Polaris 21





バルトフェルドの指令本部があるバナディーヤ近くの港へ着いた。

艦から降りると、迎えが来ていた。

「あら、お久しぶりですね」

なんだかとっても苦労人だったマーチン・ダコスタだ。

「お久しぶりです!戦姫をお迎えするようにとの命令で参りました」

律儀に敬礼をするダコスタには困ったように笑って、「『戦姫』はただいま休業中なんです」と返した。

ダコスタは少し絶句して「そうでしたか」と敬礼していた手を下ろす。表情も少し柔らかくなった。

「アイシャさんが待ってますよ。昨日から大騒ぎだったんですから。様のお部屋を整えるのに張り切っていて」

困ったように笑うダコスタには少し恐縮した。


以前、地球に降りての慰問はこちら方面だった。

最後に訪れたのが、バルトフェルド司令官率いる北アフリカ駐留軍だった。

に宛がわれた部屋にやってきた彼女に驚いた。本人曰く「ザフトじゃないの」なのだから。

それでも、バルトフェルドと一緒に居るために、このバナディーヤに居るのだとか。

「あなたの舞、素敵だったわ」

誰もが口にするその言葉に当たり障りのない言葉を返した。

「誰を想って舞っていたのかしらね」

そう言われて驚いた。

彼女を見るとウィンクをした。

「ザフトの皆様ですよ」

が答える。

「『戦姫』というのも大変ね」

色々と見透かした目でアイシャが言い、

「まあ、意外とそうなのよね」

は笑いながらそれを認めた。

その一言でなんだか彼女と仲良くなったのだ。

彼女は楽しそうに「恋愛相談になら乗るわよ」、と言ったが、は笑って誤魔化した。

相談するようなことはないのだから。



!」

バンディーヤの本部に着くとアイシャが手を振っている。

「早速お出迎えのようですよ」

運転席に居るダコスタが苦笑した。

つられても苦笑する。

正面に車をつけるとアイシャがかけてきた。

「久しぶり!」

「ええ、久しぶりね。お部屋を整えてくれたって聞いたわ」

はそういってダコスタを見た。

アイシャも彼を見る。

「とりあえず、疲れを取ってもらわないと。お風呂の準備もできてるわ」

それは有難い。

は頷いた。

「バルトフェルド隊長にご挨拶をしにいくから。また後で」

そう言って指令本部に入っていった。


「やあ、また来てくれるとはね。歓迎するよ、・クライン」

「世界中の厄介者となったわたしを迎えてくださってありがとうございます」

的確な表現にバルトフェルドが苦笑した。

「まあ、最初にニコルから連絡が来たときには正直、どう対処するべきか悩んだんだがね」

そう言ってバルトフェルドはニコルを見た。

「すみません」と小さくなるニコルに彼は笑う。

「ああ、いや。確かに厄介ごとだがね。それでも、なんと言うか..丁度良いと思ったのも事実ではあるんだよ。どうやって、見切りをつけるべきか、と思っていたからな」

「見切り、ですか?」

が問う。

「そうだ。君も言っていただろう。君を差し出したのは、プラントの意思だ。まあ、ひと一人の命で多くの人が助かるのなら、というのは国家としてよくある話だと思うし、それは悪いことだと一概に言えないと僕は思っているんだよ。それでもね、政治家が自身の責任の下で下す決断ならわかる。その後、責任を取らなくてはならないことになったら、その政治家が責任を取るのだから、そういう政策だって有りだろう。しかし、あれには政治家以外の意図が働いている気がしてね...」

そう言ってバルトフェルドは言葉を切り、ハタと何かに気がついたように周囲を見渡す。

「コーヒー、飲むかね?何も出さなくてすまないね」

「ブレンドされていない、普通のを希望します」

がすかさず言うと

「んー、君の好みを研究してみたつもりだが...?」

「『戦姫』の好みと、・クラインの好みは違いますから」

がそう返すとバルトフェルドは肩を竦める。だったら、まだ研究できていない。

「では、何が良いかな?」

「カフェモカ。もしくは、カプチーノですかね」

「邪道だねぇ...」

そう言いながらものリクエストに答えるべく準備を始める。

「少年たちは、僕の豆に付き合ってもらおうか」

そう言ってバルトフェルドがコーヒー豆をブレンドし始める。

「ニコルも初めて?」

こっそり聞いた。

「え、ええ...」

すかさず断ったの行動が気になっていたニコルは躊躇いがちに頷いた。

「慣れるまで時間がかかるだけだろうから」

以前の逗留では日に5度以上コーヒーを受け取った。もちろん、食後のものを除いて。

当分コーヒーは要らないと思うくらいに。

毎回味が違ったのは楽しかったけど..正直ブラックはあまり好きではない。何より、コーヒーは口の中に香りが残るから好きではないのだ。

実家ではもっぱら紅茶だ。

「紅茶は残念ながらないよ。すまいね、研究不足で」

の顔を見たバルトフェルドが苦笑しながら言った。はばつが悪そうに視線を逸らして肩を竦める。

顔に出ていたか...


暫くして慌てたように兵士が部屋に入ってきた。

たちにコーヒーを配っているバルトフェルドが眉間にしわを寄せながら「騒がしいねぇ」と言って、少し離れたところで報告を受けた。

報告を聞いたバルトフェルドの表情が厳しいものになる。

「すまないね、。悪い情報しかここへ集まってきていないんだ」

厳しい表情のままそう言うバルトフェルドには頷いた。

現時点での世界の情勢では朗報なんてそんな簡単に転がっていないだろうから。









桜風
10.4.12


ブラウザバックでお戻りください