| 家を後にして、気がつくとディアッカの家の前にいた。 「あら、イザーク。あがんなさいよ。今、ニコルたちも来てるのよ」 偶然家から出てきたディアッカの母親にそう言われ、断ろうとしたが、相変わらずの強引っぷりで家の中へと引きずり込まれる。 「ディアッカ!」 ホールから息子を呼ぶ。 豪快な人だよな、と何となくぼんやり眺めていた。 「んだよー」と言いながら出てきたディアッカはイザークの姿に言葉をなくし、やがて「久しぶりじゃん」と言って笑った。 「ゆっくりしていきなさいよ」と言って出かけていった母親に苦笑して「無理やり連れ込まれたんだろ?」と言う。 「あ、いや...」 「いいから来いよ。ニコルとラスティが来てるんだぜ」 そう言ってイザークの背を押しながらディアッカは自室へと戻る。 「何しに来た!帰れ!!」 イザークの姿を見た途端、ラスティが指差した。 「ここ、ディアッカの家ですよ」 既に突っ込み役が板についたニコルが呆れながらそう言う。 「そゆこと。ほら、適当に座れって」 言われるままにイザークはちょこんと座った。 「どうかしたんですか?」 溜息と供にニコルが問う。 ニコルだって本当は怒っているのだ。 「母上..だったんだ」 イザークの言葉にディアッカとラスティが顔を見合わせ、ニコルが「ああ...」と溜息を吐いた。 「何、どいういうこと?」 「アスランのお父さんの説得をした人は、やはりイザークのお母さんだったんですね。でも、たぶんイザークのお母さんは別の人に言われた。...違ってたらごめんなさい、嬢」 イザークは目を見開いてニコルを見る。 「何故...」 呆然と呟くイザークにニコルは肩を竦めた。 「彼女のを見る目、どう思います?」 「冷たいなーって思うけど...」 ラスティが応えた。愛想がなさ過ぎる。 「僕には、憎んでいるように見えていました。理由は分かりません。ただ、嫉妬以上の何かをに向けていましたね」 そうかなー?とラスティは首を傾げるが、ニコルはそれを黙殺して話を続ける。 「それで、イザーク。あなたはどうするんですか?いえ、どうしたいんですか?」 「を、助ける」 今の今まで魂が抜けたようだったイザークの眸が突然力強い光を湛えている。 ニコルは溜息を吐いた。 本当にバカだな、と。 「どうやって」 「何とかして」 「無策ですか。全く...僕より年上なのに、何で皆こんなに考えなしなんですかね。情けない。あー、バカバカ」 イザークのついでになんかちょっと酷いこと言われたなー、と思いながらディアッカはニコルを見た。 「で、そこまで言うんだから、ニコルには策があるんだろう?」 「ええ、本当は僕ひとりでを助けてのナイトになろうと思ったんですけど。まあ、いいです」 何か虎視眈々と狙っていたんだなー、とディアッカは感心してしまった。 「それで、えーと。説明ですか。ラスティとディアッカには話をしていたんですけど」 そう言ってこのの婚姻の裏にあるであろう政治的な事情を口にした。 「なるほど...確かにアスランの父親が自らの意志で終戦なんてことを議題に上げることはないだろう。それと、ニコルの読みはたぶん当たっているな。こちら側の狙いについては、だが...」 どういうことだ、と話を促すと先ほど母と婚約者が話していた会話を口にする。 「へー、なるほどね。奇襲で地球軍を壊滅か...壊滅できるほどの奇襲ってどんなのだろう?」 「上層部を粗方落としておけば体勢を立て直すうちに一気に攻め込めば壊滅できるだろうな。ま、体勢を立て直すときにはそのまま火炙りにされるだろうけど。プラントへの人質として役に立たないからね」 ラスティの眸が暗く光り、「ムカつくねぇ、ホント」と呟いた。 「そうそう。の婚姻の日は10日後に決まりました」 「...なんでお前知ってんの?」 「父さんから聞きました。取りあえず、こちらの最高評議会議員も何人か式に出席するみたいですよ。 それはともかく。 僕と..ラスティは3日後に地球に降ります」 「え、初耳」 ラスティが抗議の意味も込めてそう言ったが、「イザークと一緒に行動したいですか?」と聞かれて「今はちょっとヤダ」と返す。 「この間、クライン邸で大喧嘩してくれたので丁度いいと思ったんです。地球の知り合いに話をつけています。その人と色々と打ち合わせをしておきます。イザークは今までどおり、婚約者といちゃいちゃしておいてください。僕たちの動きは決して悟られないように」 「いちゃいちゃ...」 イザークは呆然とニコルの言葉を繰り返す。 「オレは、何で?」 「3人もいなくなることにちょっと違和感が生まれかねないので。2人は、の結婚式に出席してください。それまでに手はずは整えます。あと、結婚式以降、僕たちはザフトを..プラントを裏切ることになると思います。大丈夫ですか?」 ニコルが試すように3人を見た。 「構わない」 すぐに返事をしたのはイザークだった。 ちょっと、意外だ。 「まあ、ニコルの話しぶりからそうなるだろうなーって想像できてるし」 「の不幸と引き換えの幸せって、やっぱ違うっしょ」 ラスティとディアッカも頷いた。 「でも、アスランは?」 ラスティが問う。 「アスランは..ちょっと難しいでしょう。あの性格ですし。何より、彼は誰かをだますのなんて本当に向いていない大根役者でしょうから」 なるほど、と納得した。 「では、作戦決行ですね。プリンセスの救出といきましょう」 故郷を裏切りかねないその行動を前に、ニコルはいつもどおりの笑みを浮かべてそう言った。 「イザーク、これを」 ニコルがポケットから何かを取り出して差し出す。 イザークは手を出して受け取った。 小さな柔らかい布の巾着袋だ。 「からの預かりものです。失くすのはイヤだから、だそうですよ」 この場で言う『失くす』は『取り上げられる』のことだろう。 巾着の口を開けて中身を掌の上に転がす。 思ったとおり、自分がプレゼントしたピアスだ。 「今日、此処の帰りにイザークに投げつけに行こうと思って持ってたんですけど。渡せてよかったです」 微笑んで言うニコルの表情がいつもと違っていて、相当怒っていたことが窺い知ることができた。 |
桜風
10.3.1
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