| 部屋で休んでいるとブザーが鳴った。 「、少しいいか?」 その声でイザークの訪問だと理解した。 「どうしたの?」 ドアを開けて用件を聞く。 「母上が、と話がしたいといっているんだ。良かったら...」 言葉を濁すイザークには苦笑して「いいわよ」と請け負った。 イザークが一緒に行くといったが、はそれを断って一人でエザリアの下へと向かった。 ブザーを鳴らして「です」と名乗ってドアを開ける。 「落ち着かれましたか?」 が問う。 「..わたくし...」 は苦笑した。 「エザリアおば様。わたしは先ほども言いました。選んだのは『わたし』です。他の誰でもありません」 彼女の言葉にエザリアは顔を覆って涙を流した。 困ったな、とは頭を掻く。 すべて覚悟の上だったから誰かのせいにするなんて事思っていなかった。それを口にしただけなのに... 母の嗚咽が漏れ聞こえてきたのか、イザークが声をかけて入ってきた。 母の様子との表情を見て納得したイザークはに退出するよう促した。 「いや、でも...」 そう言ってエザリアを見るに、 「母上のことは、俺が」 と言う。 母に話しておきたいこともある。 だから、とを退出させた。 が出て行き、エザリアが落ち着いたところでイザークはエザリアの座っているベッドの前に椅子を置いて座った。 「母上」と改まった声で息子が言う。 エザリアは顔を上げた。 「先ほど、劇場でも言いましたが。俺はあなたをどうしても許すことはできません。彼女の幸せを引き換えにプラントを守ると言っていたが、結局はプラントを守るのではなく地球軍を攻撃するための時間稼ぎでした」 「でも、それは!」 それは、ひいてはプラントの平和の為だと言いたいのだろう。 イザークはため息を吐いた。そして、静かな声で問うた。 「どうしてあなたが誰かの幸せを奪えるのですか?ただ、政治家であるだけのあなたが。あなたは、地球軍に彼女を差し出せば彼女がどういう扱いを受けるか想像していましたか?」 人のことは言えないが、とイザークは付け加えた。 エザリアは俯いて黙り込む。 「今はほとんど跡は残っていませんが、彼女は地球に降りてからずっと暴行を受けていたようです。食事もろくに与えられずに... これは母上を責めてどうにかなるものとは思えないし、母上だけの責任とはいえません。守れなかったシーゲル殿だって責任がないとは言えないでしょう。もちろん、俺もです」 痛そうな貌をしてイザークはそういった。 「贖罪のつもりはありません。俺は、最初からこうしたかった。俺はこの先ずっとを守っていきます。愛してくださっているあなたには感謝しています。それでも、よりもあなたを選ぶことはできません」 長い沈黙が降りた。 暫く母の言葉を待ってみたが何も言いそうにないのでイザークは立ち上がる。 イザークが部屋のを出ようとドアに向かうと「には、」と背に母の声が届く。 振り返った。 「には、本当に...シーゲルのことも...」 そういえば、プラントではシーゲル・クラインは亡くなったことになっているのだった、と思い出す。 「シーゲル殿は生きていますよ。今のところ」 イザークの言葉に弾かれたようにエザリアは顔を上げた。 「生きて..?」 イザークは頷いた。 「が全て手配をして、プラントから救い出しました。ただ、あとはシーゲル殿の生命力しだいらしいのですが...」 イザークの言葉を聞いてエザリアは再び顔を覆って嗚咽を漏らす。 イザークは静かに部屋を後にした。 エザリアの部屋のを後にしては別室に向かった。 話をしてみたいとも思っていたのだ。 部屋の前には監視がいた。 「どう?」 監視は首を振る。 「何の反応もありませんね。様の指示通り、部屋の中のものは全て撤去していますが...」 自害させるわけには行かない。 そう思って前もってアイシャに指示していた。彼女もそれは心得ていたようだ。 「でも、様はあの娘をどうされるつもりですか?」 あなたを陥れたのに、と言外に言っている。 は苦笑した。 「わたしね、はめられたことは何一つないの」 そう言って部屋に入った。 「ごきげんよう」 が声をかける。 虚ろな瞳をしていたの目に光が差した。 「何しに来たの。あたしを笑いに来たの?はっ!笑えばいいわよ。愚かな娘だとね。信じた人に裏切られた、滑稽なピエロだと!!」 「まあ、笑ってあげてもいいけど。そう言うのに興味ないから。あなたは、これからどうしたい?」 「あんたを殺してやりたい。父親以外何一つ失わなかったあんたを!」 は顔の角度を変えた。 「あら、誰がこんなことを」 そう言ってはを拘束している手錠をはずした。 「アンタ馬鹿!?あたしがアンタを害すだろうからって、アンタを好きなやつらがこれをしたのに!!」 は笑う。 「何が可笑しいのよ!!」 「まあ、それだけ元気があったら大丈夫かなーって。劇場でのあなたは本当にどうしたらいいのか分からなかったし。連れてくるときも足を動かしてくれなかったから重かったし」 そう言ってはの目の前にすとんと座った。椅子もない。本当に何もない部屋にしてあるから。 「ご満悦でしょう?結局アンタは全て欲しいものを手に入れたわ。そして、あたしは全てを失ったわ」 「そうねぇ」とは適当に相槌を打つ。 「。あなたの欲しかったものは何?」 の突然の問いには目を丸くした。 そして、ポツリと呟く。 「家族。あたしを愛してくれる人」 「...そう」 は目を細めた。優しくに微笑みかけていた。 |
桜風
10.8.9
ブラウザバックでお戻りください