Polaris 20





着替えながらは現在の状況について聞いた。

正直、自分は地球に降りてから一般的な外界の情報がまったく入っていなかった。

プラントが今どうなっているか。そして、地球軍の動きはどうなっているか。

『クライン』がどうなっているかはまだ情報として入っていないらしい。

まあ、さっきだもんな...

そう思いながら着替えると彼女にニコルから話があるとの言伝を聞く。

「動けるようなら、ですけど...」

「ああ、動けるわよ。というか、動けないって言ったら大騒ぎだわ」

苦笑して言うに彼女は困った表情を向けた。

「私、様のこと、もっと怖い人だと思っていました。『戦姫』は笑わない、って聞いたことありますし」

言いにくそうに、でも思い切っての告白という表情で彼女が言う。

は笑った。

「笑うわよ、人間だもの。でも、まあ。作ってたかしらね」

彼女は首をかしげる。

「わたしって、気を抜いた笑顔だと幼く見えるんですって。気を抜いた笑顔って何!?って思ったけど..みんながそう言うから。『戦姫』の印象じゃないって思ってね」

そう言いながら笑うは確かに『戦姫』なんてものは似合わない。

「さて、」と言ってはドアに向かう。

「何度も念を押して悪いんだけど。このこと、内緒ね」

人差し指を口に当ててが言う。

『このこと』というのは体中の痣のことだ。

「でも、その右手は...」

「ドアに思い切り挟んじゃったのって言い張るわよ。任せなさい、彼らをはぐらかすのは得意だから」

胸を張って言うに彼女は小さく笑い、「案内します」と言ってより先に部屋を出た。



「こんにちは」とニコルがいるという通信室へと入る。

!」

嬉しそうにみなが振り返った。

「大丈夫ですか?気分のほうは?って、その手!どうしたんですか!!」

ニコルが問う。

「うん、大丈夫。手は、重いドアに勢いよく挟んでしまってねぇ。当分痛かったけど、内出血はまだ引かなくて...まあ、そんなことよりも。話があるって聞いたわ」

今の状況なら大体のことは世話をしてくれた彼女に聞いたと話す。

「ああ、そうですか。とりあえず、と話がしたいと言っている人がいるんですよ」

そういって通信士に回線をつなぐようにニコルが指示した。

はその間、艦長に挨拶をする。

なんとなく聞いたことがあるが、軍の中でも『クライン派』と呼ばれる派閥があるとか。と、言ってもそこまで確固とした拘りがあるわけではない。

政治の世界のように、対立の図式を周囲が悟るようなそんな大げさなものではない。

だが、まさかそういった派閥めいたものがこういう有事には支持してくれるなんて...

、こちらに来てください」

ニコルに呼ばれて艦長に断り、モニタの前に立つ。

『やあ。久しぶりだね、戦姫』

そういって画面に映っているのは、前回慰問のために地球に降りたときに挨拶をした事のある隊長だ。

「お久しぶりですわね、バルトフェルド隊長」

微笑むに苦笑したバルトフェルドが口を開いた瞬間、彼は画面から消えた。

!』

バルトフェルドを押しやって出てきたのは彼の..恋人と思われるアイシャだ。

「お久しぶりね、アイシャ」

『こっちに向かってるのよね。早く会いたいわ!ほら、今回の慰問を白紙にしてあんな馬鹿げた話に乗っちゃうし』

拗ねたようにそう言う。

馬鹿げた、ってはっきり言うなぁ...

はもちろん、この通信を見ていた全員が思った。

「でも、今回の地球はカーペンタリア方面だったのだけど...?」

砂漠にいる彼女には会えないはずだった。

『あら!ワタシ、カーペンタリアにだって行く予定だったわよ。アンディにお願いしたら何とかしてくれるって』

「えーと、それは...」

それはいくらなんでも難しい話だろう...

彼女はザフトではないらしい。だから、彼女に対する融通はバルトフェルド隊だけのものだ。

「アイシャ」と彼女の背後からたしなめるような声が聞こえた。

彼女は肩をすくめて「はーい」と返事をし、「こっちにきたらゆっくり話をしましょうね」と言って画面から消えた。

『はは、すまないね。アイシャはご覧のとおり君の大ファンだ。こっちに着いたときには、少し覚悟をしてくれたまえ。ま、というわけで、実は僕もクライン派なんだよ。というか、ザラ派ではないと言った方が正しいかな?しかし、君の協力者であることには変わりない。地球の状況については、僕のほうが詳しいし、情報も集めやすいからね。一応、クライン派地球本部というところかな?』

バルトフェルドの軽口に「なんだそりゃ、」と周囲が呆れた表情を浮かべる中、は途端にまじめな表情になる。
「とりあえず、『戦姫』は休業させていただきます」

の言葉に面白そうにバルトフェルドが頷いた。

「アプリリウスのテロはどうなりました?」

『アマルフィ議員が読んでいたらしく、被害は小さく抑えられた。だが、それが口実にまた開戦だろう。逆に、地球軍にしてみれば・クラインが攫われたしな』

その言葉にこの計画の首謀者のニコルたちは小さくなる。

「まあ、わたしが大人しくしてようがそうでなかろうが戦争は始まっていましたね。お互いの体勢を立て直すための時間稼ぎですから、あれは」

そのとおりだ、とバルトフェルドは頷く。

『プラントの情報も今随時集まってきている。地球のほうも、な。一応、ザフトにはまだ我々の動きは悟られていないようだ』

「時間の問題ですね」

『まあ、2手先は打っているつもりだから、そう心配しなさんな』

バルトフェルドがそういった途端、艦が揺れた。

バランスを崩したをイザークが腕を伸ばして支える。なるべく力を入れずに。

「何?」とが艦の操舵士に聞く。

「何かの衝撃ですね。近くに艦があるという情報はありませんが...」

声をかけられた操舵士はそう答えた。

『どうかしたのか?』

「いえ、艦が少し揺れましたので」

の言葉にバルトフェルドが眉をしかめる。その規模の艦が揺れるということは近くで爆発があったか、相当規模の戦闘が近くで起こっているか...

しかし、そうだとしたらソナーなどで情報は入るだろうに。

『何にせよ、気をつけたまえ。詳しい話はまた後ほど』

が艦長を振り返る。

「あと3時間程度で、バルトフェルド隊と接触できますよ」

の問いたいことを察した艦長がそう答えた。









桜風
10.4.5


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