Polaris 13





の出発の日、港には大勢の人が見送りに来ていた。

『戦姫』のファンや報道陣も駆けつけてたための出来事で、昔からの友人たちはもっと別れを惜しみたいと思ったのに、と少し不機嫌だった。

「ねえ。僕と駆け落ちでもしますか?」

ニコルが言う。

周囲にいた全員がドキリとして彼を見た。

「ありがとう、大丈夫だから。あまり、皆を驚かせるものじゃないわよ。あ、あとこれ」

そう言っては耳のピアスを外した。

「これ、イザークに返してくれる?失くすとイヤだから。サムシングブルーって、何か青いものを身に付けていたら幸せになれるって聞いたけど。でも、ね?」

笑いながら言うにニコルは寂しそうに微笑んだ。

彼女はずっと『大丈夫』と言っていた。

何が大丈夫なのだろう...

ニコルは「分かりました」とそれを受け取り、ぎゅっと握った。

何で、自分が渡さなければいけないんだ。

この場に現れない臆病者なんかに...



ニコルにはずっと気になっていたことがあった。

何故、こんなにも突然終戦を迎えられるのか。

どこかで、水面下で何か取引が行われたと思うのが妥当だろう。

何を取引材料にしたのか。誰が...

父と話をしてみた。

細心の注意を払って、表面ではなく深部の、核心に触れるような何かを聞き出せないかと思って。

おそらく国防委員会に所属している父すら本当の事は知らないということが分かっただけだった。

だが、と。ずっとそんなことを考えている。

を見送ってニコルはトボトボと一人で歩いていた。

「ニコル?」

ここ数日彼の様子がおかしい。

そう思って一応気をつけていたディアッカが声を掛ける。

「おかしいと思いませんか?」

「何が?お前の様子?」

「バカですか」

酷い切り返しを受けてディアッカは深く傷つく。

「じゃあ、何だよ」

「僕たちは確かに最前線には居なかったと思いますけど、やはり前線には出ました。戦争が終結しそうな、妥協できそうな何かがありましたか?」

言われて見れば、とディアッカとラスティは顔を見合わせる。

「や、ないな」

「僕もそう思います。全くそういう点が見えないんです。多少のこう着状態にあったことは確かです。地球も似たようなものだと聞いています。なのに、戦争終結。平和友好のために婚姻。ありえません」

「でも、実際そうじゃん」

ラスティが不機嫌に言うと

「その頭は飾りですか」

とニコルが返す。

ニコル、何か荒んでる...

「遠くない未来。たぶん、の結婚式の日にテロが起こると思います。このプラントで」

ニコルの言葉にディアッカとラスティは息を飲む。

「な..んで?」

「条約ってのは今まで何度も破棄されてきました。つまり、条約なん大した拘束力にならないんです」

まあ、今までの歴史を見てみると、戦争が始まるのはその条約を破棄したり、無視したり...

と、地球軍の誰かとの結婚が戦争の終結を形にしたものだと殆どの人が思うはずです。そして、一番隙が出来るのはそのときです」

「でも、が嫁に行った意味って...」

ラスティが拗ねながらそういう。

「そこです。ずっと気になっていたんです。何で、プラントから地球に誰かを差し出さなくてはならないんですか?」

「え、だって...嫁さんだから」

「逆でも良かったじゃないですか。地球軍の女性をザフトや評議委員の誰かにって。何故、プラントが下手に出ているのでしょうか。勿論、コーディネーターの方が上だとかそういうことを言うつもりはありません。けど、だったら、その逆をプラントが求めても良かった。でも、それをしていない。僕、それがずっと気になっていたんです」

「だって、ほら。婚姻統制」

「それを言うんだったら、ディアッカとラスティ。あなたたちはプラントの遺伝子による婚姻統制というのは不可能になっていますよね。2人以外にもそういう人はたくさんいると思いますよ」

ああ、そうか。

婚姻統制が枷になっていると思ったが、そうではなくて。

あれ、じゃあ...

「何で?」

「だから、僕がさっきからそう言っているんです。正直、プラントの中の人気だとよりもラクスです。まあ、ラクスはアスランがいるからと言う理由で除外かもしれませんけど。今回のの件や、戦争終結は僕たちが見ているものだけでは全然物事がすっきり整頓できないんですよ。戦争終結というのは、どちらか、あるいは両方が限界を感じたときにやっと訪れるものだと僕は思っています」

誰かが、きっと裏切っている。

上層部だろう。

戦争の終結を、の話を出したのは誰だ?

提案したのは、国防委員長だと聞いた。アスランの父親のパトリック・ザラだ。

だが、彼が考えたとは思えない。

彼はずっとナチュラルの殲滅を口にしていた急進派だ。上位であるコーディネーターが真っ向からナチュラルを滅ぼすというのが彼の理想で、実現しようとしていた戦争の形。

こんなところで妥協するはずがない。

そして、たぶんプラントの方でも奇襲を狙っているだろう。

ひとりの命で済むなら、と思っている誰かがパトリック・ザラを説得した。

彼が信頼を寄せている人物...

そこまで考えてひとりふと浮かんだ。

まさか...

その考えを打ち消すようにニコルは頭を振る。それはあまりにも、酷すぎる。









桜風
10.2.15


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