Polaris 23





とりあえず、悪い情報の報告が済んだ。

が疲れているだろうから、と難しい話はここまでとしてバルトフェルドが休むように促す。

実行犯の少年たちにも休むように言った。

彼らは部屋を後にした。

少し歩いたところで、は「あ、」と言って足を止める。

「どうした?」

「ちょっと、ごめん。先行ってて」

そう言っては廊下を戻っていく。

呆気にとられていたニコルたちだが、イザークがその後を追っているのを見て顔を見合わせて、同時にため息をついた。


「走るな、馬鹿」

追いついてきたイザークに目を丸くする。

「先に行ってて...」

「おとなしくの強がりに付き合うつもりはない」

そう言っての歩調に合わせてゆっくりと歩く。

「つらくないか?」

あれだけの傷を持っている体だから熱がある。

抱えたときに熱いなーとも思ったのだ。低体温だと以前笑っていたのに、と。

風邪なんて引かないコーディネーターは熱に慣れていないから、今の体調は辛いと思う。

「ああ、大丈夫。ちょっと重いだけ」

そう言うに向かってイザークは疑惑のまなざしを向けている。

は苦笑した。

正直、もう慣れた。

地球に降りて2〜3日が一番辛かった。精神的にも肉体的にも。

「そういえば、嬢は...」

「そいつの名前は口にしないでくれるか。吐き気がする」

酷い言いようだな、と思った。

「仮にも一度は婚約したのに...」

「仮、だ」

は肩を竦めた。

イザークがそう言うなら、これ以上は言うつもりはないけど...気がついたのかな、とちょっとだけ思った。

「ねえ、イザーク」

「何だ」

「婚約「だから、あの女の話をするなと言ってるだろう」

少し苛立たしげにの言葉を遮ってそういった。

ああ、やっぱり知らないのかな?

そう思って「ごめん」と返してお互い無言で先ほどまでいたバルトフェルドの部屋へと向かった。


ノックをしてが名乗る。イザークには部屋の外で待ってもらっている。

「忘れ物、かね?」

そう言ってバルトフェルドはが座っていたソファを見た。

何も置いていない。

「まあ、似たようなものです」

そう言ってはポケットから超小型のレコーダーを取り出した。

「今回の開戦その他諸々のヒントのようなものが詰まっていると思います。わたしは、軍人ではないので、どれがヒントでどの情報が戦争を終わらせるのに使えるものか分からないので、バルトフェルド隊長に判断していただきたいと思いました。24時間しか録音できないものなので情報としては少ないと思いますから」

の言葉に部屋にいたダコスタは首を傾げたが、バルトフェルドはそのレコーダーを受け取り、に向かって敬礼した。

「あなたの覚悟に」

は迷った挙句、返礼をした。

「ああ、でも。それは大勢で聞かないでくださいね。正直、恥ずかしいので」

笑顔で言うが痛ましい。バルトフェルドは頷いた。

「ダコスタ君と聞いてから、今後の動きを検討してみることにするよ。彼は、良いかね?」

「ええ、ひとりの意見よりもふたりの意見があったほうが良いですから。でも、ほかの人には内緒ですよ?もちろん、ニコルたちも含めて」

が言うとバルトフェルドは頷いた。


「隊長、それは...」

「『戦姫』の覚悟の現れだ。彼女が丁重に扱われていたと思うかね?」

バルトフェルドに言われてダコスタは少し黙り

「でも、一応今回の式が終わるまでは...」

と答える。

「彼女の右手を見たかね?」

「いいえ」

彼女はずっと手を重ねていた。左手が上になっていたので右手は見えなかったのだ。

「痣だらけだったのだよ」

「え、それって...」

息を呑む。

「ウェディングドレスにそこまで詳しくないがね。手袋を取るのは、たぶん左だけではないのかね?指輪の交換のときに」

待ってほしい。どういうことだ?

「そして、彼女はザフトの制服に身を包んでいたものの、スカートではなかっただろう?女性はたいていスカートだ。この基地の女性でさえ、そうだろう?」

態々パンツを穿いていることが示す意味。

それに気づいてダコスタは息が止まる。

「それを知っていて彼女は地球に降りたんだ。相当な覚悟を必要としただろうね」

そう言ってが持ってきたレコーダーを再生した。


流れてくる音には不快感以外の何も感じなかった。

部屋の中の話し声と共に聞こえる別の音。

だが、の悲鳴だけはなかった。

それに苛立つものたちが更に彼女に暴行を加える。彼女は、静かにじっと耐えていた。レコーダーは自分の髪に編んで忍ばせていたものだから、自分の声を最も拾う。重要な情報を拾えなくなるかもしれない。その一心でひたすらに耐えていた彼女。

そして、彼女の持ってきた情報にバルトフェルドはザフトに見切りをつけた自分の判断が間違っていなかったと確信した。

プラントは今、たった一人の男に弄ばれている。

どういうつもりで彼がそうしているのか分からないが、彼のために自分は命を懸けられない。

「隊長...」

絞るような声でダコスタが呼ぶ。

彼を見ると、彼の瞳は怒りに満ちていた。

「ああ、そうだね。戦姫の覚悟に報いよう」

バルトフェルドはそう返してレコーダーを切った。









桜風
10.4.26


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