| 「は、どう?」 艦に戻ったイザークたちにラスティが聞いてきた。 は眠っているようだ。 「え、何で?」 「安心した、ということだったら嬉しいんですけどね」 ニコルがそう言い、を抱えたイザークは部屋に連れて行った。 クライン派というものは本当に凄い。 のために、簡単に..でもないがザフトをさらりと裏切った。 何より、今回のプラントの決定自体に違和感と言うか不信感を抱いた人物も少なくなかったようだ。 だから、こうして艦で行動できているのだが... のために用意していた部屋に着き、彼女をベッドに寝かせた。 しかし、こんなにも軽いものだろうか。 一応体を鍛えていなくもない自分だが、それにしたって軽すぎるだろう。いつも自分の腕にまとわりついていたあの女はよりも小さいくせに重かった。 左手に嵌めている白い手袋を外した。 そして、右手の手袋を外して息が止まった。 何だ、これは... まさか、とのドレスの裾を上げた。 膝下までは綺麗な白い肌だ。 だが、膝から上は左手と同じように色が変わっている。 打撲、裂傷、そして火傷など意図的につけられたとしか思えない傷で肌が変色している。ドレスで隠れるところだけにつけられた傷。 偶然なんてことがるはずがない。 何より、足の傷がその証拠だ。抱えただけではその傷は見えない。計算されている。 目の前が真っ赤になった。 何だ、これは... グルグルと同じ言葉がこだまする。 何が「幸せになってくれ」だ。 何が『奇跡的に』だ。 そんな奇跡は、今の世界には初めから存在しなかったというのに。 が目を覚ますと嗚咽のような声が聞こえる。 「あらあら」 苦笑して手を伸ばしてその頭を撫でた。 あれ、手袋...だからか。 納得してまた苦笑。 「ごめん」 絞り出す声で彼が言った。 「何が?別にイザークは何もしてないじゃない」 「何も出来ないって諦めた。だから、ごめん」 ポタポタと涙を流しながらイザークが言う。 イザークのこんな泣き顔ってどれくらいぶりだろう? そんな事を思った。 「世界は色んな思惑で動いているのよ。わたしだって思うところがあって、今回の作戦に乗ったの。だから、例えばイザークがもの凄く目いっぱい止めてくれても..嬉しくてもやめなかったわ、きっと」 不思議そうな顔をしたイザークがを見た。 「取りあえず、着替えさせてくれる?後ろでどうしたら良いのか分からないって顔の女の子がいるのよね?」 イザークが振り返ると自分と同年代くらいの元ザフト兵がの着替えを持って佇んでいる。 「あ、あの..ごめんなんさい!」 部屋に入ってみるとイザークが泣いていて、の捲れあがったスカートの下には痣がたくさん出来ていて、手にも同じものがあって。 呆然と見ていたらが起きて彼女の声に動けなくなった。 なんて穏やかな、心に沁みるような声なんだろう。 『戦姫』と呼ばれていた彼女は慰問のとき以外に声を出さない。というか、ほとんど顔を出さない。 平和の歌姫のラクス・クラインは民衆の前でマイクの前に立ち、歌を歌って平和を訴える言葉を口にする。 聞いたことのないの声音は、きっと『戦姫』と呼ばれるくらいだから厳しくて、容赦ないのだろうと勝手に思っていた。 自分は、ラクス・クラインよりも・クラインの方が好きだと何となく思った。 「ごめんなさい、それってスカートよね?」 が指摘すると彼女は頷く。 「パンツのってないのかしら?これ、隠したいの」 「あ、取ってきます!!」 彼女は上着だけ置いて慌てて部屋を後にした。 「見る人皆に泣かれたら溜まらないからね」 笑って言うにイザークがふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。冷静になると恥ずかしい。 「ああ、そうだ」 そう言ってイザークはポケットを探った。取り出したのは、ニコルからの預かりものだ。 「起き上がれるか?」と言いながらイザークは手を貸す。 そして、ニコルから預かった小さな巾着袋からコロリとそれを取り出し、それを見たは目を丸くした。 「穴は、塞がっていないようだな」 そう言いながらイザークがの耳にピアスを嵌める。 「痛くないか」と途中で聞くものだからは慌てて「痛くない、痛くない」と返した。声が近い。 「できれば、もう外さないでくれよ」 そう言ってイザークが微笑んだ。 「まあ、善処します。というか、このことは内緒よ?」 『このこと』とはの体中の傷だろう。 「...食事は、摂らなかったのか?」 余りにも体が軽かった。用心して摂らなかったのかと聞いてみるとは視線を彷徨わせた後に「地球の水って結構美味しいのよ?」と返した。 ギリ、と奥歯をかむ。 食事もろくに食べさせなかったというのか...! 「憎んではだめよ」 静かにが言った。 「何故!?をこんな目にあわせたヤツらだぞ!!」 「それでも、駄目よ。自ら進んで堕ちないで。彼らを愛してなんていわない。でも、憎まないで。憎しみに染まった手に何も残らないの。その手は、何も掴むことが出来なくなるから。幸せも、喜びも。わたしはイザークがそんな人生を送るのなんてイヤだもの」 の言葉に耳を傾けていたイザークは俯き、「善処する」と渋々言った。の言うことも何となく分かるから... 暫くして先ほどの元ザフト兵が戻ってきた。 彼女に「頼んだぞ」と声を掛けてイザークはの部屋を後にした。 |
桜風
10.3.29
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