Polaris 12





泣き疲れたのか、ラクスはに抱きついたまま眠ってしまった。途中からベッドに腰掛けて彼女を宥めるように髪を撫でていたため、そのままそっとベッドに寝かせることが出来た。

ラクスが今さっき知ったと言うことは、父が帰ってきているのだろう。


部屋を出て父の書斎へと向かった。

ノックをして「です」と声を掛ける。

ドアが開いて、憔悴しきった父が顔を出して招きいれてくれた。

ああ、評議会のほうできっと頑張って反対してくれたのだろうな...

そう思うとそれだけで色々と不安が軽減される。

..すまない」

「大丈夫ですよ。戦姫の、最後の舞です」

はそう言って微笑む。

シーゲルは手を伸ばし、を強く抱きしめた。

「すまない、

耳元で父の震える声がした。

「いいんです。これは全てわたしが選んだ道ですから。お父様に強制されたものは何ひとつありませんよ。愛してくださって、ありがとうございます」

ああ、幸せだな...

心が満たされていくのを実感して、は涙を流した。



翌日、どやどやと賑やかに訪問者たちがやってくる。

!」

部屋にノックもせずに入ってきた彼らは一様に青ざめている。

ああ、そうか。

ラクスに内緒にしてもらっても、それぞれの親から聞くことが出来る事実だ。

は苦笑した。

「何笑ってんだよ!」

ラスティが本気心配している。

「大丈夫よ」

「何が!何処が大丈夫なんだよ!!」

ディアッカが怒る。珍しい...

、どうにかできないんですか?」

眉を八の字にしてニコルがそっと聞いてくる。

は静かに首を振った。

「何で、なんだよ!」

「戦姫の最後のお仕事だから」

の静かな声音に部屋の中はシンと静まる。

「ありがとう、心配してくれて」

「お礼とか、そんなのやめてくれよ」

悔しそうに顔を顰めてディアッカが呟く。

は部屋の中の幼馴染と言える彼らを見渡した。

いつも賑やかで、退屈をしない。

そして、彼らはとても優しい。

もの凄く仲良しこよしという仲ではないが、きっとお互いに何かあったら駆けつけるような、そんな間柄だ。

が地球軍の誰かと結婚するということを聞いて、こうして心配して駆けつけてくれたように。




まさか、とは目を瞠る。

部屋の入り口にはイザークが立っていた。

ふと、視線を滑らせるとイザークの隣には婚約者のが立っている。

はお辞儀をした。

彼女はニコリと微笑んだ。

様。わたくしたちコーディネーターのために、その身を犠牲にしてくださるという精神に、お礼を申し上げますわ」

敵意を孕んだその言葉にラスティが彼女を睨んだ。

ディアッカも不機嫌な表情を浮かべ、ニコルの表情が消えた。

「いいえ、わたくしが皆様のお役に立つというのですから。これで、平和な世が訪れるというのなら、と思っております」

「すばらしく、崇高なお考えでいらっしゃいますのね。さすが、戦姫と言ったところでしょうか。わたくしにはとても...」

嬢。少し、に失礼です」

イザークが窘め、彼女は少し不機嫌になる。

、」とイザークはに向き直り、言葉を捜した。

それでも、浮かぶ言葉は此処では口に出来ないそれで、結局搾り出した言葉が「幸せに、なれよ」というありきたりで、そしてこの場で最もそぐわない言葉だった。

「ありがとう」

は笑顔で返す。

その瞬間、目の前をオレンジ色が横切ってそのままイザークが吹っ飛んだ。

「何だよそれ!ふざけんなよ!!分かってるんだろう!が行くのは、この間まで殺し合いしてた相手のど真ん中だぞ。それを分かってて良くそんな事をいえるよな!!!」

は呆気に取られ、ディアッカを見る。

自分がイザークを殴り飛ばすつもりで一歩踏み出したが瞬発力はラスティの方が上だったらしく、出遅れた。

お陰で拳が半端に挙がったままになっている。

「とめて?」とが言う。

イザークに対してマウントポジションを取ったラスティが一方的にイザークを殴りつけている。イザークは反撃をする気配がなく、ただ大人しく殴られていた。

「や、つか。オレもラスティに賛成だし。出来れば途中で交代してほしいかも...」

と言いながらゆっくりと拳を下ろした。

いつも先陣を切って止めそうなニコルが呆れたような視線で彼らを見ている。

「やめてください」と言って止めているのはイザークの婚約者だ。

は溜息をつき、傍に置いていた紙を折る。

様。耳を塞いでください」

が声を掛けるとキッと睨むを無視してその折った紙を振り下ろした。

パン!と大きな音が鳴り、ラスティは反射的に腰に手を当てて周囲を警戒する姿勢を取った。いつもなら、そこに拳銃が下がっているはずだ。

さすが、とは苦笑する。

銃声がしたらそれに対応するように体が覚えているということだ。この場合、銃声ではないのだが...

「はい、ラスティ。イザークの上から降りなさい」

つい、と指を動かしてそう促す。

「大丈夫?」

が手を差し出したが、イザークはそれを取らずに自力で起き上がる。

ポツリとイザークが呟いた声はの耳にだけ届いた。

は苦笑し、そして抽斗を開けた。丁度いい。

「約束のもの。これで、未練なく嫁にいけるよ」

笑いながらそういうから躊躇いがちにそれを受け取ったイザークは何も言わずに部屋を後にする。

もイザークの後を追って慌てて部屋を出て行った。



「幸せになってくれ」

の耳にだけ届いた言葉は、イザークの心からの言葉だった。









桜風
10.2.8


ブラウザバックでお戻りください