| イザークが徒歩でパーティの会場として使用した別荘に戻っていると前方に見慣れた人物がいた。 知らず歩調が速くなり、結果的に駆けていた。 「」 呼ばれて振り返る。 「あれ〜?」 足を止めては首を傾げた。 「どうしたの?」 「それはこっちの台詞だ。こんなに遅く、そんな格好で...」 彼女はドレスから普段着に着替えていた。 「ああ、車に着替えを積んでたのよ。車の中で着替えたから、こうなってるの。さっきまでニコルのところで皆で人生ゲームしてたの」 「...皆?」 眉間に皺を寄せてイザークが問い返す。 「ニコルと、ディアッカとラスティ」 ああ、だから途中から姿が見えなかったのだな。彼らは母に挨拶をして帰ったらしい。 お陰でパーティ後半は息抜きが出来なかった。 「というか、人生ゲーム?」 「わたし、ぶっちぎりで勝ったけどね!」 「最下位は..ディアッカか」 「あたり!」とは笑いながら応えた。 「そういえば、」と言ってじっとイザークを見上げる。 少し居心地が悪くて一度視線を外してイザークは「何だ」と聞き返した。 「様、ご機嫌直ったようね?」 伺うようにが言うとイザークはうんざりしたような表情で「まあな」と応える。 は苦笑してイザークにハンカチを渡した。 不思議そうな表情でそれを受け取り、を見る。 「ここに来るまで誰にも会わなかった?」 「ああ、もう遅いしな。で、何だ?」 イザークの問いに応えるようには今度は鏡を取り出してイザークに渡す。 「口の回り凄いことになってますわよ〜。口紅」 笑いながらそう言う。 慌てて鏡を見たイザークは力の限り口の周りを借りたハンカチで拭いた。 「こらこら、優しく拭いてあげなよ」 「俺の口だ」 「イザークの口がかわいそうだ」 笑うにふん、と鼻を鳴らして仕方なく少し優しく拭くようにした。素直なイザークに笑いを堪えながらはイザークの作業が終わるのを待った。 「洗って返す」 そう言ってから借りたハンカチを無造作にポケットにしまい、鏡を返した。 が見ても、目立たないなと納得するくらい口紅が取れた。 「ま、仲良きことは美しきかな、ですねー」 からかうの態度が少し不快だ。 イザークはの腕を掴んで少し強引に引き寄せる。 全く警戒をしていなかったはそのままイザークの胸に鼻をぶつけた。 「いったー...」 鼻の頭を押さえて呟いているとイザークの手が顎を掴み、そのまま上を向かされた。 唇が重なる寸前ではイザークの口を塞いだ。 「誰かとキスしたすぐ後にキスしようなんて失礼よ、イザーク・ジュール」 睨むにイザークはばつが悪そうに視線を彷徨わせた。 「悪い」 「からかったのが嫌だったら、それには謝るわ。しっかりしてよ。慣れていないワインを飲んだからって。誰でもいいとかそういうはディアッカの担当でしょ?」 が困ったようにそう言う。 イザークはがちょっと酷いことを言っているような気がした。ディアッカはああ見えて意外と... いや、そんなことよりも。 「...ワインって何で分かったんだ?」 会場ではずっとアルコールの度数の少ないものを選んで飲んでいた。ワインは飲まないようにしていた。飲んだのは、婚約者を送り届けてからだ。 「ワインの匂いがした。ただそれだけよ」 なんでもないことのようにそう言った。 そして、彼女がさっきの自分の行為を水に流してくれていることに気がつく。 「送ろう」 「いいわよ、大丈夫。イザークは疲れてるんだからまっすぐ帰りなさい」 そう言ってまっすぐ道を指差す。 「ポラリス、か...」 イザークが呟き、が振り返る。 「北極星?地球の北半球でしか意味のないあの星?」 台無しだな... 苦笑しながらイザークは頷いた。 「迷いそうになったら、その星を見つければ目的地へといけるだろう?」 「うん、そうね。くどいようだけど、北半球限定」 本当にくどいな、と苦笑した。 「で、ポラリスがどうしたの?」 「いや、なんでもない」 「またメルヘン?」 の言葉に「やかましい」と返してそのままと並んで歩く。 ザフトにとって、というか先ほどのクルーゼの話には全く納得出来ない。 はそんな存在であってほしくない。人々に武器を取り、ナチュラルを、誰かの命を奪うことを躊躇わせないような存在であってほしいと思わない。 だが、少なくとも自分にとって彼女はそうだったと思いだす。 迷ったり、悩んでいたりしたら当たり前に傍にいて笑って「大丈夫」と言ってくれていた。 最も傍にいてほしい人物は、出会った時からだったのだ。 |
桜風
10.1.11
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