| つい数時間前に月基地に寄港した。 月での任務はそう長くなく、それが終わったら久しぶりの故郷だ。 月の任務は今の情勢だと比較的危険が少ない。だから、家族の心配が減る。それはありがたいことだと思う。 そんな中、月に戦姫がやってくることを聞いて驚いた。 「が来るんだって。久しぶりだよね」 嬉しそうに言ったのはラスティだ。 「つか、あいつも忙しくしすぎじゃね?休んでんのかねぇ」 「ええ、心配ですね。ラクスも忙しいみたいですけど、の方が危険な場所へ赴くことが多いですしね」 心から心配している表情を浮かべて言うのは、ディアッカとニコルだ。 そんな会話をしている彼らをイザークは静かに見ていた。 彼らが同時にイザークを見た。 「お前、感想ないの?」 「何がだ...」 呆れたようにイザークが返した。 「いや、だぜ?オレらザフトに入って中々会えなかったんだから久しぶりだなーっていう感慨..、ないか」 ディアッカの言葉にイザークの眉間に皺がよる。 普段から結構不機嫌な表情を浮かべていることが多いイザークが更に不機嫌顔だ。 「何故決め付ける」 「婚約者がいるじゃん、お前。そりゃ、色々あるだろうけど。素直に『に会えて、ちょー嬉しい〜!』とか言ってたら面倒だろう?何せ、お相手はクルーゼ隊長のご息女だ。すぐに彼女の耳に入るだろうし、クルーゼ隊長だって..なあ?」 同意を求めるようにディアッカが言う。 苦笑しながらラスティが「だよね」と頷いた。 「アスランも、居ればよかったのに...」 せっかくに会えるのだから、と言った風にニコルが呟いた。 イザークは面白くなさそうにふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。 部屋のブザーが鳴ってドアが開く。 「おーい、そろそろ戦姫が到着するってよ。出迎えだ」 声を掛けてきたのは自分たちの先輩パイロットのミゲル・アイマンだ。 「そういや、お前たちって戦姫と仲が良いって聞いたんだけど...?」 廊下を進みながらミゲルが言う。 「あー、まあ。幼馴染みたいなもんかなー?ほら、親たちの仕事の関係上色々と昔から顔を合わせることが多くてさ」 ラスティが応えると「へえ」と興味を持った様な相槌を打った。 「ああ、だからアスランがラクス・クラインの婚約者なのか」 「そういうことですね」 ニコルが応える。勿論、遺伝子が対となっていることも関係していると聞いているが、それは果たして真実かどうかは分からない。 平和を歌うラクス・クラインは現最高評議会議長であるシーゲル・クラインの娘で、アスランは国防委員長であるパトリック・ザラの息子だ。 政治と軍の平和的な結びつきを表した婚約で、政治的意図を隠そうとしていない婚約だと思う。 「戦姫は?」 「が、何?」 「いや、婚約とか」 彼らを見渡してミゲルが問う。 の方が姉だし、同じくシーゲル・クラインの娘だから色々と政治的意味を持たせての婚約はありうるのではないかと思ったのだ。 「んー、聞いてないな。今のところ」 「そうですね。遺伝子が対になっている誰かと婚約するんじゃないんですかね。一応、議会で決まった制度ですし。議長の娘がそれを無視するっていうのは考えにくいですよ」 ニコルの言葉に「なるほどなー」とミゲルは呟いた。 「んで、お前はクルーゼ隊長のご息女と婚約。会ったことあるのか?」 不意に話を振られてイザークは少し戸惑った様子を見せたが、ひとつ溜息を吐いて面倒くさそうに口を開いた。 「前の休暇のときに。会ってすぐに婚約って運びになったな」 イザークの表情が冴えない。 まあ、それもそうだろう。遺伝子によって結婚相手が決まるのだから、何の感慨もなく機械的に進められてしまう婚約だ。 「ディアッカは?」 「婚約?」 ディアッカの言葉にミゲルが頷いた。今、自分と一緒に歩いているのは良家の坊ちゃんたちだ。平凡な家庭で育っている自分と違って日常的にそういう話があってもおかしくないと思っている。 「あー、何か。オレがもの凄いガキのときにその対になる人、事故で亡くなったって。だから、婚姻統制については無視しなきゃいけないらしいんだけど。相手も対になるのがいないことが条件になるだろうなーって親父が言ってたな。今んとこ、そういう話はない。好きに恋愛しろってのが親父の言葉」 「んじゃ、ラスティは?」 「オレは..婚姻統制が布かれる前にもう結婚してたみたいなんだ。既婚者は別れてまでその制度に従わないといけないわけじゃないからね。オレも当分フリー」 気楽にラスティが言った。 ミゲルはニコルを見る。 「僕ですか?僕は..この間僕の遺伝子と対になる子が見つかったって言ってましたね。ただ、生まれたばかりの赤ん坊らしいです。だから、婚約するかどうかなんてまだまだ先ですし...僕もまだ現実味のない話ですね」 ざわざわと人の声が大きくなってきている。 「お、戦姫が到着したみたいだな」 そう言って、ミゲルが足を止めた。 ここらでいいだろうと思ったのか、イザークたちも足を止める。 やがてコツコツと靴音が廊下に響き始める。 久しぶりに見たは自分たちの知っている彼女とは違う者のように見えた。 本当のはあんな表情をしない。しない、というかもっと生き生きとした表情を浮かべて笑う。 余所行きの表情に何だか寂しさを覚える。 隣に立つラスティはに手を振った。ディアッカも敬礼ではない何かをしている。 ニコルは、きっと笑顔を浮かべているのだろう。 では、自分は...自分はどんな表情を浮かべたら良いのだろう。 どんな顔をして良いか分からないまま、結局は自分たちの前を通り過ぎていった。 「澄ましてたな」 少し可笑しそうにディアッカが呟く。 ああ、そうだったな... 何故か同意の言葉が口から出なかった。 |
桜風
09.11.30
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