| Silver7 |
| その年のイザークの誕生日の前日。 珍しく夕食を一緒に摂っていた母に聞かれた。 「イザーク。明日は何か用事が入っているのかしら?」 「いえ、特には」 「そう。では、夜の誕生日パーティ以外の用事は入っていないのよね?」 「はい。何か?」 「明日、お客様がいらっしゃるの。あなたも同席してちょうだいね」 「俺もですか?」 「そうよ。氏がいらっしゃるの。あなたにも同席してもらわないといけないのよ」 よく分からないが、用事もないし断る理由が無い。 母と氏の接点も見当がつかないが、イザークは了承した。 翌日。 やけに家の中が張り切っている印象があった。 母が陣頭指揮を執り、昔から家で働いている人たちも妙に気合が入っている。 確かに、氏は財界のトップだが、それにしたって奇妙だ。 そう思ったが、イザークは自分の考えすぎだろうと思い、母の好きなようにすればいいと干渉しなかった。 やっと家の中が落ち着いたと思ったらまた今度はホール辺りが騒がしくなった。 来客があったのだろう。 時計を見るとそろそろ母の言っていた時間だ。 イザークは読みかけの本に栞を挟み、客間に向かった。 ノックをして、 「失礼します。イザークです」 と声を掛けると中から入るように促された。 ドアを開けて中の人を見てイザークは絶句する。 そこには、『髪は赤みがかった茶色でストレート。瞳の色は鳶色で手足が長く体も細身で、深窓の令嬢に相応しいくらい儚げ』な女性がドレスに身を包んで座っていた。 しかし、にしか見えない。 「...?」 絵描きをしていたときとはずいぶん見た目の印象が変わるが、それでも、に思えて仕方が無い。 「イザーク、嬢と知り合いなの?とにかくお入りなさい」 母に声を掛けられてイザークも気を取り直す。 促されるまま母の隣に座り、イザークは「ええ、まあ」と曖昧に返事をしながら失礼にならない程度にを見た。 目の前に居るは『してやったり!』という表情をしている。 「さて、イザーク。今日な貴方に同席して貰ったのには理由があるのよ」 話を切り出されてイザークは母に注目した。 「何でしょう、母上」 「イザーク君。君と私のの婚約が正式に決まったのだよ」 氏の言葉にイザークは思わず立ち上がり 「婚約?!」 と驚いた。 「私のでは不満かね?」 イザークの反応に氏が聞くと、イザークは慌てて 「い、いえ。突然のことでしたので驚いてしまいまして...そんな、私が氏のご令嬢と婚約だなんて」 と返事をした。 それを聞いた氏と母は満足そうに微笑み、目の前に居るは居心地が悪そうに身じろいだ。 そして、気を取り直したように 「お久しぶりです、イザークさま。・です。わたくしの方こそ、イザークさまと婚約だなんて夢のようですわ」 あの絵描きのと同じ顔でホンモノのレディのように振舞う彼女にイザークは一瞬 (気持ち悪い...いや、気味が悪い...) と、悪寒が走ったなんて誰にもいえない。 そして、あの絵描きと目の前に居る令嬢が同一人物だということに段々自信がなくなってきた。 しかし、そのすぐ後に彼女があの絵描きのだということが分かった。 親たちが気を利かせて席を外したのだ。 親たちがいなくなってからイザークは恐る恐る声を掛けた。 「...?」 「ん?何?銀の少年」 そう呼ぶのはあの以外に居ない。 安心したイザークは緊張がほぐれた。 「家族は亡くなったって言わなかったか?」 初めて会ったとき、はそう言った。 「言ったわね」 「ちゃんとしっかり生きてるじゃないか!!」 「いやぁ。だって、そう言わないと誰も相手にしてくれないんだもん!」 悪びれることも無くはそういう。 そんなに頭痛を覚えながらも 「ユニウスセブンへ行かなかったのは?」 と気になっていたことを聞いた。 「『行かなかった』じゃなくて、『行けなかった』てのが正しいの。シャトルに乗れたんだけど、出発ギリギリでお父様に見つかって連れ戻されたのよ。だから、行けなかった。一度搭乗手続きをしているからリストに載ったままだったんだよね、きっと。家に連れ戻されたけど、また家出しようと思ったらお父様に婚約が決定したって聞いて。急いで逃げなきゃって思ったけど、相手の名前を聞いたら、それもなあ、いっかなーって思っちゃってね」 「じゃあ、あのとき『また逢える』って言ったのは...」 「うん、今度の婚約者殿の誕生日にお伺いするって聞いてたから」 何だか癪だが、それでも嬉しさの方が勝ってしまう。そんな自分に俯いて溜息をつき、イザークは再び顔を上げてを見た。 一度は失ったと思った彼女とまた、笑いながら自分の目の前に居る。 「ま、そういうことなら」 そう言って立ち上がり、笑顔で手を差し出す。 それを見たはくすりと笑い同じく立ち上がって、 「そ。そういうことで、ヨロシク」 とイザークの手を握った。 その途端に、イザークはを強く引き、テーブル越しに抱きしめる。 「ちょ、イザーク?!」 慌てるに構うことなくイザークは 「覚悟しておけよ。俺を騙した罪は重いぜ?」 と囁き、口付ける。 「受けて立ちましょう、銀の婚約者殿!」 赤くなりながらもはそう答え、イザークに軽く口付けた。 |
結構酷いコトを考えるイザ王子(笑) そして、元来素直な性格の彼は、ずっとヒロインに騙されていたのでした。 お陰さまで完結しました。 ありがとうございます!! 桜風 06.9.24 |
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