| 翌日、は定期便に乗り込んだ。 の髪は黒に染めてあり、瞳の色もカラーコンタクトで青に変えている。 「黒にしたんですね...」 印象ががらりと変わった。驚いて呆然と呟くニコルには微笑んだ。 「男装もしてみようかと思ったんだけど...」 「ちょっと時間と手間をかけなきゃ難しそうだったからね」 アイシャが少しだけ残念そうに言った。 弄ってみたいとも思ったのだろう。 イザークはメガネを掛けており、カラーコンタクトを入れて緑色の瞳になっている。 アイシャは髪をひとつに結んでいるくらいであとはいつもとなんら変わりない。有名人ではないから偽装IDで身分を偽っているだけだ。ダコスタも似たようなものだ。 変装の必要がないのだ。 「気をつけていけよ」 憮然として声を掛けてきたのはカガリだった。 意外だと思った。 だって、あのバルトフェルドを毛嫌いしていたから、彼の知り合いの自分を見送るなどと誰が思うだろうか。 しかし、その隣に立っているウズミが連れてきたのかなとも思った。 何せ、彼女と自分は出生地が同じだから。 ある意味、同郷の友だ。 だが、カガリの様子を見るに、きっとウズミはそのことを教えていないのだろう。 それでいいと思う。それがいいのだ。 「ありがとう。カガリさんも」 「べつに、私は...」 彼女はこの国がどういう事態に陥りかけているのか何となく肌で感じているのだろうか。 そんな雰囲気があった。 「。君にこれを」 そう言ってウズミがディスクを渡してきた。 「何でしょう?」 「君になら、開くことができるだろうから」 そう言う。 中身が何かとか教えてくれない。 だが、開けば分かるのだろう。 は頷いてそれを荷物の中に入れた。 は見送りに来ていた友人たちをゆっくりと見渡す。なぜか昨日あったばかりの元地球軍のパイロットのフラガと艦長のマリューまでいた。 「みんなも、気をつけてね」 そう声を掛けてマリューたちには頭を下げ、定期便のゲートへと向かった。 ヘリオポリスに上がってすぐにファクトリーへ連絡を付けた。 準備が整うのに3日の猶予を求められてたちはそのままヘリオポリスに滞在した。 滞在中に情報収集しておけばいいことだから。 アイシャとは別行動をとっている。大勢で歩くのは目立つし、二手に分かれたほうが情報を多く拾える。 とイザークはヘリオポリスの中でもかなり賑わっている繁華街を歩いていた。 今日は休日で子供連れの家族が行き交っている。 「!?」 イザークは警戒の姿勢を示したがは振り返って「久しぶりね」と微笑んだ。 を見つけて呼びかけたのはアスランだった。 「イザークも!?何でこんなところに!!??」 頭の上にいくつも『?』が浮かんでいるアスランの表情が可笑しくては小さく笑った。 「とりあえず、わたしと彼の名前を連呼するのはやめてね?」 そう言って人差し指を自身の唇に当てた。 ああ、そうかとアスランも納得して頷いた。 『クライン』は現在絶賛指名手配中だ。 立ち話をするよりもゆっくり話ができるところに移動しようとが提案し、イザークはため息を吐いて了承した。 入ったのは近くのカフェで、テラスを選んだ。何かあっても逃げやすいように、だ。 それぞれが注文したものが届くまでお互い口を開かなかった。 ウェイターが去ってから「どういうことだ」と早速アスランが理由を問うてきた。 なぜ、ヘリオポリスに来ているのか。なぜ、プラントの近くに態々来ているのか、と。 「まあ、話せば長くなることながら...」 そう切り出してはロイヤルミルクティを一口飲んだ。 「いろいろあって。喧嘩を売られるだろうからその準備をしに、ね?」 端折りすぎだろう、とイザークは呆れた表情をに向ける。 「いや、端折りすぎだ」 アスランも同じことを思ったらしく彼は声に出して指摘した。 は肩を竦めただけで答えなかった。 アスランはそんなに苛立った様子だ。 「ところで、アスラン」 そんなことを気にせずにが声を掛ける。 答えないアスランの態度をスルーして「ラクスはあなたと話ができたかしら?」とそのまま話を続けた。 アスランは少し肩を震わせ、そして頷いた。 「そう。良かった。元気だった?」 「まあ、狙われていたけどな」 狙われているのは周知の事実だから気にしない。元気だったようだから、それだけで十分だ。 「は、何でここにいるんだ?」 やはり理由は気になるからもう一度だけ聞いてみた。 「この戦争にはね、さまざまな思惑が絡まっているの。それがちょっと厄介だから...絡まったコードのどちらかをブツンと切ってみようかなって思って」 「危険を承知でか?」 「そうねぇ。でも、どこに居たって危険よ。だったら、自分で自分の納得した道を選びたいわ。その先に絶望が待っていたなら、それは仕方ないとも思ってる」 そう言ってイザークを見た。 「まあ、巻き込んじゃって悪いなーとは思ってるけど」 イザークは大仰にため息を吐いた。 「俺だって選んでいる」 簡潔に不機嫌にそう言った。 「で、アスランは何を選んだの?」 が唐突にそういった。 「選ぶ...?」 聞き返すアスランには苦笑した。 「アスラン、あなたはこの先どうするの?直接その目では見ていないかもしれないけど、地球軍のアラスカでの戦闘。その後のパナマ。それ以前の戦姫の地球軍側との婚姻の裏にあった政治的な動き。 あなたはこのままお父様の命令に従ってナチュラルを殺し続けるのかしら?それとも、自分で選んで別の道を歩んで戦うの?あなたは、なぜ戦っているの?誰と戦っているの?ザフトの、アスラン・ザラ」 ドキリとした。 アスランは息を呑む。 先日、ラクスにも言われた。『ザフトのアスラン・ザラ』と。 その言葉が示している意味の正確なものは分からない。 だが、その言葉を受けて居心地が悪くて数日悩んだ末に少しだけプラントを離れたくてヘリオポリスにやってきた。 今、ザフトは体勢を整えている。 地球軍はすぐには宇宙に上がってこられないから少しだけ猶予があった。 アスランはクツクツと笑い出す。 とイザークは顔を見合わせた。 「ラクスにも、同じことを言われたよ。『ザフトのアスラン・ザラ』と。そうだな...オレはまだ選べていないと思う。だから、うん」 そう言ってアスランは立ち上がった。 自分も少し疑問を抱いていた。の婚姻のこと。 なぜ、という疑問符は消えずに心の中で澱のようにそこの方にその存在が消えずに残っていた。 の婚姻の日にプラントへのテロ行為、そしてプラントからのアラスカ総攻撃。 納得できないことが多いのは世の中の流れで仕方ないと思うこともある。けれど、それでもこの澱はこのまま消えずに自分の胸の中に滞り続けるのだろう。 「ありがとう、」 すっきりした表情でアスランは店を出て行く。 その際、伝票を持って出て行った。 「あー、えーと。どういたしまして?あと、ごちそうさま??」 は首を傾げながら既に声の届かないところまで離れたアスランの背に向かってそう呟いた。 |
桜風
10.6.21
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