Polaris 46





は部屋の入り口まで後退した。

少しでも逃げやすいように。

正直、現役軍人とやり合おうなんて全く思っていない。

「おひさしぶりね、ラウ・ル・クルーゼ隊長」

構えた銃を下ろしては挨拶をした。

の行動にクルーゼは面白そうな表情を浮かべる。

「故郷が懐かしくなったのかね?」

「さあ、どうでしょう?貴方こそ、ここは忌まわしい場所なのでは?」

の口ぶりから自分の正体を知っていると推察したクルーゼはコツン、と靴音を響かせて一歩近づく。

一歩下がろうとしたはそれでも踏みとどまった。

その行動にまたしてもクルーゼは面白そうに口元を緩める。

「逃げたほうが良いのではないかな?護衛も付けずにここまで来て。君は守られるだけの『姫』なのだから。それとも、忌まわしい人類の犯した罪を隠したくてひとりでやってきたのか?」

クルーゼの言葉には少し考えて「そうかもしれないわね」と肯定した。

「でも、仕方のないことよ。人が欲望を持つことなんて」

の続けた言葉にクルーゼは不快に口元をゆがめた。

「我々はその人類の醜い欲望によって生まれた。造られた命なのだぞ!他者より強く、他者より賢く、他者より優越であるために造られたモノだ!それを示したジョージ・グレン。それを許した人類。そして、それを今でも愚かにも求め続けている人類。お前はそれを許すというのか、ジョージ・グレンの遺伝子を継ぐお前が!!」

クルーゼの言葉にはため息を吐いた。

「許す、というか...でも、生まれちゃったんだもん。生まれてきた以上、それは造れたものでも、生まれたものでも命は命だし...第一」

そう言って言葉を切って深呼吸を1回。

「欲望上等。それって別の名前では『夢』というのだから。あのね、夢なんて口に出したもの勝ちよ!!
遺伝子が何でれ、わたしはわたしだし、父親はシーゲル・クラインよ。この体を構成している細胞組織よりも、抱きしめてくれた人こそが親だわ」

の言葉にクルーゼは笑う。

「愚かだな。それほどまでしてそうやって甘い言葉で自分を縛る『家族』というぬるま湯に浸かっていたいのか?キミは私と同じだ。ただ、実験を行った末に生まれた『結果』という価値以外何もない。得たかった結果ではなかったのだよ、キミも私も。
そして、繰り返して続けた実験の結果、人類が求めた最高のコーディネーターは君が生まれてすぐに造られた。我々は、要らない失敗作だったのだ」

クルーゼの言葉には「かわいそうな人」と呟く。

「ねえ、ラウ・ル・クルーゼ。貴方はアル・ダ・フラガのクローンとして生まれたのよね?」

「『造られた』、だ」

は構わず続ける。

「でも、貴方にも『友人』と呼べる存在が居たはずよ。そして、『娘』と呼んだ子も。
貴方は友達や、自分の子として形だけでも愛したものの命まで奪うの?そんな権利は貴方ににはない。いいえ、誰にもないものよ。
生まれてきてしまったものは仕方ないのだから、あとは自分で自分の人生を歩んでいくしかないじゃない。それは、この世に生まれてきたもの全てに言えることでしょう?それがたとえ、自分たちのように造られた命であっても、それはどの命でも同じなのよ」

あまりにも堂々とそう言い切るにクルーゼは思わずひるんだ。

言葉と同じく、瞳に迷いがない。

そして、その瞳を直視して思い出した。

何の疑いもなく自分を慕ってきた少女のことを。

自分の復讐に利用するためだけに助けた少女。

彼女もそれを理解しているはずなのに、時々まっすぐ自分を見つめてくる。

「お父様」と嬉しそうに偽りの家族である自分を呼ぶ。

彼女の名前を呼べば笑顔で応える。

時々錯覚することがあった。

復讐のための道具だから、それが失われると自分の計画が狂うから。

そう自分に言い訳をして彼女に見よう見まねの愛情を注いだこともある。自分が触れることが出来なかったそれは与えるのはとても難しかった。

自分の体のことを心配して薬を作ってくれた友人がいた。

彼にそれとなく相談してみたら、色々と察してくれてアドバイスをくれた。娘へのプレゼントなど。

復讐が終わったら殺してしまうはずの少女だったのに...

アプリリウスの劇場を去るとき、なぜか胸が痛んだ。

理由は分からない。

否。分からないのではなく、分かるのが怖かった。


別の足音がしてクルーゼはハッとした。

の言葉のせいで少し過去を思い出していたから反応が遅れた。

遅れたが、同時に改めて人類の愚かさを目にすることになった。

「よくよく人と言うのは愚かなものだ...」

クルーゼの呟きは彼女まで届かなかった。









桜風
10.10.4


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