Seriously 10





ディアッカが案内したのは博物館だった。

「意外とこういうとこ来てなさそうだな、って」

「さすがフェブラリウス市...」

遺伝子研究博物館と書かれている。

「人、来てるの?」

「これまた意外とな」

そう言いながらディアッカがチケットを購入しての手を引いて中に入っていく。

展示されているのは遺伝子工学やコーディネータの歴史だった。

確かに、遺伝子研究となればコーディネーターの歴史そのものだろう。

「何では遺伝子研究者になったの?親父さん、大反対したんじゃないの?」

「大反対したけど、そのときは何とか押し切った」

「変な条件つけたんだろう。その場凌ぎの」

指摘されては黙る。図星だ。

ディアッカは肩を竦めた。

「何で遺伝子?」

「お父様が、軽視しているものだから」

「は?」

ディアッカが間の抜けた声を漏らした。

「要は..親に対する反抗」

気まずいようには呟いた。

結局、一番家を、父親を意識していたのは自分なのだ。

親が反対することを押し切って、少し自立できた気になる。

しかし、それは欺瞞で、結局親の言いなりになって、利用価値のある政治家の息子と婚約し、おそらくその婚約の解消も親の言うままにしてしまうのだろう。

「長い反抗期だなぁ」

呆れたようにディアッカが呟く。

「悪かったわね」

拗ねたようにが返した。

「そういやさ、。そろそろあれから3ヶ月だけど」

ディアッカに指摘されて気が付いた。自分の読みではそろそろ親が何か動きを見せるはずだ。

(やだな...)

素直な気持ちだ。

彼との婚約は親に言われるがままに受けたものだが、初めてそれを『良かった』と思ったのだ。

これまで数々あった親から与えられ、命じられた行動で唯一の自分にとってのプラス。

それが目の前にあるディアッカ・エルスマンという存在だった

「解消しないよ」

「は?」

「婚約」

自信満々にディアッカが言う。

「けど、父はプラントの政策とかそういうの全く興味がなくて、それこそ地球に降りても良いと思っている人よ?」

そうなれば、プラント政府が取っている遺伝子による婚約制度は関係なくなる。

「さっきさ、俺言ったよな。本気になってるって」

「うん...」

「だから、の親父さんは俺を手放せない」

そう言ってディアッカは自信満々に笑う。

「どういうこと?」

「俺、本気出すの好きじゃないんだ。俺の信条は、『物事は適当に。敵は少なく味方は多く』なんだよ」

何が言いたいのだろうか、さっぱり分からない。

「本気を出すと色々とやっかみとか受けるだろう?そういうの面倒だから、基本的に適当に。ただ、親父の存在があるから一応上位で。要は、トップは面倒なだけだから他のヤツに譲って、親のメンツを潰さないところで手を抜いてたの」

はコクリと頷く。

「ま、だからやっぱり俺を見る多くの目は『エルスマン』なわけ」

つまり、親の影響が大きいということだろう。はその状態がよく分かる。

「けど、の親父さんはそれだと俺のことポイと捨てちゃおうって思うんだろう?親父の利用価値って実は意外とないはずだよ」

フェブラリウス市代表の評議会議員だが、研究機関が多いフェブラリウス市にはの父親は興味を抱いていない。に対する態度を見れは推して測ることが出来る。

『エルスマン』の息子が娘の婚約者という状況で最大限の利益を上げて、それ以上の利益が見込めなくなったら婚約の解消をして地球に降りる気でいるのかもしれない。

「けど、俺自身に価値を見出したらそれはまた別の話だ。俺の場合、まだ道が決まっていない。上手く動かしてしまおうと考えるはず」

は否定できなかった。先日の上機嫌な父親の口ぶりからそんな雰囲気が覗えたのだ。

「だから、ちょっと利用させてやるんだ。の親父さんに」

「何を言ってるの?」

しかし、ディアッカの目は本気だった。ついと目を眇めたその表情は自信に満ちていた。

「俺は、もうに本気だから手放す気はない。ただ、まだ俺一人で何とかするには時間がいる。だから、その時間稼ぎのためにの親父さんに俺の名前を利用させてやる。気付いたときにはもうは俺のもの」

「子供の幻想、と言わせてもらうわ」

「なら、その子供の幻想にちょっと付き合ってよ。けど、、覚えておいたほうがいい。子供は、あっという間に大人になるんだ。気付いたときは、もう遅いかもね」

あまりに自信たっぷりにディアッカがそんなことを言うからは少しだけそんな未来を描いてしまった。

父親からの呪縛から解き放たれるその未来を。

夢のようだと思った。

だが...

「けど...本気があるから、浮気があるんでしょ」

ポツリとが呟く。

きょとんとしたディアッカはやがて「あっはっはー!」と盛大に笑う。

「ちょっと!」

博物館の中でこんな大声で笑わないでもらいたい。

慌ててが止めるとディアッカは「ごめんごめん」と軽く謝る。

「何、妬いてんの?」

「妬いてなんか...!」

ムキになるのおでこにディアッカはキスをした。

途端には固まる。

「こんな可愛い婚約者はそうそういないと思うから。浮気してる間に逃げられてもやだし」

そういったディアッカはの耳元に唇を寄せた。

がいれば、それでいいよ。俺はね」

その言葉には真っ赤に染まる。

「とりあえず、には色々慣れてもらわなきゃなー」

「色々って?!」

おっかなびっくりで聞くにディアッカはパチンとウィンクして、「それは、追々。ゆっくりと」と艶を帯びた声で言う。

は思わず腰を抜かし、ディアッカは再び声を上げて笑った。









桜風
12.7.23


ブラウザバックでお戻りください