Polaris 43





出航してすぐにクルーがを呼ぶ。

ブリッジのシートの座っていたは床を軽く蹴ってそのクルーの隣に立った。

モニタに表示された情報を見て「んー」と唸る。

「どうした?」

イザークが声をかける。

「んー、そうね。艦長。メンデルに行く前にちょっと寄り道しても良いですか?」

の言葉に艦長は少し驚いた表情を浮かべたが、が口にした理由を聞いて「わかりました」と頷いた。

「では、久しぶりに戦姫のお目見えといきましょうか」

不敵に笑ってはそう宣言した。



プラントから一隻の戦艦が遠ざかっていく。

しかし、その戦艦に向けてMSが銃口を向けていた。

ミサイルがブリッジに直撃する。

クルーは覚悟を決めたが、そのミサイルはブリッジに着弾する前に撃ち落とされた。少し離れたところにMSが4機ザフト軍に銃口を向けていた。

「どういうことだ?」

ブリッジに座っているバルトフェルドが問うとクルーは「わかりません。所属不明の小型艦が1隻。MS4機」と応えた。

「お姉さま!」

ブリッジにのシートに腰を下ろしていたラクスが勢いよく立ち上がる。

「は?」

クライン派に助けられて同じくこの艦でプラントを脱出したアスランが頓狂な声を上げた。


「わたくしは、・クラインです。ザフトの皆様、今すぐその銃をおろしてください。あなた方は何を思って何と戦うのですか」

プラントではは死亡したと報じられていた。そして、の死の原因は地球軍にある、とも。

イザークたちが攫っていったことは伏せられていた。

クラインの指名手配となった原因は、飽くまで『情報漏えい』であり、スパイだったということになっている。そのため、指名手配はシーゲルとラクスのみに掛けられてた。

戦姫を謀反人に仕立て上げるのはさすがのザラでもできなかった。彼女のザフト内での支持の高さが予想以上のものだったからだ。

だから、特殊部隊は極秘裏にを拘束するように命じられていたらしい。


ラクスの乗艦しているザフトの新造艦エターナルを包囲していた兵士たちの間に動揺が広がる。

『戦姫は死んだ。戦姫の名を騙るテロリストの言葉に乗せられるな!』

ザフト側の全機に向けられた回線の音声を拾った。

はクルーに指示してモニタに自分を映す。

「どなたが、わたくしを殺したのですか?どなたの言葉がわたくしの死を皆様にお知らせしましたか?」

モニタに映る戦姫。

ほとんど顔を出さない戦姫は、しかしザフトの中では憧れの存在で。そして、ザフトではラクス・クラインよりも有名で、危険を顧みず戦場に慰問に訪れるその姿勢に兵士たちは憧れ、慕った。

今モニタに映っている彼女の髪は短くなっているが、それでもこの顔とこの声はプラントに居るザフトの兵士なら知らない者はない。

の存在に周囲が動揺している間にエターナルは戦域を抜けた。

通信でメンデルで落ち合うことを告げており、メンデルの座標も送っている。

エターナルが逃げ切ったことをやっと気がついた隊長が回線を開く。

『お久しぶりですな、戦姫』

ああ、見たことあるなぁ...

はそう思って戦姫の笑みを浮かべた。

「ごきげんよう」

『貴女は『ザフトの』戦姫だ。こんなことをされては非常に困る』

睨む隊長の視線をさらりと流して、は微笑んだ。

「そうですか。ですが、わたくしはここで一度も『戦姫』を名乗った覚えはありませんわ。それでも、『戦姫』と認めてくださったのは皆様のほうです。そして、わたくしは今のザフトの戦争のあり方を支持して、皆様を鼓舞することはできません。あなた方のために舞う舞はありません」

そう言ってちらりと艦長に視線を向ける。

艦長は頷いた。

「ごきげんよう」

はそう言って通信回線を切り、ポラリスはそのスピードを生かして戦域を脱出した。









桜風
10.9.13


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