Polaris 9





パーティの翌日、イザークはひとりで出かけた。

昨日は帰ってから入念に体を洗った。

何だかもの凄く気持ち悪く感じたのだ。歯磨きもこれまた入念に。


少しすっきりして朝を迎えて家を出た。

繁華街に向かう。

目的のものはあるが、それ以外も今回の休暇で買っておきたいと思っている。

ふと、ショーウィンドウで目を惹くものがあった。

ああ、これがいいな。

イザークはそのまま店内に足を運ぶ。

「いらっしゃいませ」と上品な印象を受ける店員に声を掛けられ、ショーウィンドウにあったそれについて聞いてみた。

それはピアスだ。

青い石がきれいに輝いており、その石の中心部には星のような模様が入っている。あまり詳しくないが、『スターサファイヤ』とかいうものだろうと思って店員に聞くとそうだと言われた。

すぐにそれを購入して包装してもらう。


一番の目的は達した。

その後、取りあえず買っておきたいものを揃え、全て実家へと郵送する手続きを済ませてそのままアプリリウスへと向かった。

連絡を入れると彼女は丁度家に居ると言う。

好都合だ、と思ってそのままエレカをクライン邸へと向けた。



「どうしたの、珍しいね」

が出迎えてくれた。

「ああ、まあな」と少しだけ歯切れ悪く応えるイザークに「ふーん」と返して家の中に入るように促した。

天気がいいから、とテラスに案内しても椅子に掛ける。

「刺繍はまだだよ」

「流石に今日出来ているなんて思っていないさ。今日は、これを渡そうと思ってな。前払いだ」

何のことだろう、と思って受け取る。

イザークに促されて包装を解いていくと箱が現れた。それをあけると中には可愛らしいピアスが嵌っている。

「何?」

誕生日ではない。

「刺繍の礼だ」

「うわー、前払いって...ちょ、困るんですけど」

「これで、確実にもらえるよな」

笑いながらイザークが言った。

「つけてみてくれるか」

そう言われては今つけているピアスを外してイザークからもらったそれをつけた。

思ったとおりだ。

赤い瞳だから青いのはどうだろう、と思ったのだ。良く似合う。

「えー、もう。ちょっと。こんな素敵なものをもらってしまったらプレッシャーなんだけどー」

文句を言いつつも少し嬉しそうな表情を浮かべているに知らず表情が緩む。

「あら、イザーク。いらしていたのですね」

不意に顔を出したのはの妹のラクスだ。

「昨日は素敵なパーティにお招きいただき、ありがとうございました」

「いや。やっとラクスたちの苦労がわかった気がしたよ」

苦笑しながらイザークが言う。

ラクスはニコリと微笑み、姉に視線を向けた。

「あら、ピアスをお替えになりました?」

「目ざといわね」とが苦笑した。

「素敵ですわ。イザークが?」

そう言ってラクスがイザークに視線を向ける。

「ああ、ちょっと頼み事をしているからな。前払いに、ってな」

「まあ」と言ってラクスがクスクス笑う。

「ちょっと、こっち仕舞ってくる」と言って今までつけていたピアスを手にしてが席を外した。


ラクスは空いていた椅子に腰掛け、イザークをまっすぐ見据える。

余りにもその視線がまっすぐ過ぎてイザークは居心地悪く感じてしまい、一度視線を逸らした。

「イザークはどう想われているのですか?」

いつものラクスとは違う声で問う。

驚いたイザークはラクスを見る。

「お姉さまの事です」

..の?」

ラクスが何を言いたいのか分からない。

「どういうことだ?」

聞き返すとラクスはイザークを見据えていた瞳を緩めた。

「ご自分の胸に手を当ててお考えくださいな」

更に「どういうことだ、」と聞こうと口を開くと「お待たせー」とが戻ってきた。

彼女が戻ってきた姿が見えたからラクスは視線を緩めたのだと今更納得する。

「ん?どうかした?あ、ラクスのカップがない。ちょっと待っててね。取ってくるわ」

そう言って回れ右をした

「いいえ、お客様がいらっしゃっていると伺ったのでご挨拶に来ただけですから。わたくしはこれで失礼いたしますわ」

と言ってラクスが立ち上がる。


「え、何で?一緒にお茶しようよ」

「ハロと遊ぶ約束してますの」

「...じゃあ、仕方ないね」

約束って...と思ったが彼女がそういうなら約束しているのだろう。

は首を少し傾げながら手を振ってラクスを見送った。

残されたイザークは難しい顔をしている。

「イザーク?どうかした??」

が顔を覗きこみ、イザークは頭を振る。

「いや、何でもない」

ラクスの瞳と、言葉が頭の中でグルグルと回る。

何が言いたかったのか。そして、彼女に問われたとき、何かが自分の胸に浮かんできた気がしたのだ。

それが何か...

考えてはいけない気がした。考えて答えが出たら、もう戻れない気がして蓋をした。

心ここにあらずという状態のままイザークはに笑顔を向けて会話を続けた。時々目に入る彼女のピアスがやけに胸を締め付けた。










桜風
10.1.18


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