Polaris 18





がイザークたちに攫われて、そのどさくさに紛れてプラント側の招待客も避難した。



その数時間前。

地球へと向かうため、の結婚式に出席する面々がステーションに集まる。

「ラクス」

見送りに来ていたラクスにイザークが声を掛けた。ラクスは評議会のほうで『平和の歌姫』としての仕事の以来があったため、の式には出席できなかった。

しかし、評議会の仕事の依頼は建前で、ラクスまでプラントから消えてしまったら人々を先導するものがなくなるということを懸念してのそれだ。

下手をすれば今回の式で地球側と何かこじれることがあったらとシーゲルは命を落とすかもしれない。むしろ、プラントの方でそう仕向けているかもしれないが...

「何ですか」とラクスは何を感じているのか分からない瞳をイザークに向けた。

「これを...」

そう言ってイザークが何やら紙を渡してくる。

「何ですか?」

「水に流してくれ、とのことだ。シーゲル殿にも」

そう言ってイザークはシャトルに乗り込んだ。

ラクスは不思議に思いながら、少し人ごみから離れてそれを広げた。

書いてあることに驚き、そしてシャトルに乗り込んだイザークを見る。

目が合ったのはイザークはでなく、その隣の窓際に座っているディアッカだ。

彼はウィンクした。いつも軽薄な態度を取る彼のその仕草は見慣れたものだが、それでも今の彼はとても頼もしく思えてきた。


書いてある内容は、を攫うとのことだ。

その後、おそらくクラインは裏切り者などの烙印を押される可能性がある。

迷惑を掛けることになるが、それでも彼女の犠牲を当たり前のように見過ごそうとしている故郷に従えない。

そんな内容が書いてあった。

クラインを元々支持している者は少なくない。

何とでもなるだろし、何とかする。

姉を助けられる最初で最後の、唯一のチャンスだ。

ラクスは逸る気持ちを押さえて父にこの手紙の話をするタイミングを計っていた。


「気づいたな」

「ま、ラクスだからな」

手紙を渡したといっても、用心を重ねて色々と比喩表現で書いているつもりだ。

だから、それを見てすぐに分かるものは少ないと思う。共通の思い出なども入れているから。

「アスラン、どうする?ここに来て、誘ってみるか?」

「動けんだろう。あいつは..難しいだろうな」

ラクスも何とかして身を潜めるなり何なりすると思う。

だから、残されるのはアスランだ。だが、無理やり誘っても彼には気の毒な話だ。

間違いなく、父親と対立することになるのだから。

自分は、自分の意志で決めた。

だが、人に言われて此処まで大それたことは出来ないし、強制するべきことではない。まあ、強制できることでもないが...


ラクスは父の手を握った。

「水に、流してほしいとのことです」

娘の握った手の中に何か紙のようなものがあった。

紙の質からいって、水に溶けるものだろう。『水に流して欲しい』とは、比喩ではなくこの手紙の処分の仕方だ、きっと。

時々そういう紙を使って情報をやり取りすることもある。

前時代的だが、証拠が残らないので今でもその方法は消えない有効手段として政治の世界に残っている。

シャトルに乗り込み、トイレに入ってラクスから預かった手紙を見たシーゲルの瞳に熱いものが込み上げてきた。

感謝してもしきれない。

最高評議会議長である自分はプラントを優先しなければならない。

だから、結局娘を守ってやることが出来なかった。

彼らはまだ何も持たないただの子供だ。

そう思っていた。

だが、彼らこそ、娘を救うために命を懸けてくれるという。

友人の子供で、いつの間にか娘たちの幼馴染となった少年たち。

彼らの親である友人たちに申し訳ないと思うが、それでもあの娘をこれ以上苦しませたくない。

彼女だって、幸せになる権利はある。

今日、この式は無事には終わらない。

そして、この式が終わったとは自分たちがきっと追われる身だ。

ラクスには悪いと思う。

だが、それでも。いつも辛い道を選んでくれたを助けてやりたい。

シーゲルはラクスを思い浮かべた。いつも穏やかな表情を浮かべている娘だが、芯が強くかなりタフだ。

「すまない」

を救うにはラクスが危険な目に遭ってしまう。これは避けられない。



地球に向けて出発したシャトルを見送りながらラクスは姉のことを想う。

『戦姫』となってからは笑わなくなった。

周囲を安心させるための嘘の笑顔。

姉のその笑顔で本当に安心する者はいるし、そういうのが必要だと言うことも分かる。

だが、その笑顔を見るたびに悲しくなった。

ザフトの上層部に姉が何と言われているか知っている。

姉が自分の代わりに『戦姫』になったことも、実は知っていた。

自分よりも人をまず考えるは、大好きだけど、嫌いだった。

自分の幸せを考えないは、嫌いだ。見ていて悲しくなる。

欲しいものを欲しいといえば良いのに...

でも、もう大丈夫とラクスは微笑む。

そろそろ観念するに決まっているのだから。









桜風
10.3.22


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