| パーティの最後の客が帰って行き、イザークは婚約者を家まで送った。 家、というかこのコロニー内の別のジュールの別荘だ。彼女の住んでいるコロニーまで帰るのには少し遠いので部屋を用意しているのだ。 勿論、上司であるクルーゼもその別荘に泊まってもらう。クルーゼは一足先に戻ったようで、既に姿はなかった。 「ああ、すまないね、イザーク」 別荘について彼女を家の中まで送り届けるとクルーゼが出てきた。 「いえ」と言いながらイザークは敬礼を向けた。 「もう!イザーク様。家の中でまで敬礼だなんて!」 婚約者にそう非難されてイザークは困り顔になる。 「。そんなにイザークを困らせるものではないだろう」 優しく諭すようにクルーゼがそう言い彼女は「はーい」と少し拗ねたように返事をした。 「少し上がっていかないか、といっても。此処は君の家の別荘だがね」 断るわけにもいかず、イザークは少し家に上がることにした。 クルーゼがワインを出した。 「どうだね?」 「頂きます」 イザークもワインをグラスに注いだ。 「嬢は、途中から席を外されていたね。少し、申し訳なく思ったよ」 突然の話を始めたクルーゼにどう反応して良いか分からず、「は...」と相槌を打つ。 「彼女は、我々ザフトになくてはならない存在だというのに。そして、そうさせたのは..、と。招待した客のことを悪く言うのは辞めておこう」 苦笑してクルーゼはワインに口をつける。 「・クラインは、我々ザフトの羅針盤だ。いや、違うな...ポラリスだ」 「ポラリス..北極星ですか?」 クルーゼは、いつもだが、色々と言葉に含みを持たせて話すことが多い。ディアッカはそういうのが好きじゃないと零したことが1度ある。 自分も正直苦手だ。 「北極星は、旅人にとってはなくてはならない星だということは、君も知っているね?」 クルーゼの言葉に「はい」と頷く。 「あの星は動かない。あの星が見えている方角は北だ。それが分かれば自分の進みたい道がどちらに向いているかが分かる」 「何故、彼女がポラリスなのでしょうか...」 「彼女が戦場に現れると兵士たちの士気は間違いなく上がる。多くの兵たちが彼女のためにナチュラルを、地球軍の戦力を削いでいく。これは、実際に君も耳にしたことがあるだろう」 確かに、聞いたことがある。 だが、彼女は戦争させたくて慰問に訪れているのではない。人を殺させるように煽っているわけでもない。 しかし、士気があがるのも事実だろう。 「彼女が舞い続ける限り、我々ザフトは足並みを揃えてナチュラルを殲滅する作戦を遂行できるよ。彼女は我々に進むべき方角を示してくれている。おそらく、これからもそうであり続けるだろう」 ざわりと何かが腹の中で動くような不快感に襲われる。 違う...違う...!! 彼女の舞はそんなもののためにあるんじゃない。 彼女の願いはそんなものじゃない。 彼女の存在はそんな穢れたものでない。 「どうかしたかね、イザーク」 「いえ。もう遅いので私はこれで失礼します」 ソファからイザークが立ち上がる。 「あら、イザーク様。お泊りになりませんの?」 そう言ってドレスを脱いできたがイザークの腕に絡む。その体温にすら嫌悪感を感じる。 何だ... 自分の感情に戸惑いながらも 「いえ、私はこれで失礼いたします。明後日、ニコルの演奏会に招待されていますので、迎えに参ります」 と事務的に婚約者の役割を演じて足早に玄関へと向かった。 「イザーク様」とイザークを見送りに来ていたが目を瞑り、顔を上げる。 一瞬イザークは眉間に皺を寄せたが、彼女が求めるとおりキスをした。 触れるだけのそれで済ませようとしたが、唇を合わせた途端彼女の腕が首に絡みつき、そのまま誘うように舌が進入してくる。 少し不快に思いながらも仕方なくそれに応え、やがて離れる。 「それでは、また」 「明日、お会いできませんか?」 潤んだ瞳でそういわれ、一瞬言葉に詰まりながらも「申し訳ありません。明日は少し用事が入っておりますので...」と断ってイザークは出て行った。 「お父様、気に入らないわ」 イザークを見送った後、戻ってきた彼女が呟く。 「まあ、待ちなさい。もう少しだ。もう少し待ちなさい。そうすれば、あの女は彼の手の届かないところにいくのだから」 クツクツと喉の奥で笑いながらクルーゼが宥める。 「早くそうなればいいのに」 呟いて彼女はイザークの使っていたグラスでワインを煽る。 早く、消えてしまえばいいのに... |
桜風
10.1.4
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