| 「顔には痕を残すなよ」 毎日のようにその言葉を耳にする。 人として扱われなくなってどれくらいだろう... は苦笑した。 人として、って何が基準なんだろうな。 が地球に降りてほぼ毎日痣が増えていく。 いい加減、服を着たときに見えないところで色の変わっていないところがあるかどうか分からない。 昼間は手錠で手足の自由を拘束されて、夜は暴行を受けている。 いくらコーディネーターの体が丈夫だからと言っても、流石に辛い。 「明日いよいよ夫婦になれますね、プリンセス?」 嫌な笑みを浮かべて結婚相手がそう言った。 ムルタ・アズラエル。 地球軍の誰かと思いきや、地球軍に武器を提供している武器商人でオブザーバーだとか。 しかも、それは表の顔で実はブルーコスモスの盟主。まあ、地球軍の上層部の間では有名らしいが... 取りあえず、自分が地球に降りてすぐに殺されることはないと思ったが、それでもまあ、死んだほうがマシかなーと思うことは何度かあった。 が暴行を受けているすぐ傍でアズラエルが誰かと通信している。 誰だろう、と耳を澄ませた。 聞いたことのある声だ。 その声の主に気がついては目を丸くした。 カチリと頭の中で何かが嵌った音がした。 此処へ来てからというもの、痣が増えるが、裏事情にも結構精通してきている。 どうにかして知らせる手立てはないだろうか。 明日の結婚式には父も出席してくれるとのことだ。 何とかして..何としても... 通信を終えたアズラエルが振り返る。 「そうそう。明日のプラントからのお客様がきまりましたよ」 「そうですか、懐かしいなー」 棒読みで言うの腹を蹴り上げる。 「全く。私の経歴を汚してどうしたいんでしょうね、地球軍は」 ホントにね。 コーディネーターを心から忌み嫌っている彼の妻がコーディネーターってどういうジョークだろう。 そんな事を思っているとの耳に聞きなれた名前が入ってくる。 思わずアズラエルを見た。 彼は明日のプラントからの出席者を読み上げているようだ。 『イザーク・ジュール』の名前に息が止まる。 悟られないように、すぐに平静を装った。 こういう席に出席するなら婚約者と一緒になるだろうに、彼女の名前はない。 まあ、戦争が終わったと言ってもやっぱり地球は危険だからかな?とりあえず、終わった『フリ』だし。 でも、ディアッカの名前もあったのに、ラスティたちの名前がないのが気になった。気になったけど、どうしようもないと思って諦めた。 いや...むしろ来ないでほしい。下手に懐かしい顔ぶれが揃うと心が折れそうだから。 翌日、は純白のドレスに身を包んだ。 そのドレスの下の肌は変色して赤黒くなっている。 1歩歩くごとに鈍い痛みが響く。 顔を顰めることを我慢しながら笑みを湛えてバージンロードを歩く。 プラント側の面々を見て精一杯微笑んだ。 壇上に上がるとプラント側が騒がしくなる。 「アプリリウスでテロだと!?」 瞬間、場内の空気が凍る。 緊張状態に陥ったそのとき、それを狙ったかのように動いた人物が2人。 ひとりはそのまま窓に向かって駆け、そして、もうひとりはまっすぐに向かって駆けてくる。 「!」 手を伸ばしてきたそれを反射的に手を伸ばして、泣きそうな顔で手を引っ込める。 「!!」 イザークはもう一度自分の名前を呼んだ。 は泣きながら一歩後ずさった。 この手を取れば彼の、彼らの人生がメチャクチャになる。 今なら、自分が全ての罪を被れる。 「早くしろ!」 窓を壊したディアッカが叫んだ。 イザークは焦れたように舌打ちをして強引にを抱え上げる。 「離して!」 「離さない!」 力強く言うイザークには思わず息を飲む。 見上げたその顔は最後に見たその顔とは別物に見えた。 「もう、強がるな」 そう言ってイザークが駆け出した。 はイザークの肩越しに父を見る。 父は頷き微笑んでいる。 イザークもシーゲルを顧みる。 目があった彼にはを託された。言葉にはなかったが、瞳がそう言っていた。 イザークも頷き、そしてを抱え上げたまま窓を蹴る。 会場の後ろは絶壁だ。 はイザークにしっかりとしがみついた。 を抱きかかえるイザークの腕に力が篭る。 もう離さない。 ただ、それだけを思い、作戦通りその場から撤退した。 |
桜風
10.3.15
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