| イザークの婚約パーティは盛大に行われた。 場所はジュール家縁の別荘だ。マティウス市ではあるが、イザークの住んでいる屋敷のあるコロニーではない。 ついでに、このコロニーは別荘地として栄えているコロニーで、大抵の資産家はこのコロニーに別荘を構えている。 先日新調したドレスを着てもパーティに参加した。 「クルーゼ隊長のご息女だから仮面してたらどうしようって思ったよ」 こっそりに耳打ちしてきたラスティの言葉に思わず噴出しそうになった。 それは、イヤだ... ジュール家のパーティということもあって、政界の重鎮なども招待されており、ラクスとアスランは挨拶をして回っている。非常に忙しそうだ。 も一応挨拶をして回るが、どうしても居心地が悪い。 彼女は戦争の象徴だ。 だから、こういう華やかでめでたい席にそぐわないと思う来賓だっている。 それは口に出さなくても、雰囲気で分かる。 は仕方なく庭に出た。 客人たちに取りあえず挨拶を済ませ、少し肩の力を抜こうと友人たちに目を向けた。 先ほどまで目にしていた夜色のドレスが見当たらない。 「はどうした」 ディアッカに聞くと難しい表情を浮かべる。 「まあ、ちょっとな...」 ディアッカが濁している内容を察してイザークは溜息を吐く。 全く... 文句のひとつでも言いたいが、それはできない相談だ。 イザークはそのまま庭に向かっていった。 別荘でも庭は無駄に広い。 幼い頃はそれが楽しかったが、今は維持とかそういうことを考え始めて面倒なことの方が多いように思えてきている。 ふと、人の気配がしてそちらに足を向けた。 林が開けたところに人がいた。だ。 彼女は舞っていた。 手の動きから、本来なら何かを持っているものだろう。扇だろうか。 イザークは暫くの舞を見ていた。 ふと、ターンをしたときに人の姿が目に入り、は慌てて動きを止める。 「あ、びっくりした」 笑いながらが言う。 「何だ、もうお終いか?」 「お終い」 「残念だ」 そう言いながらイザークはの元へと足を向ける。 「悪いな」 イザークの謝罪が何を指しているのか察しては首を振った。 「仕方ないよ。こういうおめでたいときくらいは忘れたいでしょ、普通」 だが、彼女を『戦姫』と担ぎ上げたのもまた彼らだというのに... 「というか、イザーク。主役が席外してどうするのよ」 今さらながらが咎める。 「肩が凝るんだ、仕方ないだろう。少しくらい見逃してくれよ」 「いい加減慣れてるでしょ?まったく...」 笑いながらが言う。 「それでも、やっぱりな。ラクスたちの時には他人事で『大変そうだな』って思ってたけど、こんな早く自分があちら側にまわるなんて思っていなかったよ」 だろうな、とも思う。 「さっきの」とイザークが言う。 「なに?」 「さっきの舞。初めてだろう?」 「ええ、まあ。見なかったことにしてちょうだい」 そう言いながらはすらりとした白い指を口元に当てる。 暫く考えてイザークは「もう1度見せてくれたら」と返事をした。 は「えー...」と言ったがイザークは撤回しそうにない。 まあ、暇だし。 そう思ってはまた先ほど舞っていた位置まで歩き、「約束よ」と言って舞い始める。 ガサリ、と音がして人が現れた。 イザークの婚約者だ。 は舞う足を止めてドレスの裾を摘み深く礼をする。 「ここで何をしていらっしゃるのですか。わたくしのイザーク様と」 責めるようにそういわれては困った。 別に特に何もしていない。 「申し訳ありません、嬢。彼女の姿が見えなかったので探しておりました。私の、大切な友人ですから」 イザークが言うと彼女は拗ねたようにツン、とそっぽを向く。 イザークは困った表情を浮かべている。 ああ、お似合いだな... は深く頭を下げた。 「申し訳ありません、様。貴女の大切な婚約者であるイザークの手を煩わせてしまって。その上、様にも不快な思いをさせてしまいましたこと、お詫び申し上げます」 彼女はつい、とを見てそのまま無視をして邸に向かっていった。 イザークは一度を振り返る。 は手を振ってイザークを追いやる。早く彼女を追いかけろ、と。 「すまない」 短く言ってイザークはそのまま婚約者の後を追った。 イザークの姿が見えなくなり、は薄く笑みを作る。 そして、先ほどの舞の続きを舞う。 静寂の中、月の光を浴びて静かに最後まで舞った。 |
桜風
09.12.28
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