| イザークがディアッカの家から帰ると母が暗い顔をして出迎えた。 「ただいま戻りました」 「イザーク...」 一度深く息を吐く。 「先ほどは、申し訳ありません母上」 笑顔を浮かべてイザークが言う。 エザリアはその笑顔で安心したように笑みを浮かべた。 エザリアの後ろには婚約者のがやはり窺うような目を向けている。 イザークは微笑んだ。 その微笑みを見て彼女も笑顔になる。 「あの、」と彼女が声を掛けてきた。 「暫くお会いしなかったことのお詫びに、明日にでも何処かに出かけませんか?」 イザークの誘いに彼女は満面の笑みで頷いた。 笑顔を浮かべたままイザークは吐き気を堪える。 を陥れた女とあと10日一緒に居なくてはならない。 彼女がを憎んでいると、ニコルは言っていた。どうしては彼女に憎まれるのだろうか。 彼女との間に何かあったのだろうか... 夜も遅くなり、を送っていく。 別れ際、キスを求められた。 彼女はいつも別れ際にキスをしたがる。時々気づかないフリをしていたが、今日はそれに応えた。 彼女が望むことには全て応えてやる。あと10日の辛抱だ。 込み上げる嫌悪感を無理やり押さえ込んで長い時間重ねていた唇を離した。 「では、また明日」 そう挨拶をして車を出す。 「ただいま戻りました」 が家の中に入り、父であるラウ・ル・クルーゼにそう声を掛けた。 「ああ、中々家に入ってこないから心配したぞ」 からかうように言う父に顔を赤らめて「やだもう!」と軽く抗議をした。 「イザークはどうだね?」 「優しいですよ。それに、もう・クラインは良いみたいです」 クルーゼが足を止めた。 「どういうことだね?」 は今日の出来事を話す。 クルーゼは顎に手を当てて、「ふむ」と呟いた。 どちらかといえば、逆だろうな... イザークはまっすぐだ。それはもう青臭いという表現がぴったりと思うくらいに。 だが、彼に手が出せないのも事実だ。 彼はとても優しいから、家族を裏切ってまで彼女を助けようなどと思わないだろう。それに、彼ではどうしようもない。所詮、何の力も持たない子供なのだから。 「まあ、お前の執念でもぎ取った幸せだ。気を抜かずに、な」 「大丈夫です。このまま私は高みからあの女を見下ろさせてもらいますわ」 上機嫌で彼女はそう言って自室へと向かっていった。 「さて、どうなることだろうな」 人の醜い執念を目の当たりにしてクルーゼはクツクツと笑う。 「父さん」 ニコルが改まって話があるといった。 何だろう、と全く想像つかないまま妻に席を外させて2人きりで向かい合っている。 「僕はプラントを、ザフトを裏切ります」 堂々とした宣言にユーリは呆然とした。 やがて、我に返ったように「待て!」と立ち上がる。 「どういう、ことだ?」 「僕の考えを聞いてください」 そう言ってニコルは自分が整理した考えを話す。これは賭けだ。 父だって国防委員会に所属しているし、この行動を止めるために監禁されるなんてことだってある。 けれど、それでも父に話して大惨事は免れたいと思っているのだ。 「僕は、誰かの犠牲の上の幸せにのほほんと浸かれるほど薄情ではありません」 「しかし、これはお前の予想。つまりは想像だ」 確かにその通りだ。 それでも... 「僕は、の婚姻に反対です。彼女はどれだけのものを犠牲にしたら良いんですか?」 「だが、それはプラントが決めたことだ」 「だから、僕はプラントを出ます。プラントのその決定に従えないから、プラントにいることは出来ません」 ニコルの言葉にユーリは深く息を吐く。 強情だ。 ...本当に、そっくりだ。 「私は、今の話を聞かなかった。ただ、私の勘でプラントへのテロを警戒する」 そう言ってユーリは立ち上がる。 「お前が、プラントを故郷と思えるようになったらまた戻ってきなさい。母さんには、私から話しておこう」 「ありがとうございます」 ニコルは深く頭を下げ、部屋を出て行く父に礼を言った。 |
桜風
10.3.8
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