Silver1





その日。

新しく出た本を購入するべく、イザークは人通りの多い通りを歩いていた。

「そこを行く少年、まあそこに座って」

何となく女性の声が聞こえた気がしたが、自分だとは思わず足を止めずにいると

「こらこら、待って」

と、腕を掴まれた。

「何だ?!」

眉間に皺を寄せて、不機嫌を顕にするイザークだったがそんなことはお構いなく、声を掛けた女性はイザークを引っ張っていった。

「はい、ここに座って」

「だから、何だと言うんだ?!」

乱暴に腕を払ったイザークが語気を強めて再び問う。

しかし、その女性はケロッとして

「貴方の絵が描きたいの」

と当たり前のようにそう言った。

それが本当に当たり前のように言われたのでイザークも思わず座ってしまった。


これが、2人の出会いである。


「あたし、っていうの。ヨロシク」

手を止めることなく彼女は自己紹介をした。

明るい色の長い髪を後ろでひとつに結び、頭にはバンダナをしている。服はTシャツにジーパンとラフで、鳶色の目がせわしなくイザークとスケッチブックを行き来している。

「...まだか?」

の自己紹介を流してイザークは声を掛けた。

「なーに言ってるのよ!今、そう、たった今描き始めたばかりじゃない!もっと心のゆとりを持った大人になりなさい」

早く家に帰って本が読みたい。

今回購入した本は、地球のアフリカの何たら族の伝承を基にした生活実態の観察考だ。

非常に興味深い。

それなのに、今自分の置かれている状況は...

わけの分からない女に引き止められて何でか知らないけど絵のモデルをしている。しかも、街頭で。

ありえない...

「キミ楽しいね〜」

「俺は楽しくない」

「そ?私は楽しいよ。キミを描けて」

そう言うの表情は本当に楽しそうだった。

「お前は、何故こんなところで絵を描いているんだ?」

「んー?実はさ...私の家族、もう居ないんだ。それで、ご飯を食べていくのに絵を描こうかなって。ほら、画材さえあればいいでしょ?結構身軽に移動できるのよ。それに、あたし、こう見えても結構絵が上手いのよね。更に、絵を描くのが好きと来た。だったらこれっきゃないデショ?」

そう言ってウィンクを飛ばして再び鉛筆をはしらせる。

こんな事情を聞いてしまったからには、イザークももう文句が言えず、大人しくモデルを務めた。

が、ただじっとしているのも退屈での手元を覗き込んでみると

「ほう、中々だな」

と感嘆の声が出るくらいの作品が出来ている。

「ああ、まだ見ちゃダメよ!自分の描かれてる絵を見たらモデルの表情が変わっちゃうんだから」

と言いながらはそれを抱きしめてイザークの視界から外した。

「良く分からないが、そういうものなのか?」

「そういうものなのです。だから、ほら。さっきの姿勢に戻ってよ」

肩をすくめてイザークは、先ほどの姿勢に戻った。


「出来たよ!」

そういったの表情は、とても生き生きしていて思わずイザークの表情が穏やかになる。

から渡された絵を見てイザークは

「凄いな...」

と、素直に感想を漏らした。

「いくらだ?」

と代金を払おうとすると

「ああ。いいよ」

と言う答えが返ってきた。

イザークは眉間に皺を寄せ

「生活がかかってると言ってなかったか?」

と聞くと

「うん。でも、今日明日どうこうなるってコトはないから大丈夫!それに、あたしはキミの絵を描けただけで幸せだったし」

イザークは素で照れてしまい、結局に勝てずに大人しくに描いてもらった自画像を自宅に持ち帰った。






イザ王子のお誕生日vvv
実は誕生日シリーズでは、この2人が一番好きだったりします。

桜風
06.8.8


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