| 月基地のザフト兵士に戦姫の舞についてのアナウンスが流れる。 「行くだろう?」 誘われてイザークは少し間をあけて「ああ」と応えてその会場となるドックへと向かった。 ラクスみたいに何処かのホールを使って舞を披露することはない。彼女は『戦姫』だ。戦場でしか舞うことはない。 だから、彼女の舞は一般人は見たことがない。 こんなに素晴らしいのに、とニコルが呟いたことがある。 が舞うとのことで、ドックは人が大勢集まっていた。 慰問、というがどちらかといえば兵士たちの士気を上げることを目的としているものであるその舞は、鬼気迫るものがある。 しかし、その緊迫感と静謐さを備えているの舞は兵士たちの間で非常に人気が高い。 「今回は、剣なんだな」 「新作?」 ディアッカとラスティがそんな会話をしている。 何も持たずに舞うときもあれば、前回は扇を使っていたと記憶している。 流れるような動きをじっと目で追っていたイザークだったが、近くにいたメカニックの噂に思わず目をそちらに向けた。 「おい、それは本当か」 「へ?」 「『へ?』じゃない。戦姫が..が隊長クラスのヤツとやってるだと...!」 胸倉を掴まれてメカニックは青くなる。 「おい、イザーク。どうしたんだよ!」 異変に気づいたのはディアッカで、イザークを止めに入った。 「もう一度言ってみろ」 それでもイザークは胸倉を掴む手を緩めず、益々締め上げる。 「だ、..だから。ウチの隊長が..い、言ってたんだよ。戦姫とヤれるって...」 「はあ?!」 イザークを止めるのを忘れてディアッカが頓狂な声を上げる。 「噂だって!ウチの隊長も、似たようなこと..言ってた。戦姫が夜伽してくれるって...」 メカニックたちは違う隊に所属しているらしく、とりあえず、それぞれの隊長が同じようなことを言っているらしい。 「イザーク、手を」 結局イザークに手を離すように促したのはニコルだった。が、ニコルの目には怒りの感情が宿っている。 イザークが手を離した途端、転ぶようにメカニックたちは逃げていった。 「どういうこと?」 ラスティが聞く。 「知るか!」 閉鎖空間のドックにイザークの苛立った声が響き、周囲の兵士たちは一斉にイザークたちを見た。 イザークの不機嫌声は勿論舞っているの耳にも届き、彼女は内心首を傾げた。 舞を終えて宛がわれている部屋に戻ったの元に客人が現れる。 「あら。久しぶりね」 は笑顔を浮かべて彼らを部屋に入るように促した。 だが、4人の表情が固い、というか明らかに怒っているのは何故だろう... 「そういえば、さっき。どうしたの、イザーク」 全員に紅茶を用意しながらが聞いた。 ちょっと驚いたから思わず足が止まるところだった。 「ちょっとさー、噂を耳にしてね」 ラスティが代わりに応える。 「噂?ああ、アスランが休暇もらってるってコト?」 カップがないので紙コップに紅茶を入れたがそれを配りながら言った。 「え、休暇もらってんの?うわー、良いなー。オレも別任務就きたかったなー」 ラスティが不満顔でそう言った。 あら、違ったのねぇ... そう思いながら射殺さんばかりの視線で自分を見ているイザークをチラリと見た。 アスランでは、ないようだ。 では、イザークが声を上げるくらいの何かというのは、何だったのだろう。 「...あのさ、」 言いにくそうにディアッカが切り出した。 「なに?ああ、熱いから気をつけてね。ミルクがいる??」 「あ、いや..そうじゃなくて」 いつもどおりのを前にもの凄く聞きにくいな、と躊躇っていると 「隊長たちの夜伽してるって本当?」 ラスティが爆弾を投下した。 すげー!とディアッカは空気を読まないラスティを心から尊敬する。 はきょとんとした。 やがて困ったように「何で知ってんの...」と笑う。 「本当なのか」 唸るようにイザークが言う。未だ射殺さんばかりの瞳だ。 「噂、です。そう思っている隊長たちは少なくないみたい。何でだろうね。慰問って言ったらそうなるのってどうかと思うよ、ホント」 呆れたようにはそう言い、自分にも淹れた紅茶を口にして「あつっ」と言って舌を出している。 「猫舌のクセにすぐに飲もうとするからだ」 射殺さんばかりの表情からもの凄く不機嫌程度にレベルの下がった表情でイザークが言う。 「で、何処で聞いたの?」 「さっきの、が舞っている時です。メカニックの人たちが噂してました」 「で、君たちは信じちゃったんだ?わたし、そんなに安くないよ〜?」 呆れたようにが言う。 確かに、信じてしまった自分たちは恥ずかしい。 4人は暫く俯き、気まずさをやり過ごすことにした。 |
桜風
09.12.7
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