| ガチャリ、とドアを開ける。 数ヶ月ぶりに帰ってきた自分の家は思いのほか埃っぽく感じ、また、同時に物足りなさも感じた。 プラントと地球の停戦という形でこの戦争はひとまず終わりを迎えた。 上が「やめろ」と言ったから、兵士たちはひとまず銃を下ろした。 ラスティの言ったとおりだったなと何となく感心した。 戦争が終わり、ディアッカはプラントに帰ると決めた。アスランも色々と事情を抱えており、彼はオーブに降りると決めたようだ。 そんな中、ラスティもオーブに降りると決めたのだが、クサナギの出発の寸前にドアから蹴落とされた。 蹴落としたのはだ。 「ちょ!!?ものっ凄く酷い仕打ちだよ!!??」 ラスティが抗議の声を上げる。 見送りに来ていたディアッカが何とか支えてくれたため、格好悪いことにはならずに済んだが、この扱いは心外だ。 しかし、はその抗議を受け流し 「心配してくれる家族が居るんだから、帰りなよ」 と言い放ってドアを閉めてロックをする。 ラスティは納得いかないといった不満いっぱいの表情を浮かべてを見上げていた。 そんな彼の表情には表情を柔らかくする。 彼女が口を動かして何事かを言う。 ラスティはふい、と彼女から顔を背けた。 は苦笑してそのまま窓から遠ざかり、見送りに来ていた者たちにはその姿が見えなくなった。 オーブに帰ってからは国の復興に追われた。 はメカニックではないし、力仕事が得意ではない。 だが、研究者として色々な情報システムの開発の必要に迫られた。これだけ国に打撃を受け、ネットワークも壊れて簡単に修復は出来ない。 だから、ついでに新しいシステムを開発してしまおうという話になり、お陰でせっかくオーブに帰ってきたのに自宅に帰れず仕舞いである。 そんな多忙な日々を送った末、やっと自宅に足を踏み入れることが出来たのはオーブに戻ってきて2ヶ月が経っていた。 ちなみに、明日もモルゲンレーテに出社でまた当分泊り込みになると予想される。 家の中の掃除は、まだ出来そうにない。 の家はオノゴロでも中心部から離れていたため、そこまで周囲にも戦争の被害はなかった。 幸い、と言うべきなんだろうなと帰りながら思った。 帰る家を失くして、それでもオーブに帰ってきた人の話を聞いたりもした。 埃くさい部屋の匂いがどうしてもイヤで窓を開けた。 新鮮な空気が部屋に入り込むと同時に、堪っていた埃まで舞う。 これでは、快適にベッドで寝ることもままならないだろう。仕方ない、か。 そう思いながら荷物を開けて洗濯物を取り出す。 洗濯をしている間に、掃除をして、と何とも所帯じみた日常的な思考に笑う。というか、洗濯機は動くのだろうか... 笑って、ふとまた思い出す。 誰かと居ることに慣れてしまうとどうもこの部屋は居心地が悪いな、と思いながらラスティに貸していた部屋を見る。 ドアを開けてみるとやはり埃っぽい。 しかし、この部屋の住人はもう空の上で家族と平和に暮らしている。戻ってくることはないだろう。 だから、この部屋を掃除するのは優先順位を付けていくと最下位だ。 部屋のドアを閉めて洗濯機に向かうと玄関の鍵が開く音がした。 驚いては振り返る。 ドアが開いて夕焼けの光に溶けるように人が立っていた。 すぐにそれが誰かと言うのに気がついて、咄嗟に言葉が出なかった。 「ただいま」 と何事もなかったかのように彼は家の中に入ってくる。 「...不法侵入。誰の許可を得てここに入ってきてるのよ」 目を眇めたが言うと彼は苦笑して 「鍵、貰ってるってことは不法侵入じゃないよね?」 とキーホルダーについている鍵を振る。 チャリチャリと音がした。 は言葉を捜す。 「ご..ご家族は?一緒に生活できたんじゃないの?生きてるって知って喜んだんじゃないの?」 の言葉に彼はまた苦笑する。 「うん、無茶苦茶喜んでくれた。生きてて良かったって。体が多少不自由でも、命があってよかったって」 彼の言葉には安心した。 自分は、体の一部が不自由で親に捨てられたようなものだから。だから、自己満足のために彼を無理やり助けた自分の行動にはそれなりに責任を感じていた。 「そうだ。見て。少しだけだけど、右腕も動くようになった。プラントの医療技術はやっぱ凄いね。でも、ま。コレが限界らしいけど」 そう言って彼は笑う。 「で、プラントだとどうも居心地が悪くてさ。オーブなら、研究者として雇ってくれるかなーって思って降りてきた。まあ、最初親は良い顔をしなかったけど。最後にはちゃんと納得してくれた。だから、家出するなって追い出さないでね?」 言葉を先回りして釘を刺されたはふい、とそっぽを向く。 「オレさ、行く場所がないんだよ。ここに置いて。家賃払うからさ」 「...プーのクセに?」 が言うと 「仕事も紹介して?」 とめげずに彼が言う。 は笑い、「早くドア閉めて」と声を掛けた。 窓の外にはオレンジ色の空が広がっている。 オレンジ色の空はいつまでもあがき続ける。そして、どこか優しく見えるようになった。 部屋に入ってきている人物を見て小さく笑う。 俯いて彼に聞こえないような声で「おかえり」と呟き、は顔を上げていつものように皮肉っぽい笑みを浮かべてみた。 |
桜風
08.11.17
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