Polaris 11





プラントでの『戦姫』としてのスケジュールは全て無事に終わった。

は2日後、当初の予定通りに地球へ降りることになっている。

毎日時間を見つけて続けた刺繍は意外と捗った。

地球に降りる前に完成しそうだ。

だが、どうやって渡そうか。

たぶん、イザークが休みの間は殆ど婚約者と一緒だろう。

後ろめたい何かがあるわけではないが、婚約者としてはがイザークに刺繍のプレゼントなんて面白くないと思う。

少なくとも、彼女にとってはイザークは親や遺伝子が勝手に決めた婚約者というものではなく、好意を寄せている相手なのだから。

もし、自分が彼女と会うのが先だったら、イザークに刺繍を贈るなんてしなかった。

ああ、そうか。今更だ。断ればよかったんだ。これをもらう前に...

そう思ってあれからずっとつけているピアスにそっと触れた。


「お姉さま」

ドアをノックして声を掛けられた。

「あら、ラクス。どうしたのかしら?」

少し様子がおかしいな、と思いながらもは立ち上がってドアを開けて彼女を迎え入れる。

「入ってもいいですか?」

「どうぞ?」

の許可を得てラクスが部屋に入ってくる。

「あら、これは?」

テーブルの上に置いてある9割がた完成している刺繍を目にして聞いた。

「この代償、って言い方は変だけどね」

そう言いながらピアスに触れた。

ラクスは寂しそうに目を伏せた。

「どうしたの?何かあったの??」

「戦争が、終わりますの」

「は?」

突然何の話だ?

は困惑した。

そんな話、聞いていない。どういうことだ??

「え、でも。それって良い事でしょう?」

いいことだ。だって、もう誰も意味もなく殺すことも殺されることもないのだから。

それなのに、ラクスの表情が冴えない。

「わたくし、聞いてしまったんです」

「何を?」

全く話が見えなくては困惑した。

ラクスは堪りかねたようにに抱きついた。

「え、だから。何を?ちゃんと言ってよ...」

「お姉さまが...」

それだけでは察した。

ああ、そうか。戦姫の最後の仕事か。

「どれくらい年上のオッサンだろうね」

ラクスは弾かれたように顔を上げた。

「お姉..さま?」

「わたしの、『戦姫』の最後の仕事でしょう?」

ザフトの信仰の対象と言っても過言ではなかった戦姫。彼女に鼓舞され、兵士たちは戦った。

その戦姫と地球軍の上層部の結婚が示すもの、即ちそれは真実の友好ということになるだろう。

そういう政治的意図があるのだろう。よく分からないが、きっとそういう感じの筋書きだ。

父の役に立つのなら、とは腹を括った。

「でも、ラクス。誰にも言わないでね?誰にも...たぶん、政府が発表するのもギリギリだろうから。約束してね」

ぎゅっとラクスを抱きしめては言う。


最後、なら会ってもいいよね...


は心の中で許しを請う。誰に請うた許しか分からない。

ラクスにも見られたくなくてずっと彼女を抱きしめては上を向いた。

父はどんな顔でこのことを告げるのだろう。

気に病まないでほしい。

これを含めて自分が選んだ道だから。

戦姫という道を選んだのは自分なのだから。



最初、シーゲルからが相談された。

ラクスを戦姫とする、という話だ。

歌は人を癒すが、励ますことも出来る。だから、兵士たちを鼓舞するために歌を歌う。そんな歌姫を、ということだった。

だが、それはが引き受けた。

舞だって似たようなものだ、と。

兵士たちを鼓舞するなら戦場へと赴く必要がある。

最前線とまでいかなくても、それでも多少の危険が伴うのは必至だ。

そして、自分が何度かそういう現場に遭遇させられた、つまりは、体を求められることも簡単に予想できた。

そんなところに妹を向かわせることは出来ない。

だから、自分が、と。

どちらにしても娘が危険な目に遭うことに変わりがなく、シーゲルは気に病んだだろう。

だが、もう気に病まないでほしい。

笑顔で見送ってほしい。

は心の中でそう祈り、願った。









桜風
10.2.1


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