんな何処にでも売っているものを証拠として出されて簡単に信じられたのですか?」 呆れたようにイザークが言う。 こんな安物、と更に付け加えるとエザリアは改めてそれを見た。 確かに、安物だ。 「それに、仮面舞踏会でのこと。これをリークした者に大きな非があります」 おそらく主催者から新聞社に抗議は入っているだろう。その仮面舞踏会の日や主催の名が載っている。 これはこれで、致命的なことだ。 「母上。こんなゴシップを真に受ける人がどれだけ居ますか?」 「しかし、これを足がかりにあなたを蹴落とそうとする...」 自分の地位についてはそこまで心配していないらしい。 「俺がそんなに簡単に蹴落とされると思っているのですか?エザリア・ジュールの息子の、イザーク・ジュールが」 そこまで言われてエザリアは引き下がった。 「さん、当分この屋敷からの外出を禁じます」 そういわれては何も言えずに俯いた。 颯爽と屋敷を後にしたエザリアを見送ったイザークは溜息をつき、を応接室に促した。 「嬢」 イザークに名を呼ばれてビクリと肩を震わす。 「そうだな。余所行きはなしにしよう。、と呼び捨てにしても良いか?」 言われたは頷く。 「ここに書かれていることは何処まで本当だ?」 中々言葉を口にしないにイザークは溜息を吐いた。 「正直、俺は母上ほどに求めていないんだ」 イザークの言葉には顔を上げた。悲しげな表情を見てイザークの胸が痛む。 「俺達は政略結婚と言うヤツで、それこそ、お互いの心ではなく両家の利益で結婚することになる。だから、が他の男のことを愛していても俺は仕方ないと思っている」 自分も人のことは言えない。自分だって仮面舞踏会でであった彼女の事が忘れられない。 しかし、それと同じくらいのことを愛おしいと思っている。 彼女が微笑むとその笑顔を守りたいと思っている。 だから、こうして俯いている彼女に少しでも楽になってもらいたくてそういったのだが、逆効果だったようだ。 「ひとつずつ確認させてくれ。まず、この日に仮面舞踏会に参加したのは本当か?」 コクリとが頷く。 その日は自分もこの仮面舞踏会に参加した。だから、もしかしたら会場のどこかですれ違っていたかもしれないな、とイザークは今の状況に全く関係ないことを思った。 「カフスボタンは、本当か?」 「貰ったんじゃない..です」 貰ったのではないが、本当か... どういうことだろうとイザークは首を捻る。 「けど、こんな安っぽいのではありません」 「そうか」とイザークは頷いた。 そして深い溜息を吐いた。 はイザークに心から呆れられたのだと今の状況に絶望した。 「少し待っていてくれるか」 そう言ってイザークが席を外している間に使用人が紅茶を淹れてくれた。イザークの指示だろうと思った。 |
桜風
11.12.19
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