| 彼女に拾われて数日経てば、取りあえず起き上がることは出来るようになった。 その数日の間に何とか彼女の名前を聞いた。 宇宙の藻屑になりたくないから教えて、としつこく5秒に1回言っていると彼女は溜息を吐いて「・」と答えた。 「んじゃ、って呼ぶね」 と言うと 「お好きにどうぞ」 と投げやりな言葉が返ってくる。 それ以降、ラスティは彼女の事を「」と名前で呼ぶようになった。 「ああ、さすがコーディネーター。ゴキブリ並みの生命力」 ベッドに座っていると部屋に入ってきた彼女にそういわれた。 「何、ゴキブリって?」 ラスティは初めて聞く単語を聞き返した。 いや、耳にしたことがある。虫だったか? は目を眇めて面白くなさそうな表情を浮かべ、 「本国に降りたときに見せてあげる。...というか、出てきたら呼んであげる」 彼女の言葉にラスティは驚いた。 「え、降りるの?地球に?」 「そうよ。何で?もしかして、プラントに帰れるとか思ってたの?おめでたいわね」 彼女は結構辛辣だ。 ラスティは意外とそういうのは気にならないが、きっと友達が少ないんだろうとかは思う。 だって、ここまでキツイ性格をしている彼女と一緒に居たいと思う人は少ないだろうから。 「じゃあ、何で今まで降りなかったのさ。後になればなるほど、降りられないでしょ?燃料の問題とかあるし」 ラスティが問い返すと 「ひょんなことから拾ってしまった人間が大気圏突入時の衝撃に耐えられるかどうか分からなかったからよ」 とぶっきらぼうに返す。 ああ、そうか。自分の回復を待ってくれてたんだ。 「もうちょい掛かりそう」 申し訳なさそうにラスティが言う。 「ま、そうでしょうね。けど...」 が睫を伏せて言い淀んだ。 「仕方ないって。命があるだけめっけもん」 努めて軽くラスティが言う。 銃弾で撃たれたラスティはまともな医療施設で治療を受けたわけではなく、彼女が応急処置をしてくれて拾った命だ。 まあ、あのヘリオポリスが崩壊したのだからまともな医療施設での処置は元々望めないものだったのかもしれない。 だから、生きているだけでも奇跡なのだ。 「。気にしない、気にしない」 彼女はチラリとラスティを見た。 そして、何事もなかったかのような表情を作る。 「食事、もう少ししたら持ってくるから」 彼女が部屋を出て行こうとしたとき、ラスティは首を傾げた。 「そういや、物資の補給とかどうしてんの?」 此処は廃棄されたコロニーだと聞いた。 だが、生命維持関係の設備はまだ生きており、それに関しては助かっている。だが、食事ともなると、そんなに蓄えがあるとは思えない。 このシャトルにもそれなりにあったかもしれないが、どう考えても予定よりも長く宇宙に滞在しているはずだ。 「知り合いがね、いい値段で売ってくれてるの」 彼女は振り返ってそう言った。 “いい値段”というのは、格安ではなく、きっと高額の方だろうな。 ラスティはそう思いながら益々彼女に恐縮してしまう。 元気になったら、働いて返せと言われても嫌とは言えない。 「参ったねぇ」 ラスティは呟いて再びベッドに寝転ぶ。 動かそうとした右手は全く動かない。寧ろ自分の腕ではないような感じだ。つまり、感覚がない。 「仕方ない」 態々口に出す。 自分を納得させるように、腕が動かなくなったと気づいたときから今まで何度もそうしてきた。 他は、大丈夫だ。 視力は落ちたし、もしかしたら聴力も多少は落ちただろう。 でも、左手も動くし、足は、少し引きずるようになるかもしれない。まだ歩いてないから分からない。 それでも、歩ける。生きていくのに少し不便だけど、それでも生きていけないことではない。 「大丈夫」 そう自分に言い聞かせて目を瞑る。 寝てはいけないと思いながらも意識はどんどん沈んでいく。 に起こされるまでまた寝ることにした。 |
桜風
08.9.8
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