| の語った彼女の過去には目を瞑る。 可哀想というのは彼女に失礼だと思う。 彼女は、必死に生きていたのだ。 そして自分の欲しいものに必死に手を伸ばしていただけなのだ。 自分にはできなかったそれを、彼女はやっていた。 羨ましい、と少しだけ思った。 諦めることを覚えて、次に周囲がどう動くかと考えて立ち回る。 の生き方はそれだった。 「ねえ、」 「気安く名前を呼ばないで」 はいはい、と思って1度咳払いをする。 「もう一度ラウ・ル・クルーゼと話をしてみたらどうかしら?」 「は!?」 「あなたが何を望んでいるか。彼のことをどう思っているか。言葉にしてはどう?あなたはわたしと違って何かを伝えるのが得意なのだから」 はそう言って困ったように笑った。 そんなには怪訝な表情を向けた。 「まあ、まだ命を絶つのは早いってことよ」 そう一言だけ残してはその部屋を後にした。 「遅かったな」 部屋に戻ると不意に声を掛けられた。 「...びっくりした」 呆然とは呟いた。 ベッドの上に腰掛けていたイザークが立ち上がる。 「生きていたか?」 どこに行っていたのか分かったのかイザークがそう言う。 「元気になったわよー。やっぱ、若さね」 笑いながら言うにイザークは半眼になった。 「いくつも変わらんだろう」 はいたずらっぽく笑った。 「家族が欲しかったんだって。愛情が、ね」 の言葉にイザークは興味なさそうに「へー」と相槌を打つ。 「気のない返事ね」 「興味がないからな。なぜ、なんていうのはな。あいつがしたことは、俺は許せない。まあ、がいいと言っているからそれ以上何かを言うつもりはないがな」 「それよりも」とイザークは話を変える。 「さっき、劇場であの女が言っていた事なんだが...」 は苦笑した。 「座って」と椅子に座るように促し、紅茶を淹れる。 「わたしの遺伝子上の父親は、ジョージ・グレンよ。精子を冷凍保存していたらしいわ。そして、母親は..お金に困っていた女性だって。卵子と子宮を提供してその見返りに報酬をもらったそうよ」 あまりにも衝撃的なことだった。 「待て、待ってくれ」 イザークは暫く目を瞑っていたが「どういうことだ?」と言葉を口にした。 「わたしは、造られた命なの」 がさらりと口にした事実にイザークは目を見開いた。 「ラクスとは...」 「血の繋がりは全くないわね。そしてね。ラウ・ル・クルーゼも造られた命だったのよ」 更なる衝撃の事実にイザークは情報を処理しきれなくなった。 「待ってくれ。クルーゼ隊長も...?」 は頷く。 「ではなぜ、の父親..ジョージ・グレンを憎むんだ?造られた命というなら...」 を同じではないか、と言う。 は首を振った。 「彼は、クローンなんだって。ただ、クローンを造るのに問題は山積みでしょう?」 「クローン?!だとしたら、テロメアの問題はどうなっているんだ?」 あれに関して、問題が解決したというニュースは耳にしていない。 それに、クルーゼは今25だったか... ということは、彼が造られて今どれくらい経っているというのだろうか。現在その問題が解決されていないのだから、過去に造られたとしたらそれこそ今以上の問題があったのではないだろうか。 「それは、解決できていない問題でしょうね。だから、ジョージ・グレンが憎いんでしょうよ」 「すまない、混乱してきた。クルーゼ隊長は、クローンで、はジョージ・グレンの遺伝子を継ぐんだよな。だったら、どうしてジョージ・グレンが憎いんだ?」 「造られた命と言うのはね。他者よりも優秀であるように、ということが目的なの。クルーゼもそういう目的で作られた。 ジョージ・グレンが居なかったらそもそも命を『造る』なんて事はなかったと、彼は言いたいんじゃないかな?わたしも、まあ..そう思うし」 ジョージ・グレンはすばらしい技術だといって紹介したに過ぎない。少なくとも、彼の中では未来にこんな戦争が起きるなんて思っていなかったのではないだろうか。 「迷惑な話よね」 が呟く。 「じゃあ、クルーゼ隊長は...」 「自分を『造った』人類全てが憎いのでしょうね。だから、ナチュラルとコーディネーターの間の戦争を煽っている。共倒れになればいいと思っているんじゃないかな?」 そう言っては紅茶を一口飲む。 「ねえ、イザーク」 が口にする言葉が何となく予想できたイザークは不機嫌になった。 「わたしも、造られた命なんだよ」 「だからどうした。はだ。父親が、シーゲル殿だろうとジョージ・グレンだろうと・クラインはお前で..俺はお前が好きだよ」 は俯く。 涙が頬を滑り落ちた。 「でも、わたし。穢れてるんだよ」 が搾り出すように呟いた言葉を耳にしたイザークは椅子から立ち上がる。 膝をついて「」と優しく声をかけた。 少し、顔をイザークのほうに向ける。 「は、穢れてなどいない。誰もお前を穢せない。1度で受け入れてもらえないなら何度でも言おう。俺は、が好きだよ」 はイザークに抱きついた。「イザーク」と何度も愛しい人の名前を口にしながら声をあげて泣く。 ずっと一人で戦っていたは、イザークのただ一言で全てを赦された気がした。 「」 イザークがを少しだけ体から離した。 目にしたその顔は、いつも余裕を浮かべているそれではなく、子供のように泣きじゃくった、お世辞にも美しいとはいえない顔だった。 だが、それが・クラインの素顔だ。愛おしさがこみ上げる。 イザークは苦笑しながらの目元の涙を掬った。 「キスしていいか?」 の瞳から再び涙がこぼれる。 頷いたにそっと唇を寄せた。 |
桜風
10.8.23
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