| 父親に呼び出され、ディアッカはそこに向かった。 プラントの中でも結構有名な高級ホテル。 (何か、面白くない話かも...) ディアッカはそんなことを思いながらも、律儀に時間を守って、そのホテルの最上階のラウンジに向かった。 そこには父親の姿はあった。 「なに?」 用件を言われず、ここに呼び出されたのだ。 「座りなさい」 そう言って父は自分の隣の椅子を勧める。 つまり、『相手』が来ると言うことだろう。 間をおかず、それこそ時間ぴったりに『相手』はやってきた。 思ったとおり女性だった。 此処最近、自分の周囲で婚約話が上がっている。 (あいつらも、親に騙されたっつってもんなー...) ディアッカはそっと溜息を吐いた。 (ま、俺の場合、オヤジは何も騙してないけど...) 事情を何ひとつ話さずに呼び出しただけだ。 彼女は「お待たせしました」とディアッカの父に声を掛けてディアッカに目礼をする。 ディアッカも目礼を返した。 「さて、嬢。不肖の息子、ディアッカです。ディアッカ、・嬢だ」 「どうも」とディアッカは挨拶をし「こちらこそ」とは返す。 計ったようにディアッカの父の携帯が鳴った。 「すまない、評議会からの呼び出しだ」 そう言って彼はラウンジを後にした。 「えー、と。紹介されてその後の関係とか言い忘れてる親父ですみません」 ディアッカは軽く頭を下げた。 「あなたが察しているのなら、それで充分ですよ。どうやら、わたしとあなた。婚約者らしいわよ」 「やっぱり」とディアッカは呟く。 「タッド・エルスマンのご子息。興味はあるわ」 「あー、親父の金に?というか、そう明け透けに言われるといっそ清々しいね」 皮肉を込めて言ったつもりだった。 しかし、目の前の彼女はきょとんとした。 「世間知らずの坊ちゃま...」 寧ろ哀れんでいるような表情だ。 「どういうこと」 素直に聞いてみると、 「家にかえって『』を調べてご覧なさい」 と答えてくれない。 どこかその名前を嫌っているようにも思える口調にディアッカは興味を見せる。 「そうしてみる。じゃあ、何で親父の子供の俺に興味あるの?」 「ねえ、髪の毛ちょうだい」 (うわっ!) ディアッカはドン引きした。 どういう趣味の人だろう。 ディアッカの反応に彼女は盛大なため息を吐いた。 「本当に何も聞いていないのね。わたしの勤務先は、フェブラリウスにある遺伝子研究所」 つまり、プラントで一番大きな機関だ。 「えーと...で?」 「人はいろいろと嘘をつくのよ。でも、遺伝子は嘘がつけない。いいわ、素直よ」 「それもそれで、そこそこキモイんだけど」 ディアッカの素直な感想には目を細める。愉快そうに。 「だから、髪の毛ちょうだい」 「俺の遺伝子解析するってこと?知ってるんでしょ?」 だからこその婚約ではないだろうか。 このプラントでは、コーディネーターの存続のため、対となる遺伝子を持つ者同士が結ばれることを政策として掲げている。 そして、自分の父親はそんな政策を決定したプラントの最高評議会議員なのだ。しかも、遺伝子工学に重点を置いているフェブラリウス市の代表。 対となる遺伝子を持つ者を見つければ息子と婚約させないわけには行かない。 (立場ってのも分からないでもないけど...それなら逃げんなよ) 吐きたい溜息をひとまず呑んでディアッカは正面に座るを見た。 美人だと思うし、彼女の口ぶりから言うと、家も申し分ないのだろう。 ただ、本人がちょっと変人のようだ。 「ま、別にいいけど」 「ありがとう」 そう言って彼女は自分のハンカチを出した。 (今すぐかよ...) 長居するつもりがないのは良く分かった。 ディアッカは髪の毛を1本抜いて涙目になった状態で彼女のハンカチの上に自分のブロンドの髪の毛を置く。 「あら、意外と細いのね」 「ハゲの遺伝子は持ってないはずだから」 一応、親もまだフサフサだし、祖父もまた然り。 「調べれば分かるわ。潜在的に持ってる可能性もあるしね」 少し楽しげに彼女が言う。 「やなコト言わないでくれる?」 肩を竦めてディアッカが返した。 「んで?」 ディアッカの言葉に彼女は首を傾げた。 「はこの後用事は?」 「わたしの方が年上」 「年増ってことデスカ、さん」 「腹立つー!」 そう言いながらも彼女は笑っている。 「そうね、わたしこういうところの食事って好きじゃないの。降りない?」 「口に馴染んでんじゃないの?」 「わたしのほうが年上」 「口に馴染んでるんじゃないんですか?」 言いなおしたディアッカに「よろしい」と彼女は頷き、 「親に連行されるお店はこういうところばかりだから。親がいないところでは、肩の力抜いておきたいじゃない?」 「ま、俺もあんま好きじゃないし。賛成ですよ、さん」 そう言ってディアッカが席を立つ。 支払いは、既に父が済ませていたらしく会計をすることなく出て行くことが出来た。 |
桜風
12.5.21
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