HAPPY BIRTHDAY





「まったく...」

ぶつぶつと殆ど照明が落ちたドッグでは呟いていた。

目の前には約18メートルの巨大な人型兵器、MSが聳え立っている。

腕時計を見た。

すでに23時を過ぎている。

はぁ...

もう諦めた方が賢明だろう。ズルズルと想いを引きずってもどうにもならないことはこの世にたくさんあるはずだ。

部屋においている両親からのプレゼントだと思われるものを思い浮かべて、そしてまた溜息をついた。


何を隠そうは本日、無事に誕生日を迎えた。

あんまり『無事』ではないことがとても残念だが...

現在、自分が担当しているMSの調整を行っているのだ。

先日、このMSは大破した。

はっきり言ってそのパイロットであるラスティ・マッケンジーは絶望的だと思っていた。しかし、彼はボロボロのMSと共に帰ってきて、さらに思いの外ピンピンしていた。

「いやぁ、死ぬかと思ったよ」

ハッチを開けて転がるように出てきたその瞬間、彼はそう言ったのだ。

と、言っても。本人も無傷というわけにはいかず、さらにMSは損傷が激しかったためMSは本部へ送られることになった。

代わりのMSを寄越せば良いと思った人が多いだろうが、このMS自体が量産型ではないのでそういうわけには行かない。

まあ、パイロットの負傷が治るくらいには戻ってくる予定だったので、そのままパイロットも休ませたというワケだ。

人材も潤沢ではないというのに...

そして、の誕生日である本日。

両親からの誕生日プレゼント共に、担当をしていたそのMSが戻ってきた。

まあ、パイロットも元気になってるみたいだし、そろそろ働いてもらわなくてはならない。

調整だけだからすぐに終わると踏んでいたが、意外にも苦戦して今の時間。

部屋においている両親からのプレゼントの中には手紙も入っていると思う。自分が見る前に他人が見ていると思うと少し面白くないが、それはそれで仕方ないので諦める。でも、早くみたい!

そういえば、同期たちがメールを送ってくれているはずだ。

それも今日中には確認できない。

ああ、もう全く...!


コツコツと靴音がドッグの中に響いた。

「あれ〜?」

聞き覚えのある声。

覚えるまでもなく、ほぼ毎日聞いているが...

「どうしたの、こんな時間まで。っていうか、此処にいたんだねぇ」

のんびりという。

「ええ、誰かさんが大破させたMSが帰って来たので」

「ははっ。いやぁ、でも直るもんだねぇ」

「自分の体?」

の言葉に彼は苦笑した。

「まあ、うん。こっちも。死ねないでしょ、簡単には」

当然だ。簡単にあっけなく死なれてたまるものか!

「で?何しにきたの?」

今の口ぶりではこのMSを見に来たわけではなさそうだ。

「うん、探してた」

「わたし?!」

何の用だろう。

は首を傾げてラスティを見上げた。

ふとラスティは自分の腕時計を見て「やばい」と小さく呟く。

「おーい」とが声をかけると自分のポケットを数箇所たたき、そしてその行動は何の意味があったのか聞きたくなるくらい関係ない行動に出た。


...待て。

は心の中で呟く。

目の前のラスティはまたしてもポケットを探っている。

今、君は何をしたのか分かりやすく説明しなさい。

とりあえず、自分が目にしたものといえば、突然のラスティのドアップくらいだった。

おでこを擦る。

何となく、まだ感触というかそういうものが残っている。

「あった!」

目の前のラスティはやっと目当てのものが見つかったのか、それを高らかに掲げて声を上げた。

「何を探してたの」

「これ」と言っての手を取る。

の掌にコロリと転がったのは飴玉だった。

「なに?」

「2分過ぎちゃったけど、誕生日おめでとう」

言われて自分の腕時計を見た。確かに、日付が変わって2分過ぎている。

「どーも」と返したが、にとって少し居心地の悪い空気になった。

さっきのは、うん。なかったことにしよう。

「さっきのはどうしても誕生日にプレゼントを渡したかったから。ビックリした?」

『さっきの』とラスティが言ったそれはたった今が『なかったことにしよう』と思った行為のことだろう。

ビックリどころではない。『とても』ビックリした。

少し悔しくてはついと目を眇める。

「...あれが誕生日プレゼントになると?」

「もちろん!レアだよ?オレからキスとかするのって」

その行為をズバリ何の照れもなくいうラスティに脱力しつつは「どーもありがとー」と返した。

「いつでもリクエストしてね。ならどこにでもキスしてあげる」

ニコニコと笑いながら言うラスティに向かっては俯いたまま手を振って戻れと言う。

本当にこの人は何をどう考えて発言をしているのだろうか...

視界に入っていたラスティの靴も見えなくなり、靴音もそれなりに遠ざかったところでは顔を上げた。

脱力したのはもちろん、正直顔を見られたくなくて俯いていたのだ。

ー!ラビューン!!」

ドッグの入り口で彼はそう言って投げキッスをしてきた。

「早く部屋に帰って寝なさい、ばか!」

「はははー。おやすみー」

何だかとても悔しくては掌に握り締めていた飴玉を包みから乱暴に取り出して口の中に放り込んだ。

「くそー」と心の中で呟きはしたものの、疲れた体にちょうど良い甘さがこれまた悔しい。

悔しいはずなのに、結局自分が笑顔になっていることに気が付いては苦笑し、ラスティのために、というわけではないがもう一仕事頑張ることにした。




お誕生日おめでとうございますで、チアキさんへ





桜風
10.1.10執筆
10.1.31掲載


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