Polaris 48





外で車のブレーキの音がして子供たちは嬉しそうに外に出る。

姉ちゃん!」

子供の一人が手を振った。

「先に行ってていい?」

が運転席に居るイザークに声をかけた。

「足元には気をつけろよ」

そう返したイザークに頷いてはゆっくりと車を降りる。

建物からラクスが出てきた。

「お姉さま!」

駆け足での元へと向かって手を差し伸べる。

「大丈夫ですか?」

「はは、もう慣れたよ」

笑って言うにラクスは少し悲しげに目を伏せた。



あの後すぐにキラとフラガがやってきた。

クルーゼはイザークが撃った銃で仮面を落としていた。

その顔を見たフラガとキラは驚いた。

イザークは元々からクルーゼの話を聞いていたのでそこまで驚かなかったが、それでもやはりから聞いた話が目の前で証明されたことには驚いた。

しかし、そんなことはどうでもいい。

今はだ。

「キラ、こいつを連れて帰ってくれ」

イザークが『こいつ』と言ったのはだ。が守ろうとした命だ。の命を二度も奪おうとしたことは許しがたいが、それでもはこうして彼女を守ろうとした。赦しているのだ。

「う..うん」

キラの返事を聞いてイザークはに止血の処置を施して抱き上げてその場を後にした。

ポラリスに連れて帰っただったが重篤な状況だった。

だから、ポラリスは急遽をファクトリーに連れて行くために出航した。

イザークはあの施設の説明や、プラントが向かわせられている未来についての代わりに説明するために残った。

そして、そのまま何度か戦闘を繰り返して停戦合意という一区切りを迎えた。

はあの大怪我を負ったことが原因で視力を失った。と、言っても右側だけで済んだのは不幸中の幸いと言うべきだろう。

「世界を失ったわけじゃないでしょう?」

は笑ってそう言った。

は心が壊れたまま、地球に降りた。

が負傷したため、代わりにラクスが『戦姫』として戦争の終結に尽力した。

しかしラクスはそのままプラントに残ることをせずに地球に降りることを選んだ。沢山の『死』を目にした彼女もまた、心が疲れたのだろう。

だから、を連れて降りるように頼んだのだ。

地球ではマルキオが孤児院のようなことをしており、ラクスはその手伝いをするようになった。オーブ出身のキラも地球に降りてラクスと共にマルキオを手伝うことにしたと聞いたのはラクスが地球に降りた少し後だった。

父も結局プラントに戻ってこなかった。

プラントに上がればまた忙しくなりそうだから、とが帰ってこないように説得したのだ。



ラクスの手を借りてゆっくりと階段を下りる。

家の中に入ると懐かしい顔ぶれが揃っていた。

「お久しぶりです、お父様」

すぐに父の前にいって挨拶をする。そしてその隣に座るマルキオにも挨拶をした。

「半年振りか...元気か?」

「ご覧のとおり」

は両手を広げてそのままくるりとターンをした。

「あぶないぞ」

車を止めてやってきたイザークが家に入るなりそう言う。

「イザークってば口うるさいんです」とこっそりと父に訴えると「聞こえてるぞ」とイザークが不機嫌に言う。

は肩を竦めて笑った。

「ねえ、姉ちゃん」

「はいはい?」

子供たちに囲まれてはゆっくりと父たちから離れる。

「すまないな」

挨拶に来たイザークにシーゲルが声をかける。

「いいえ。子供のときからの付き合いですから『いい加減慣れた』、と言わないといけないでしょうね」

苦笑しながら応えたイザークは改めて挨拶をした。

子供たちと食事を終えたは片付けを手伝おうとしたら子供たちに手を引かれて浜辺へと連れて行かれた。

ラクスは慌ててその後を追う。

子供たちはのことが好きだが、好きすぎて無理をさせかねない。



窓の外のと一緒に居る少女が目に入った。少女と言うにはもう体は大きい。

だが、心は...

は、どうだ?」

キラに問う。

「んー、まだかな?けど、あの子はこうやってやり直したほうがいいのかもしれないよね。まっすぐな愛情を受けてこれからゆっくり育っても良いんじゃないかって思うんだ。ラクスにもかなり懐いているし」

しかし、がやってくると一番彼女に懐くのはだ。

命を失いかけているその瞬間までに愛情を示した。

「そういえば、こちらでもニュースになったぞ」

不意にシーゲルに言われて何のことか少し悩む。

「婚姻統制を廃止するらしいじゃないか」

それを聞いてイザークは苦笑した。

は現在最高評議会議長に選ばれて議場に立っている。

数ヶ月前の定例議会では婚姻統制の廃止を提案したのだ。

勿論、議員たちからは正直反対や困惑した声が多数上がった。

しかし、はあの『戦姫』と呼ばれていたときの凛とした声でこう言った。

「恋は、遺伝子でするものじゃないと思います」

毒気を抜かれた議員たちは呆然とした。

の専属護衛となっているイザークも思わず脱力のあまり膝をつきそうになった。『慣れ』というもので、何とか耐えたが。

「命は、造るものではなく、生まれいずるものです。第一、好きでもない人の子供を欲しいと思いますか?」

言っていることは学識や根拠のあるものではなく、何かの統計に基づいての理論ではない。ただ、感情を口にしているだけだ。

だが、そのまっすぐな感情が届いたらしい。

今はまだ廃止は決定事項となっていない。

廃止した結果、どうなるかと言う統計やその代替案などの検討が必要になるが、それでも考えるに値すると思われたようだ。

不思議なものだ。


再び視線を外に向ける。

はくるりとターンをしていた。

先の戦争中に彼女は沢山負傷した。だから、『戦姫』と呼ばれていた時のように滑るようには舞えなくなった。

しかし、今のの舞は生きる喜びと、希望を表しているような伸びやかなそれだった。

自分にとって常に道を示していたポラリスは、いつしか多くの人々にも道を示している。

「ポラリスと言ったら、動かないから道標になるというのに...」

ポツリと呟いたイザークの不満そうなひとことが耳に届いたキラはクスリと笑う。

確かに、は自由でじっとしていそうにない。

イザークの苦労が目に見えるようで、それでも今のイザークの表情がとても暖かいものであることに気がついたキラは目を細めて微笑んだ。









桜風
10.10.18


ブラウザバックでお戻りください