Polaris 36





「さて、・クライン。いいえ、ジョージ・グレンの子ですから..・グレンかしら?」

「あら、記憶をぶっ飛ばされたのかしら?わたくしは、シーゲル・クラインの娘ですわ。遺伝子がどうこうって...とりあえず、わたくしの個人情報。誰が横流しにしたのかしら?」

の言葉にの表情が凍る。

「知っていたの...?」

「あなたがジュール家に示した遺伝子がわたくしのものということですか?ええ、存じておりましたわ」

にこりと微笑むに対しては憎悪の表情を浮かべる。

「譲った、というの?イザーク・ジュールを」

「イザークはモノではないわ。あ、口調いい加減疲れたからいつものに戻させてもらうけど。イザークが幸せだったら別に誰が婚約者であろうとどうでもいいことでしょう?わたしは、戦姫で戦場にも顔を出していたのだし」

イザークはをじっと見つめる。

頭の中がうまく整理できない。あの自分の対という遺伝子は、のものだと...?

「ふざけないで!今更綺麗ごと?!アンタ、そいつが好きだったんでしょう!!」

「ええ、そうよ」

さらりと言うは勿論、イザークとエザリアは目を丸くした。

あら、何かへんなことを言ったかしら?

そんな表情ではイザークを見た。

「じ、じゃあ何で!何であたしの存在を許したのよ!!」

「今言ったでしょう?イザークが幸せだったら、って」

「自己犠牲?それが美しいとかって浸ってる口?!はっ、チープね!!」

すでにエザリアを捕まえる手が緩んでいる。にはしか映っていない。

「チープ、というのはあなたの勝手な評価でしょう?まあ、自己満足には変わりないでしょうけど」

はそう言ってやれやれと首を振る。

は怒りに震えていた。

イザーク・ジュールを奪えばが屈すると思った。彼女が敗北を感じると思った。絶望すると思った。

それなのに...

ふと視線を滑らせる。

目に入ったのは呆然としているエザリア・ジュールの姿だ。

「こ、この人を殺すわ!」

既に当初の目的が何だったかが思い出せない状況になっているようだ。

は首を傾げた。

「で、わたしにどうしろと?」

はニィと笑う。勝利を確信したかのように。

「土下座して」

「土下座でいいの?」

さらりと返すに言葉を失った。

「あのね、さん。わたしは、必要だと判断したら知らない男と結婚することも選ぶのよ?必要なら、地べたに這い蹲るわよ?別に構わないもの。それが必要なのだから」

「アンタ、この女が憎くないの!?こいつよ!こいつがパトリック・ザラを説得してアンタを地球軍に売ったのよ?」

「まあ、そうねぇ。別に特に。言ったでしょう?わたしは自分で『選んだ』のよ?確かに、きっかけはエザリアおば様の説得だったかもしれない。でも、それを提案したのはあなたでしょう?それに、エザリアおば様にはオムツを替えていただいた恩があるし」

またそれか、とイザークはため息を吐いた。

「いいの!?それでいいの!!??この女は、あたしがナチュラルだって知らずに、あたしが示した遺伝子だけを鵜呑みにして。アンタを蔑ろにしたのよ。平気で!!」

の告白にエザリアの目が見開かれる。

イザークと婚約したこの娘が、ナチュラル?つまり、滅ぼさなければならない存在だったというのか?

それなのに、婚姻統制などという制度の下に他人の遺伝子を偽って示したナチュラルの少女と息子を婚約をさせた挙句、息子の愛している人物の命を『プラントのため』という大儀の下に売ったのか。

呆然とした。

「全く、素直で聞き分けのいい有力者って本当にいるのかしら、と思ったけど。楽だったわ。コーディネーターを至上のものとしているから、相手がコーディネーターだと安心する。本性を知らなくても信じられるなんてなんて能天気なのかしらね?息子も、母親想いでしたから、本当に全く。面白いくらいに騙されるから笑いをこらえるのが大変だったわ!」

高笑いしながら彼女がそう言う。


ギィと劇場の重い扉が開いた。

「おや、もう来ていたのか。・クライン」

「ラウ・ル・クルーゼ」

は呟き、初めてが警戒の姿勢を示した。

「お父様!」

が嬉しそうな声を上げる。

、よくやったな」

優しい声音でクルーゼが労う。

は目を細めて嬉しそうに微笑んだ。

「では、・クライン共々死んでもらおうか」

そう言うとクルーゼの部下だかが数人劇場の中に駆けてきた。

「お父様!?」

が声を上げる。信じられない、という風に。

「お前は、よく動いてくれた。だが、知りすぎたのもまた事実なのだよ」

「ご息女は?」

兵士の一人がクルーゼに声をかける。

「私に娘などはいない」

その答えに兵士全員が銃を構えた。

「お父様!?待って!お父様!!」

駆け出そうとしたの足元に誰かが引き金を引いて着弾する。

は駆け出してを抱えて崩れて落ちてきていた天井のブロックの陰に隠れた。

イザークも呆然としている母を抱えての隣に駆け込む。

「まさか、そいつを守る気か?」

「イエース。でも、どうしたらいいのかしら??戦場に赴いていたのは事実だけど、銃の扱いを誰も教えてくれていないのよねぇ」

のんびりとそう言うにイザークはため息を吐いた。

「10人、だったか?」

「えーと、クルーゼが引いたあとに2人入ってきたから12人。いける?」

「やるしかないんだろうが」

の隣で呆然としながら「お父様」と呟いているの手から銃を取り上げた。

「こいつの身体検査してくれ。まだ持っているかもしれない」

そう言ってイザークはその銃の残弾数を確認した。










桜風
10.7.26


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