| の生まれは地球だった。 地球のある国の裏路地が自分の生活場所だった。 親は、自分を売り払ってとんずらした。 残された自分は店で働いた。 その店は自分と似た境遇の者たちが働いている。 はナチュラルにしては綺麗な顔立ちをしていた。 ある日、客が体を求めてきた。 その店はそういう客のニーズにも応えていた。自分の前に入っていた者たちの多くはそういう商売のほうにも借り出されていた。 は、客を殴って店からも逃げた。 店を出てから追われる日々を送った。 裏路地でも更に治安の悪い方と言われているそこしか自分が隠れて生活することはできなかった。 窃盗や詐欺を繰り返して生きていた。 犯罪を犯さなければ生きて行けなかった。 ある日、店の追っ手に見つかった。 殺される、と思った。 命まではとられないかもしれない。 それでも、体のどこかは失うと直感した。 そういうのが好きな客もいると昔店にいたときに耳にしていたから。 抵抗した際、骨を折られた。 もう、逃げられないと思った。 「待ちたまえ」 不意に知らない声が割り込んできた。 虚ろな瞳で見上げると、顔をサングラスで隠した男が立っていた。 店の追っ手たちはその男をすごんだ。 しかし、男は尻込みすることなく、店に交渉すると言ってきた。 自分を買いたい、と。 どう話を付けたのか分からないが、店は自分を手放した。 そして、自分を買いたいと言った男が傷の手当をしてくれた。 「名前は?」 男が聞く。 「」 「そうか」 その声がとても優しくて涙が出た。 男は、プラントの者だったらしい。 地球には少し用があって降りてきているとか。 「君には、私の娘になってもらう」 何を言っているのだろう、と思った。 「名は、そうだな。・ラ・クルーゼだ」 「おじさんの名前は?」 「おじさん、ではなく『お父様』と呼んでもらえるか?『ラウ・ル・クルーゼ』だ」 『父』という存在が突然できた。 戸惑うと同時に、何だか胸のうちが温かくなった。しかし、うまい話には裏があると言うのがの短い人生経験に於いて得た教訓だ。 「君には、私の復讐を手伝ってもらいたいのだよ」 分かりやすいと思った。 それなら、納得できる。 自分の顔立ちはコーディネーターでも通じる。だから、買われたのだ。 「復讐?誰に?」 「・クラインだ」 首を傾げた。誰だろう、それは。女性の名前だ。 「どういうこと?」 「まあ、そうだな。アレの父親がいなければ私はこんな人生を送らずに済んだのだよ」 何を言っているのか分からない。 分からないが、自分が人として生活できる場所が提供されると言うのだからその話に乗ろうと思った。 いつしか自分はその男を本当に父親として慕っていた。 最初は協力者として接していたつもりだったのに... 「お父様」と呼べば優しい声で返事がある。 憧れていたものが手に入った。 ある日突然父親に婚約をするようにといわれた。 「誰とですか?」 「最高評議会議員の息子、イザーク・ジュールだ」 そう言って写真を渡してきた。 凄く綺麗な顔立ちの少年だった。 プラント、というかコーディネーターは13歳で成人となる。だから、彼はもういい大人だ。 そして、もうひとつ渡された資料があった。遺伝子情報だ。 「何ですか?」 「・クラインの遺伝子情報だよ。本来なら彼女が彼の婚約者となる存在だった。プラントの婚姻統制を知っているだろう?」 クルーゼに言われた頷いた。 つまり、 「成り代わる、ということですか?」 「まあ、そうだな。君が、イザーク・ジュールと婚約をしてエザリア・ジュールに近づくんだ」 どういうことだろう、とそのときは分からなかった。 しかし、後に分かった。エザリア・ジュールの信頼を得て、・クラインを排除するように促すために自分はジュールの懐に入ったのだ。 けれど、自分にはそれ以上のものがあった。 決して手にすることができないと思っていた幸せ。それが、偽っているとはいえ、手に入るのだ。 父は自分を本当に幸せにしてくれる。 大好きだった。 イザーク・ジュールが・クラインを好きなのは薄々気づいていた。しかし、今のプラントではそれは叶わないことだ。 そして、・クラインもまた、イザーク・ジュールに好意を寄せている。同じ女の、彼を好きな者の目から見ればそれは一目瞭然だった。 勝ったと思った。 彼女はもう、イザーク・ジュールと結ばれることはない。 そして、イザーク・ジュールも母親が居る限りプラントを離れられない。 実際自分たちの企みを聞いた後もイザークは家に帰ってきた。自分と何度も唇を重ねて婚約者として接していた。 しかし、イザーク・ジュールはプラントを離れた。 許せないと思った。 ・クラインもイザーク・ジュールも。 父に頼んでエザリアを拘束した。 時間を置いて、シーゲル・クラインがプラントに居るという情報を掴んでザフトの回線全てにメッセージを送った。 愚かにも・クラインはやってきた。イザーク・ジュールと共に。 彼をもう一度取り戻そうとしたが、彼はのことを愛おしいと言った。彼女もまた同じようにイザークを好きだと。 全てが許せなかった。 父の人生を狂わせたという・クラインの存在が。 自分ではなく彼女を選んだイザーク・ジュールが。 しかし、その劇場で自分は全てを失った。父すら自分を要らないといったのだ。 愛情なんてものは自分にとっては所詮幻想に過ぎないものだった。 手にすることは許されない、桃源郷に浮かぶ月のようなものだったと思い知らされた。 |
桜風
10.8.16
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